三 最悪な婚礼 二
「侯爵諦めろ!」
「・・・そこをどけ」
「その女性を離すんだ」
「そこを退けと言っている!この女がどうなっても良いのか!」
「だ、旦那・・さま?」
首を絞められているせいで上手く声が出ない。
一体何が起きているのか・・私まで捕えられてしまうのか・・
(それも良いかも知れない・・)
侯爵と軍人たちは怒鳴りあっている。
私は侯爵に羽交締めにされたままジリジリと後ろへと下がる。上手く動かずにいると容赦なく首が締め付けられた・・
(結局ここでも私は必要とされなかったのね・・)
と諦めた瞬間、侯爵の頭が私の頭に当たった。
その時になぜか侯爵の考えている事が頭の中に流れてきて
(少しでも隙を作るんだ。まだアイツは来ていない。だったらこの女を盾にして後ろの隠し扉から・・)
アイツ?
後ろの隠し扉?
突然侯爵の声が頭に入ったその瞬間、侯爵は私を軍人の方へ蹴り飛ばした。
私は思い切り腰を蹴られ軍人たちの方へ飛ばされたその瞬間・・
「侯爵が後ろの扉から逃げます!!」
と、叫んでいた。
私は軍人さんの足元へ倒れ込むと同時に、ものすごい勢いで火柱が目の前を通り過ぎた。
が、倒れたと思った私は何かの力に守られるように浮かんでいる。
それはとても温かい
「風?熱?」
「うわぁぁぁ、や、やめろ!俺を誰だと思っている!誰の命だ!」
私は軍人さんに起こされると侯爵の方に目を向けた。
そこには細身なのにがっしりとした身体つきの軍人が、腰を抜かした侯爵を見下ろしていた。
「皇女殿下の命にて、相良殿を拘束しに来た。残念ながら貴方はすでに侯爵にあらず。大人しく拘束されろ」
「火ノ川の倅が・・」
「どうする?大人しく拘束されるか、火だるまになるか・・」
そう言うと火ノ川と呼ばれた軍人は、とても綺麗な炎をその手から出した。
元侯爵はその炎を見て顔色を悪くしたが、なぜか私にはとても美しく温かい物に見えた。
侯爵は諦めたように目を伏せた・・が、突然私の足元から木の枝が伸びて私に巻きついた。
相良家は木の使い手だった。
「くっ・・くるし・・」
木の枝に巻かれた私は天井まで持ち上げられ、まるで見せしめにするかのように身体を締め上げられる。
元侯爵はいやらしい笑いをしながら立ち上がり、静かに隠し扉へと下がる。
私を囮にして逃げるつもりだ!
「グッッ・・」
息が出来ず意識を手放すその時、一瞬にして枝は焼き払われた。
私はそのまま下へと落ちていく。
もうダメだ・・
と思ったのと
ギャァァァ!!!
と、元侯爵の叫びが重なった時、私は温かな腕に抱き止められたまま意識を手放した。
目を覚ますとそこは見覚えのない天井が視界に入った。
どうやら病院らしいその部屋は個室で、窓には格子が・・
(ここは、軍人病院かしら・・)
起きあがろうとしたら身体中に痛みが走る。
木の枝に締め上げられた時のものか・・私は諦めて目を瞑った。するとドアが開く音がして人が入ってくる気配があった。
私は無意識に寝たふりをしてしまい・・
「まだ目を覚さないか・・」
「ええ坊ちゃん。精神的なものが強いのだろう・・と小暮先生は仰っていました」
誰?男の方と年配の女性・・かしら?
目を開けた方が良いのかしら・・
そう悩んでいる間に二人はまた部屋から出て行ってしまった。タイミングを逃した私は静かに目を開け、またドアの方へ顔を向けた。その時一人の年配の女性が入って来て私と目が合った。
「まぁ目が覚めましたか?痛むところは?お水飲みますか?」
「すみま・・せん、おみずを・・」
声を出そうとしたら喉が詰まってしまい上手く声が出せなかった。
女性は私の身体を起こすと水差で水を飲ませてくれた。
「ありがとうございます。あの・・ここは・・」
女性は私をまたベッドへ寝かすと布団を掛けながら
「ここは軍人病院ですわ。その・・貴女さまは巻き込まれてしまって・・覚えていらっしゃいますか?」
「少し・・」
女性は頷くと
「怪我が治るまではこちらでお休みくださいね。御用の際はこちらを鳴らしていただければ顔を出しますので」
そう言い残して部屋を出たのは フミ と名乗るある屋敷の使用人だった。
まだ詳しい現状を把握できないまま私はフミさんの言葉に甘えてその日から五日間、軍人病院へ入院した。
もちろん入院中に野上の人間が見舞いに来ることもなく、顔を出すのはフミさんとあの日私を助けてくれた軍人さんたちだった。
もちろん私の事は調べられており
「災難だったね!」
と言われたが、風見良一さんは 敢えてその日を選んだ とハッキリ言った。
同僚の 土守久元さんが話し始めた内容は
「どこからか相良が結婚式を挙げると話が舞い込んできたんだ。もともと裏でその・・若い女性を・・ね。君も感じたでしょ?結婚という名で女性縛り付けて男たちに廻す。君はそれを知って相良に嫁いだの?」
私は真っ青になりながら頭を横に振った。




