二 最悪な婚礼 一
相良邸に到着すると屋敷からは三人の使用人が出迎えてくれたが、わたしが着ている白無垢を見て怪訝な顔をした。
それはそうだろう、主人の侯爵家に嫁ぐ女が木綿の白無垢を着ているのだ。
それでも私に対してはそれなりの礼をしてくれ、運転手に心付を渡していた。
私は若い運転手に軽く頭を下げると、使用人に手を引かれ屋敷の中へ入っていった。
案内された部屋は日当たりの良い広い部屋だった。が、襖の向こうからは明らかに私への不満の声が囁かれている。
みすぼらしい
主人をバカにしている
子爵家風情が・・
化粧もされていない不細工
極めつけは
あの白無垢は無いわぁ、平民でももう少しマシな白無垢を着ているわ!と・・
私は下を向き涙を堪える。
泣いても仕方がない、ここでも私の味方など居ないのだから・・
夕方になりいよいよ式が始まると、本日の介添人がやって来た。
私よりも十歳ほど上の女性で、とても品のある可愛らしい方だった。
私はその方に手を引かれ会場まで歩いていると
「かわいそうに・・貴女も私と同じ人生を歩むのね」
聞き間違いと思いその人の顔を見る。
悲しみと喜びと憐れみの、複雑な顔をしていた。
「こんな事を今話す事では無いけれど・・私は貴女の前に相良の妻でした。年齢が・・ね、あの人の興味を削いだの。子も出来なかったのも原因ね」
でもね・・と続けた言葉はとても信じられないものだった。
「今夜、無事に式を迎えられると良いわね・・」
「あの、それは・・」
「着きましたわ。貴女の幸せを祈っていますわ・・どちらに転んでも」
女性の言葉が気にはなったがそのまま会場に入ってしまい、それまでとなった。
相良家当主の結婚。それにしては参列者が少ないなと感じた。
身内では無いのは肌で感じる。
私を見る目が・・異様だったから。
今度は彼女か
またえらい若い娘を・・ああ、野上の娘か
そろそろ後継を設けないとなぁ・・
次はいつ下げられるかな
気持ち悪い。
ここに集まっている人たちは侯爵の趣味を知っていて、次の生贄を見に来た人たちだった。
私は込み上げる吐き気を止め堪える。
正面に座らされると品定めをしてくる視線に気付かないよう下を向くと、主人となる相良侯爵が入って来た。
私は頭を深く下げ侯爵が来るのを待つ。
「お前が野上の娘か」
「は、はい。野上清子と申します」
「・・・上の娘か」
チッと舌打ちが聞こえ、ああやはりこの縁組は妹の春子に来たものだったのか・・と思い知らされた。
祝宴は進み、侯爵と列席者は飲み食いを始める。
そういえば朝から何も口にしていないわ・・
昼前に侯爵家に到着したが白無垢が汚れるからと何も出してもらえなかった。
そもそも夜から始まるのにこんなに早く来て・・迷惑だわ・・
とまで言われてしまい、水さえもお願い出来なかった。
酒臭い男たちに囲まれ、愛想の無い女だ!とまで言われた。
隣の侯爵は相手が私とはなったが、年齢的には満足したのか
「まずは私が味見をして・・」
と卑猥な言葉を並べている。
なぜ私がこんな目に・・と、ひたすら涙を堪えていると
「ご主人様・・そろそろ」
と、執事らしい男が声をかけてきた。
侯爵はいやらしい目つきで私を見ると
「ああ、半刻後に行く。それまでに磨いておけ」
執事は頭を下げると使用人に合図を出す。二人の使用人に挟まれるように立たされると、参列者の間を縫うように会場を後にした。
覚悟はしていたとは言ってもお父様よりも年上の男性に今から身を捧げなければならない。
逃げ出したい気持ちになるが、二人の使用人に無理やりお風呂に入れられてしまい逃げ場を失う。
着ていた木綿の白無垢は処分され、侯爵家で用意された絹の寝巻きに着替えると寝室へと通された。
「旦那様はまもなく来られます。こちらで大人しくしてお待ちください。間違っても変な気を起こさないでくださいね。貴女だけでなくご家族や私たちの首も飛んでしまいますので」
執事と使用人は私を人睨みすると部屋から出て行った。
止まらない震えを両腕で止めようとするが無理な事で、身を屈めながら自分を守った。
どれくらい待っただろう・・時間的にはそれ程だと思うが、体感的には長く感じた。
そんな時
キャー!バタバタバタバタ!
奥の方から人の悲鳴と足音が響く。
「な・・に?なんの音・・?」
その場から動けない私は音や悲鳴に聞き耳を立てるといつの間にか震えは止まっていた。
廊下では女中の悲鳴と大勢の足音で騒がしい。
誰かに声を掛けようと腰を浮かした所で突然寝室の扉が開き、そこには息を切らした侯爵が立っていた。
私は急いで頭を下げたが、侯爵は私の前を通り過ぎると襖を開け金庫から何かを取り出していた。
私は何が起きてるのか分からず侯爵の後ろ姿を眺めていると
「侯爵の姿が無いぞ!」
「探せ!まだこの屋敷にいるはずだ!」
私は一瞬、声のする方を見た。
その瞬間、数人の軍人が寝室へと入って来て・・
気付けば私は侯爵に羽交締めにされていたのだった・・




