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虐げられた令嬢は冷徹と言われる軍人と優しい夢を見る  作者: おつかれナス


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新連載始めました。

今回は大正辺りの架空の時代の設定です。

初挑戦となる時代設定のため、?の部分も出てくると思いますが・・

そこは笑って読んでいただけたらと思っております。

「お前に縁談が持ち込まれた。相手は相良健(さがら たける)侯爵。断る事は許されん!明日までに荷造りをしておけ」


 久しぶりに父から呼ばれたと思ったら急に嫁げと言われた。

 父の隣では笑いを堪えているお義母さまと義妹がいて、おそらくだがこの縁談は義妹の春子に来たものだろう。

 断る事が出来ない以上受け入れるしかない。


「承りました。準備がありますので失礼致します」


 私はその言葉だけを伝えると急いでその場から離れた。


「お義姉さま良かったわね、お嫁にもらってくださる殿方がいて。この屋敷の事は心配しないでね!私が、私の力で立て直してみせますから!」


 廊下を歩いていたら義妹から声を掛けられる。

 私は一度立ち止まるがまた部屋に向かって歩き始める。

 そんな私の態度が気に入らなかったのか、春子はさらに言葉を続ける。


「お義姉さまのお相手、お父様と同じ年頃らしいわよ!良かったわね!可愛がってもらえるわよ!」


 相良健侯爵閣下。

 知らない人はいないくらいの変わり者。どうしてあの方が侯爵閣下なのか不思議なほどに仕事が出来ず、おまけに若い女性としか相手に出来ない変態だと・・屋敷から出た事がない私でさえも知っている。


 私は春子の言葉を無視していると、急に身体が浮いて外へ飛ばされてしまった。

 春子の風の力だ・・

 思い切り外に投げ出されたせいで身体中が傷だらけになってしまった。


「お義姉さまのクセに生意気なのよ!力も使えない野上の足手まといが!!」

「・・・」

「何とか言いなさいよ!」


 風が私を地面へと押し付ける。


(息が・・できな・い・・)


 そう思った瞬間、身体が楽になった。

 見るとお父様が春子の力を消した様だ・・


「春子止めなさい。明日は清子の婚礼だ。相良様に返品されたらどうするんだ」

「あっ!ごめんなさいお父様・・」


 謝っていても顔は笑っている。お父様の後ろでお義母さまも笑っている。

 この家で私の味方など誰もいない。

 私は涙を堪えるとその場から走って逃げた。



 私の名は 野上清子(のがみ きよこ)

 正妻だったお母様が生きていた頃は、それでも野上家の長女としてそれなりの扱いを受けていた。

 ところが私が三歳になったある日、お母様は突然この世を去ってしまった。


 病死とは伝えられたが・・


 そしてお母様が亡くなると同時に今のお義母さまと義妹の春子がこの屋敷に入った。

 春子はお義母さまの連れ子だが、お父様の血を継いだ正真正銘 野上の娘だった。


「お父様!お母様!見て見て!!」


 それは突然だった。

 私の物を欲しがった春子を注意した際、怒った春子は私に向かってその力を放出したのだ。

 その力は決して強くは無かったが、子供の私を投げ飛ばすにはちょうど良い力で・・


「春子すごいぞ!俺と同じ力だ!」

「ええ、ええ。春子は野上の子です。旦那様の後継になれますわ!」


 木に思い切り叩きつけられた私の事は知らん顔で、春子の力をみたお父様とお義母さまは揃って大喜び。

 そして、その日を境に私と春子との差が開き始めたのだった。

 普通、遅くても十歳には力が出現すると言われている。早いと五、六歳。

 春子は六歳だった・・

 そして私は十二歳になっても力が出現せず、乳母のヨシが実家に帰らされたと同時に私の身分も使用人へと落とされたのだった・・


 お母様の形見は全てお義母さまに捨てられてしまい、私の手元には組紐しか残らなかった。

 この組紐はお母様の手作りで、私のことを想いながら作った物だと乳母のヨシが教えてくれた。


 部屋へ戻ると一応白無垢が掛けられていた。

 一応と言うのは正絹では無く、木綿で作られた物だったからだ。

 本来貴族の令嬢ならば正絹で作られた白無垢なのだが、私の場合は平民が着るような質素な白無垢だった。


「あるだけマシ・・なのね」


 そう自分に言い聞かせるしか無い。

 悲しいがこの部屋で寝るのも今夜が最後・・

 寒くても打ち直されない布団。

 障子に穴が空いても張り替えてもらえない。

 北側の、厠に近い部屋で常に湿気でカビ臭かった部屋。それも今夜で最後だ・・


「明日の夜は・・もう少し良い布団で眠れますように。私の居場所を作ってもらえますように・・」


 涙を堪えながら朝日が昇るのをジッと待った。



 日が昇ると野上家でも古株の女中が私の部屋へと入ってきた。

 一応準備を手伝ってくれるようだったが、憐れむでも喜ぶでもなく、淡々と白無垢を着せる。

 化粧道具も持っていない私は薄く伸ばした紅だけを唇に引くと、誰にも見送られる事なく屋敷から出されてしまった。

 門を潜るとそこには一台の車が到着しており、私の姿を見た運転手が慌てて私の手を取りにやって来た。


「お嬢様はお一人で?」


 まだ若い運転手は、恐る恐る聞いてきた。

 私はただ頷くとなぜかため息をつかれ、車の後ろへと乗せられた。


(思い出なんて何も無い。有るとすればお母様と乳母のヨシとの事だけ・・)


 私は振り向きもせず屋敷を後にした・・



 屋敷から離れる時ズキッと首の後ろに痛みが走ったが、これからの事を考えたら痛みの事は直ぐに忘れてしまった。

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