三十一 想いを伝える
元の姿に戻った私は鈴木邸の応接室で旦那様と部下の方三人とソファーに腰掛けている。
覚醒した私の姿を見た三人はとても驚き、最初は間違えて私まで連れて行こうとしていた。
「何から話したら良いのでしょうか・・」
そう言いながら私がこの屋敷に連れて来られた所からの話をした。
幸いにもフミさんは無事で、火ノ川の屋敷で私の帰りを待っているそうだ。
旦那様は皇女様から大体の事は聞いていたそうで、私の話を聞いてもそれ程驚いた様子は無かった。
リュウは窓の外から私を見守るように覗いている。
「リュウも私同様、生まれ変わりのようですね、あやめ様を守る愛馬の」
リュウは私を見てヒンヒン鳴いている。
そんなリュウに対し旦那様は複雑な顔をしていた。
「大丈夫ですよ、普段は旦那様を守るように言い聞かせておきましたので。ね、リュウ」
リュウは不本意げにブルルン!と鳴く。
「こんな大事な話を僕たちも聞いて良かったのでしょうか・・」
「本来なら入内される方に対し失礼な数々、お許しください」
「や、やめて下さい!私はこの先も火ノ川家の女中です!」
私は風見さんや木柴さん、土守さんに頭を上げるようにお願いした。
私は今まで通りフミさんと共に火ノ川家で働くのよ。
そんなわたしの言葉に一人何も言葉を発しない旦那様に不安になる。
「旦那様・・その、お屋敷に戻る事をお許しくださいますか?」
私は不安になり聞いてみたが、旦那様から帰ってきた言葉は意外なものだった。
「野上清子嬢、貴女さまを一度皇宮へとお連れするように皇女様より言遣っております」
旦那様は臣下の礼を持って私に接した。
私はリュウの背に乗って皇宮に向かって出発した。リュウが私から離れなかったので仕方なく・・
でも、馬に乗った事のない私は結局ゆっくり移動するしか無かった。
リュウの上から下を見れば、手綱を引く旦那様の姿が目に入る。
あの時から旦那様と二人になれる時間も無く、当然話をする時間も無かった・・
(旦那様はもう私と話すのも嫌になったのかしら・・)
そう思うと涙が込み上げてきて・・
「?どうしたリュウ・・清子?」
リュウは背で泣く私に気付き足を止めた。旦那様はリュウの足が止まると不思議に思い振り返ると泣いている私に気付き声をかけてくれた。
でも、私は旦那様とやっと会えたのに話す時間も無いだけでなく、急に他人のように接されて悲しくなり涙が止まらなくなった。
私は私なのに・・
ボロボロと泣く私に対し旦那様は優しく手を伸ばしたと思ったら、急にリュウの背に乗り
「少しだけ時間をくれ!必ず皇宮に戻るから!」
そう言い残すとリュウの腹を蹴り走り出した。
私は何が起こったのかわからないままリュウの首にしがみ付いた。
当然涙は止まっている。
どれくらい走っただろう・・気付けば目の前には光り輝く湖が。
「すごい・・」
旦那様が先に降りると軽々と私をリュウの背から下ろす。
「少し歩くか。リュウは良く休んでおくんだぞ」
リュウはヒンッと鳴くと水を飲みに向かった。暫くは自分の好きに過ごすのだろう。
私は旦那様の後ろから着いて歩く。どうやら旦那様は私の歩幅に合わせてくれているようだった。
少し歩くと目の前に大きな木の幹が横倒しになっていて、そこに腰を下ろす事にした。
二人で湖畔を眺めるがこのままでは時間だけが過ぎてしまう。私は意を決して話しかける事にした。
「あの、旦那様。私は何か気に触るような事をしたのでしょうか・・」
あの話をした後から旦那様は話しかけてくれなくなった。それどころか目も合わせてくれない。
想っている人からそんな態度を取られてしまうと、どうしたら良いのか不安になる。
「私が旦那様のお屋敷に戻る事はご迷惑になるのでしょうか・・それなら」
お暇させていただきます。そう言い終わる前に私は旦那様に抱きしめられていた。
その温もりが、匂いが私の心に拍車をかける。
「お慕いしております。旦那様の事を私は心の底からお慕いしています。ごめんなさい、ご迷惑ですよ・・」
「迷惑では無い。むしろ私の方が清を想っている。気持ちを伝えたら迷惑になるのでは?とか、距離を置かれるのでは無いか?とか、余計な事を考えてしまいこんな事に・・すまなかった」
「・・・旦那様は悪くありません!むしろ迷惑をかけたのは私の方で・・」
あれ?今旦那様は何て言った?
「無事でよかった・・もし清子の身に何かあれば、私は自分の力を押さえることが出来なかったかも知れない・・」
そう言って優しく微笑んだ。
本当に?
旦那様も私の事を?
「もう、清子を女中扱いなど出来ないんだ・・」
「それはお屋敷を出て行けという事ですか?」
違う、旦那様が言いたい事はこんな言葉では無い。そう頭ではわかっていても本心を聞きたくなる。
「ハッキリ言わないとわからないよな。清子、私と結婚してくれないか?」
「けっ婚?出来るのですか?旦那様と・・」
今の私は平民だ。
次期辺境伯の旦那様とは釣り合いが取れない。
「清子は今も子爵令嬢のままだ。ならば私とも結婚出来るよ、清子が良ければだが・・」
子爵令嬢のまま?
「相良とは正式に籍を入れていないから、君は野上清子子爵令嬢なんだよ」
ポロポロとまた涙が溢れ出す。
諦めていた、もう平民だからと。
旦那様のお屋敷で働けるだけで幸せだったから・・
「私で良いのですか?」
の問いに
「清子以外考えられないよ。それはフミも凪も同じだ」
そう言いながらまた私を抱きしめる。
答えは?
の問いに私は返事の代わりに思い切り旦那様に抱きついた。




