三十 覚醒
アハハハハハ!
地下牢に響き渡る一人の女の笑い声。
すでに水は私の首辺りにまで溜まっていた。
そんな私の姿を見て喜んで高笑いしているのは義妹の春子だ。
ただでさえ日の当たらない地下牢は寒い。その中で水に沈んでいる私の姿は春子にとっては楽しくて仕方がないのだろう。
「お義姉さまも大変ねぇ。お母様を本気で怒らせてしまうなんて・・さすがの私でも助けて差し上げる事は出来ないですわ」
「助ける気なんて無いくせに・・」
ふふふ
「今までのお義姉さまも見てて楽しかったけど、今日はそれ以上だわ!ねぇ、安心して。お義姉さまの最後を見届けて差し上げるわ!そしてお義姉さまの代わりに火ノ川様の元へは私が行くから!」
「なっ!」
ガチャン!と私の鎖が結界に当たる。
さすがの私も春子の言葉に怒りを覚えたのだ。
「いいわぁ、お義姉さまのそのお顔。今までは何をしても死んだような顔しかしないから面白くなかったもの。そういう意味では火ノ川様はお義姉さまに人の感情を戻してくださって感謝だわ!」
結界越しに不気味な笑顔を向けてくる春子に、恐怖を覚える。
春子は更に話を続ける
「ああ、こうしてる間もお母様の水がお義姉を苦しめてるわ。ふふ、お義姉さま綺麗よ。今までで一番綺麗だわ」
「狂ってる・・」
春子の狂気に触れ恐ろしくなる。
「春子、いつまでこんな所にいるの?そろそろお父様の所へ行くわよ」
「えー、嫌よ。お義姉さまの最後をこの目に焼き付けるんですもの」
「そんな見苦しい物を見て何が楽しいの・・」
お義母さまが春子を呼びに来た。
すでに水は私の顎の下にまで迫っており、時々足を掬われては溺れそうになる。
その私の姿を見るたびに春子は嬉しそうに笑う。
「ああ本当に嫌だわ、貴女どんどんあの女に似てくるんだもの。私の旦那様を奪っておきながら申し訳無さそうな顔をして・・」
一気に水が流れ込む。お義母さまの怒りが私を苦しめる。
ああ春子が嬉しそうに笑っている。
聞こえないけど高笑いしているのだろう・・
お義母さまの怒りがとうとう私の頭までくる。
手足の鎖のせいでもう空気を吸う事も叶わない・・
(旦那様に会いたかった・・。最後にもう一度・・)
意識が途切れるその瞬間
目覚めよあやめ!!!其方の力を解放せよ!!
聞いた事のある声が耳に届いた瞬間、私の中の何かが反応した。
あやめ様ー!!
私を呼ぶ声に反応した力はもの凄い光を放った。
「キャー!何なのこの馬は!どこから入って来たの!」
春子の叫び声とお義母さまの結界が破れると同時にその場に現れたのは旦那様の愛馬、リュウだった。
リュウは私に擦り寄ると私を立たせる。
あやめ様!
「リュウありがとう。でも私は清子よ」
リュウの鼻を優しく撫ぜる。
見ればお義母さまも春子も驚いた顔をしてこちらを見ていた。
(ああ、この人たちの考えている事がわかるわ・・)
二人は私が別人になっている事にすごく驚いていると同時に、春子は嫉妬心を。お義母さまは妬み心が溢れていた。
あやめよ・・いや、清子よ。この二人どうする?
頭の上から声がする。
おそらく藤花様だ。
「もう少ししたら特攻隊の方たちがこちらに来ます。多分、野上と鈴木の当主も捕まっておりますので、こちらの二人も渡したいと思います」
お主は優しいの・・
「なっ、何!気持ち悪い!貴女本当にお義姉さまなの?」
腰を抜かした春子が大声を上げる。
「旦那様とお兄様が捕まったって、本当なの!?」
お義母さまも信じられない顔をしながら聞いてきた。
「本当です。あの二人は決して手を出してはいけない事に手を出したから・・。私たち貴族は天皇家に忠誠を誓っているはずなのに裏切る行為をし、火ノ川家に対しても裏で潰そうと画策した」
私はお義母さまからお父様が画策していた事を視た。これは間違いなく天皇家への裏切りだ・・
清子よ、良いのか?お主が望むのなら妾が手を貸しても良いぞ
「それは・・私の仕事ではありません。旦那様に全てをお任せしたいと思います」
「何よさっきから!気持ち悪い独り言を!」
春子には藤花様の声が聞こえない?みたいね。
さてどうしたものか、お義母さまのさいで二人の着物も濡れている。
「リュウ、旦那様をここに呼んでもらえるかしら」
リュウはブルルン!と鼻を鳴らす。その時、春子の後ろからお義母さまが私に向かって走って来た。
手には懐刀を握りしめて・・
リュウは鳴きながら私の前に立ちはだかるが
「止まりなさい花子よ!」
私の一言で立ち止まるお義母さま
「その場に膝をつきなさい!そして手に持っている刀をこちらに投げよ!」
お義母さまは抵抗しているが、私の強制の力にはなす術もなく従う。
その顔は先ほど見せた春子の顔にそっくりだった。
「清子!無事か?」
扉の方から旦那様と土守さんらが乗り込んでくる。そして・・
「その姿は何だ?それに・・なぜリュウがここにいるんだ・・?」
私の力で抵抗出来ないお義母さまと、何が起こったのか分からない春子を目の当たりにした旦那様は、ゆっくりと私の側へ来た。
「大丈夫か?それと・・その姿は・・」
私は藤花様を見ると藤花様は頷いた。
旦那様には話して良いと受け取った私は、連れられて行くお義母さまと春子を見ながら
「旦那様お話する事がございます」
と言い切った。
あと2〜3話の予定です。
最後までお付き合い頂ければ幸いです!




