二十九 地下牢で・・
この地下牢に連れて来られて何日が過ぎたのだろう・・
私は鎖で両手足を繋がれたまま地下牢で過ごしている。二人が気の済むまで折檻を受けたあと、食事も水も与えられないまま・・
「このまま死ぬのも良いわね、もう誰も傷付けなくて済むから・・」
「そうね、そうして貰えたら嬉しいわ。でもね、このまま死んでも私の気が済まないのよ、義妹さん」
「!お義母さま・・」
「そんな呼び方をしないで頂戴!!穢らわしい!」
肩で息をしながら罵倒してくる義母に私は言葉を失った。
「旦那様から聞いたわ・・貴女、お義父様の子、何ですってね。ふふ、貴女たち親子のせいで私と旦那様は引き離された。春子も本来なら第一子なのに、貴女たち親子のせいで・・」
「それは私のせいでもお母様のせいでも無いわ!私たちだって犠牲者だわ!」
お祖父様の娘だったとしても野上の娘だ。こんな仕打ちを受けるのはおかしい!
「そうね、確かにそうだわ・・でも、私の気持ちは?旦那様と結ばれる筈だったのに別れさせられ、やっと一緒になれたとしても後妻なのよ・・」
天井から雫が落ちてくる。
「確かに貴女の母親も可哀そうだわ・・本当なら陛下の寵愛を受けながら貴女を産み、育てる事が出来たのに」
流れるはずの水が私の周りに溜まって行く。
「残念だったわね・・本来なら貴女は皇女。こんな所で死ぬようなお方では無かったのに・・」
あはははは!!と大笑いした後踵を返した。
「この水が貴女を沈める前に助けが現れると良いわね。もう、会う事も無いでしょうけれど」
そう言ってお義母さまは地下から出て行った。
落ちる雫は少ないが結界が張ってあるのか、水は確実に溜まって行く。
手足に鎖が付いているから浮かぶ事も出来ず、私は溺れ死ぬだろえ・・
「花子様にとっては最高の復讐ね」
助けになど誰も来ない。
これで良いのだ。
火ノ川での生活が夢だったのだ。
思い出すのは火ノ川家での事ばかりで、二度と会えないだろう旦那様とフミさんの事を考えていた。
最後にお礼を言いたかったな・・
私は横になる事も出来ず、ただその場で座り込んだ・・
「突然の訪問失礼する。こちらのご当主に話があって参った」
野上と鈴木の屋敷を全て調べたが清子は見つからなかった。残るはこの屋敷と思って訪ねれば野上の当主もいるでは無いか。
私は応接間へ通されるとソファーへは腰掛けず窓際で立つ。
後ろには風見と木柴が控えている。
少しするとこの屋敷の当主、鈴木子爵と野上子爵が現れる。
私を警戒したのだろう、扉の前や廊下にも屋敷の人間が立っていた。
「突然来てすまない、実は私の屋敷から一人の女性が居なくなってな、もしかしたらと思い尋ねて来たのだ」
「そうですか、それは心配ですね。立ち話も何ですからまあお座りください」
私はその言葉を断り、その代わり一枚の紙をテーブルの上に置いた。
その紙を見た二人の子爵は顔を青くさせる。
「こちらへ足を運ぶ前に調べさせてもらった。随分と楽しい事を考えていたようだな」
「な、何か誤解があるかと・・」
「そ、そうです。これは私たちは直接関与しては・・」
「言い逃れは無用!言っただろう?こちらへ来る前に調べたと」
ドンッ!!!
私が話し終わる前に二人が力を向けて来た。
野上は風、鈴木は水の力だ。
単純に火を扱う私だけだったら押されていただろう・・
「残念だったな。私の部下は優秀でな二人の力などこの風見一人でも防げるんだ」
「「クッ!」」
それでも力をぶつけてくる二人は、ここが屋敷の中だという事を忘れているのだろう。
部屋は水で濡れ、壁は風で切り刻まれている。そしてその力は廊下にまで溢れ、廊下に飾られている全ての物も壊された。
「小隊長どうしますか?」
私を守るため風見の風が盾となっている。
「木柴、頼めるか」
「もちろんです」
木柴は嬉しそうに返事をすると力を二人に向ける。どこからか伸びて来た木の蔓に二人は両手を塞がれた。手が出せなければ力も出せない。
「観念しろ!このまま力を繰り出せばこの屋敷が潰れるぞ!使用人たちがどうなっても良いのか!!」
二人は私を睨みつけるが手を出せない奴らなど首輪に繋がれた猛犬と同じだ。
「木柴は二人を連れて行け。風見は私と共に」
「「はい!」」
風見と共に部屋を出ようとした時、野上の清子の父親が笑い出す。
気味の悪い笑いだ。
私は野上の笑いが止まるまで待つとこちらを睨むように見てきた。そして
「貴方は清子の父親が誰だかご存知ですか?知ったらあの女を屋敷に・・」
「お前の父親か?」
「!!」
私の答えに驚いたのか二人の男が目を見開いていた。何とくだらない事だ、そんな事章子様の力を使えば簡単に分かる。
[琉生にだけは清子の事を伝えよう]
章子様に呼ばれ、人払いまでされた部屋で私は清子の真実を聞いた。
だがそれがどうした!私からすれば清子の母が一番の被害者ではないか!
「くだらない、野上にとってはたった一人の歳の離れた妹では無いのか?」
「そ、そんな簡単なものでは無い!親父は天皇家に刃をむけたのだ!その尻拭いを事もあろうかこの私に!」
自分の境遇に悲観し、あの男の手を取ったのか・・
「そもそもお前の父親もあの男に唆されたのだろう。まぁ詳しい話は後日聞かせてもらう。連れて行け!」
私の前を通り過ぎる時鈴木が小声で囁いた。
「清子の命が無事だと良いですがね」




