二十八 真実
「えっ?」
子爵が何を言ったのか分からなかった。
「でも・・調べたらお父様の・・」
子爵が笑い出す。
その後ろでお父様は頭を抱えながら固まっている。
「君のお母さんを凌辱したのは前野上の当主。君がお祖父様と思っている男だよ」
「・・・えっ」
身体中の血の気が引いていくのが分かる。
父親だと思っていた人が実は兄で、祖父だと思ってた人が父親だったとは・・
「不思議だと思わなかったか?実の父親からなぜ自分だけ愛されないのかと。なぜ女中扱いされていたのかと思わなかったのか?」
私はお父様を見た。間違いだと言って欲しかったから・・
いや、違う。
お父様だろうがお祖父様だろうが、お母様を傷つけ私を蔑ろにした野上の人間が憎くなった。
「浦部の事を知った野上の爺さんは、陛下にひと泡吹かせたいがために千代さんを襲ったんだ。あのタイミングでなぁ」
子爵は気持ち悪い顔で笑いながら私を見てくる。
「浦部の娘の産む子には利用価値があるからと、最初はこの男に襲わせようとした。だからこの男の形跡が残ったのかも知れないがな、土壇場でしくじった。
だから爺さんが」
「やめて!!」
もう嫌だ。聞きたく無い!!
私はその場で両耳を塞ぎ、うずくまった。
子爵は今日のところはこれで良い。と言って部屋から出て行った。
お父様も子爵に付いて部屋から出る所で足を止め私を見下ろす。
その顔は憎しみと嫌悪が入り混じった顔だった。
「お前の事は哀れだと思った。親父も亡くなり母親も、乳母もお前の前からいなくなった。だがそれだけ。妹なのか娘なのかわからない、そんな存在のお前を許せなかった」
そう言い残し去って行った。
どれくらいその場にいたのだろう・・
私は立ち上がりただ廊下を歩いた。
どこに辿り着くのかもわからず、道なりに真っ直ぐ歩く。後ろからあの女性が着いて来ていたが、声を掛けることも掛けられることも無かった。
一人にして欲しかった。
子爵が言った言葉を誰かに聞いて欲しかった。
「うぅぅぅ・・」
堪えていた涙が溢れ落ちる。
愛されるはずなんて産まれた時から無かったんだ。
お父様もお義母さまも犠牲者だ。
「ふっうっっ、うっ・・」
突き当たりの壁に当たると私は壁に顔を付けたまま泣いた。
愛されると思った。愛されたいと思った。
私はなぜ産まれてきたのだろう・・
いつの間にか女性に手を引かれ最初の客間へと誘導された。
部屋へ入ると私はそのままベッドへと倒れ込む。
今はただ、何も考えずに泣きたかった・・
「旦那さま・・」
今一番会いたい人。でも会えない人・・
旦那様はこの真実を知っても迎え入れてくれるのだろうか・・
それでも火ノ川の屋敷に帰りたい。
旦那様とフミさんのいるあのお屋敷に・・
数日後
「あら、本当にいたわ」
私が本を読んでいると突然部屋の扉が開いた。と思ったら、確認する前にお義母さまの声が聞こえた。
「お父様の仰った通りね。それにしてもお義姉さまがどおしてこのお屋敷に?」
お義母さまのあとに義妹の声もする。
まったくこの二人は私に対してなら何をしても良いと思っているようだわ。
「お久しぶりですお義母さま、春子。なぜこのお屋敷に?の問いには 無理矢理連れて来られたとしか言えないわ」
「まぁ、何て言い草かしら!お義姉さまなんて火ノ川様にとってもただの女中のくせに!」
春子の言葉に反応した私を見逃さなかったお義母さまがその後に続くように話し出す。
「貴女あの火ノ川様のお屋敷で働いていたそうねぇ。でもね、貴女がここに来た後も貴女を探す様子も無いわよ」
「・・・」
「あらお義姉さま気にならないの?仕方ないか、いくら着飾っても所詮は女中。野上家から除名されてるから貴族でも何でも無い平民ね」
「・・除名?」
もともとこの家から出た瞬間、野上の人間では無くなったと思っていたけれど・・まさか除名までされていたとは。
そんな私の様子を見て嬉しそうに二人は笑い出す。
「そう、平民よ貴女は!だからね、私たちにこうされても何も言ってはダメなのよ」
お義母さまが話し終わる前にバシャッと水が頭の上からかけられる。
ポタポタと雫が髪から着物へと落ちていく。
昔からお義母さまは気に入らない事があると、こうして私へ水をかけるのだ。それは季節関係なく突然に・・
そして
「あらお義姉さま大変!」
そう言って風の力で乾かすフリをして
「止めて春子!痛い、お願いだから・・」
着物を切り裂きながら私の皮膚も斬るのだ。
それは二人の気が済むまで続く・・
いつもなら一〜二分で終わる折檻も今日は違った。
「お前たち、この女を地下へ運びなさい!どうせ誰も探しには来ないのだから」
「地下?」
お義母さまの言葉に現れたのは私をこの屋敷に連れて来た男たちだった。
私が一瞬怯えた顔をすると春子は嬉しそうな笑顔でこう言った。
「お父様が好きにして良いと言ったの。どうせ火ノ川様も探しには来ないだろうからって。本当、可哀そうなお義姉さま」
「ええ本当に・・でもね仕方ないのよ?貴女と貴女の母親が私と旦那様にした事を考えたら・・ね」
そういい終わると同時に持っていた扇で私を殴ると、男たちに早く運べ!と命じたのだった。




