二十七 襲撃 三
目を覚ますとそこは見た事の無い部屋だった。
私はゆっくり体を起こすと周りを見渡す。見た感じ客間だろうその部屋は日当たりの良い部屋だった。
「ここは・・どこ?」
ベッドから起きると窓へと歩き外を覗く。窓の外は崖になっていて良く見ると窓ははめ込み式で開ける事は出来なかった。
「お目覚めになられましたか」
人の声に驚き振り向くと私より二十ほど歳上の、フミさんと同じ年頃の女性が立っていた。
初めて見るその女性の表情は無く、常に笑顔のフミさんに慣れている私は少し怖くなった。
「お支度のお手伝いをさせていただきます」
「いえ、自分でできますので・・」
「・・左様でございますか。では一旦失礼致します」
女性は無表情のまま下がって行った。
部屋を見渡すと箪笥の上に着物が置いてあった。見れば華やかな、明るい着物。でも・・
「私には合わない色目ね」
誰かのお下がりかしら?と思わせる色合いに一人の顔が浮かんだ。そして思い出す。
この屋敷は鈴木家の別邸だと・・
鈴木家はお義母さまの実家。
今はお義母さまのお兄様が三年前に家督を継いだ。その家督襲名のお披露目に、珍しく私も連れて行かれた事を思い出す。
「その時も春子のお下がりの着物を着せられたのよね」
春子には赤い色の着物を。私にはピンク色の着物を着せて・・
私はどちらかと言えば寒色系の色が似合うため、暖色系は似合わない。
また嫌がらせかしら・・
さう思いながらも着ない訳にもいかず仕方なく袖を通した。
着終わると同時に先ほどの女性がお膳を持って入って来た。
「お食事が済みましたら旦那様がお会いしたいと。」
「分かりました」
テーブルの上にお膳を置いた女性はそのまま扉の前に立つ。
私は椅子に腰掛けると一人味気ない食事を口に運ぶ。火ノ川の屋敷では常に笑い声が絶えなかっただけに、一人で食べる食事がこんなにも寂しかったんだと思った。
野上の家では常に一人の食事だった。
三人の食事の給仕をし、後片付けが済むと今度はお風呂の支度。他にも女中は居たはずなのに面倒な事は全て私で、お風呂の掃除が終わったらやっと食事。
朝も同様で、朝一番に水瓶に井戸から汲んだ水を貯め竈門に火を入れる。
玄関から門までの掃除を済ませると三人の給仕。と、結局私の口に食事が入る頃には冷え切っていた。
「もう宜しいのですか?」
半分も手を付けていない膳を見て女性は言った。
私は野上の家での事を思い出し、どうしても食べ物が喉に通らなかった。
「では旦那様の元へご案内致します」
そう言うともう一人の女中にお膳を下げさせると、私の前を歩き出した。
廊下は迷路のようになっていて、知らなければ玄関まで辿り着く事は出来ないだろう。現に私がいた客間への行き方も分からなくなっていた。
しばらく歩くと扉の前で立ち止まる。
コンコンッとノックをすれば中から 入れ。と声がかかった。
女性は私を扉の前に立たせると、静かに扉を開いた。
「清子、久しいな」
「! お父・・さま」
目の前にはお父様と鈴木子爵がソファーに腰掛けながら私を見ていた。
お父様はソファーから腰を上げると私の元へ歩いて来て、私の無事を確かめるように見てきた。
「相変わらず明るい色目が似合わんな。まぁいい、こっちに来て腰を下ろしなさい」
「・・はい」
私は仕方なくお父様の言うことに従った。
「相良の屋敷からお前の姿が消えたと知りどれだけ心配したか。なぜ手紙の一つも寄越さなかったんだ!」
「それは・・相良家へ行く時に帰ってくるなと・・」
「それは嫁いだ後の話だ!!」
私はお父様の怒鳴り声に身をかがめてしまった。
そんな私を見た鈴木子爵は
「まぁまぁ野上くん、そんな大声出したら清子さんも何も言えないじゃ無いか。清子くんもお父さんの気持ちを考えたら分かるだろ?」
お父様を注意しながらも私を咎める。
この人たちはいつもそうだった。私よりも春子を優先し私を咎めて来た。
「白無垢を着て野上の家を出た瞬間、私はすでに野上の娘ではありません。そう言われてしまえば自分の身は自分で何とかするしか無かったのです」
私は震える声で何とか言いきった。
お父様はまだ何か言いたそうだったがそれを止めたのは子爵だった。
「だが清子さんが勤めていた屋敷が火ノ川邸だったとは・・君は火ノ川と私たちの仲が良く無い事を知らなかったのか?」
先程とは違い怒りを抑えた声色に、私は更に震えが止まらなくなる。でも・・大丈夫。おそらくだがこの二人は火ノ川の、旦那様の弱点を私から聞き出そうとしているだけ・・
私は拳に力を入れると
「私は野上の家でも女中と変わらない生活をしていました。なので火ノ川様と我が家の仲などしりま・・」
最後まで言い終わる前にお父様の力で壁へと飛ばされた私は、息も出来ず壁と力に押さえつけられた状態になった。
「くっ・・」
「お前は!お前は何様のつもりだ!!お前の母親といい、なぜ俺を苦しめるのだ!!」
苦しめる?
私とお母様を苦しめたのはお父様なのに!!
私は苦しいながらもお父様を睨みつけた。
「野上くん、止めなさい。このままだと清子さんは死んでしまうよ?」
急に力が消え私の体は床へドサッと落ちた。
苦しさと痛みで頭が朦朧とする。
「清子くんは何か勘違いをしているようだが・・」
気付けば私の側で子爵が屈んでいた。
「なに・・を・・」
「君が何を聞いたか知らないが、君の本当の父親は前野上家当主だよ」
清子の本当の父親が・・




