二十五 襲撃
「とうとう梅雨入りですね」
窓から外を覗けば今日も朝から雨が降り続く景色にうんざりしてしまった。
旦那様はここ数日は本部で泊まり込みだ。この雨で町中の川が氾濫し町中の警備隊も出動しているが手が足りないらしい。
確かにこの降り続く雨では川も耐えられないだろう・・
「清子さま、今夜も琉生様はお帰りになれないそうですので、早めに夕餉に致しましょう」
窓から外を眺めていると後ろからフミさんが声をかけてきた。
私は振り返るとフミさんの元へ急いで向かった。
「それにしても今年はよく降りますね。稲は大丈夫でしょうか?」
「そうですね、確かに今年の雨は不思議なほどよく降りますから農家の方たちも心配でしょうねぇ」
食後のお茶を飲みながら雨の音を聞く。
時々雷の音も聞こえてくるが、まだ遠い。
旦那様は大丈夫だろうか。
フミさんから聞いた話では火の使い手にとって梅雨時期は相性的に合わない。
それもそのはず、火と雨は反し合う関係だから。
ゴロゴロゴロ・・
「雷が近くなってきましたね。今夜は早めに横になりましょうか」
「そう致しましょう。朝には止んでいるかも知れませんからね」
そう言って湯呑みを片付けたあと、私とフミさんはそれぞれの部屋へ戻った。
風雨が強くなり外の音も聞こえない。
屋敷の中は外の音が大きいせいかいつもよりも静かに感じる。
「旦那様は大丈夫かしら・・」
今日だけで何回この言葉を言っただろう・・
普段の旦那様は一見したら冷たい雰囲気だが、その心の中はとても暖かく優しい。
気のせいかも知れないけれど、時々私に向ける微笑みが勘違いしてしまうほどの優しさが込められていて・・
「ダメよ!気のせいよ!勘違いしたら旦那様にご迷惑が・・」
布団から飛び起き頭を振る。
旦那様は辺境伯を継がれる方・・いつかは身分の合う家柄の令嬢と結婚するだろう。
その時私は笑顔で奥様を迎えられるのだろうか・・
「お水でも飲みに行こうかな」
考え出したら暑くなり布団から出ると、土間へ降りた。水瓶から柄杓で水をすくい口へ運ぶと冷たい水が喉を潤し気持ちが良い。
ガタタ・・
風の音か?裏口が揺れる。
水瓶に蓋をし部屋へ戻ろうとした。その時
「すみません、開けていただけますか?」
外から人の声がする。私は慌てて戸口に行き声をかけた。
「あの、どうされましたか?」
「あっ、良かった。すみません、私は都へ荷物を届ける者ですが途中でこの風雨に遭ってしまい、宿場まで行く事が出来なくなってしまったのです」
商人か?確かにこの風雨では隣町の宿場までは行けないだろう。むしろ良くここまで来れたものだ。
私は少し疑問に感じたがこの風雨と雷に、困っている人を助けないと、と思いフミさんに確認する前に戸口を開けてしまった。
だがその場に立っていたのは商人ではなく・・
「オットー、静かにしてくださいね清子さん。野上の旦那が貴女をお呼びですので」
「!!」
声を出す瞬間に口を封じられ身体を拘束される。
男は三人・・
私は暴れるが体格の良い男の力には敵わず、そのまま抱えられる。その時物音に気付いたのか奥からフミさんがやって来た。
私はフミさんにも危害がかかると思い暴れた。
「その汚い手から清子さまを離しなさい」
普段聞かないフミさんの声色に振り向くと、両手に鎖鎌を持ったフミさんが立っていた。
良く見れば体格も・・
「貴女が火ノ川家の番人、フミ様ですね」
「まぁ、そんな昔の名を知ってるとは・・貴方はどこの家門の者かしら?」
「どうせバレると思いますが、ここでは伏せさせていただきます。貴女と本気で殺し合うつもりはありません」
男が言い終わると同時に後ろに控えていた二人の男がフミさんへ襲いかかる。
キンキンッ!!!と刃物がぶつかり合う音が響く。
フミさんは上手く鎖鎌を操り二人の男の攻撃を交わしている。
私を抱き上げている男はフミさんの動きに感心しながらもその場から離れる。
「おっと清子さん、あまり暴れないでくださいな。旦那からは生きたまま連れて来いと言われてますが、暴れられるとこちらも困りますので」
「!んっんっんっ!!!」
それでも私はフミさんが心配で暴れながら声を出す。
「清子さま!」
私を心配したフミさんも男たちを相手にしながらも声を上げる。
「おいお前ら!女一人に何手こずってやがる!清子さんも大人しくしててくれませんか?手荒な真似はしたく無いので」
「んっんー!!」
それでも私は暴れながら声を出す。
フミさんが心配で。
そんな私に痺れを切らした男は 仕方ないですねー。と言いながら私のお腹に一撃を与えた。
意識を失う瞬間、私に気を取られたフミさんが背後からの一撃をくらってしまった。
私はその衝撃に目の前が暗くなり・・いつの間にか意識を飛ばしてしまっていた。




