二十二 浦部の力
「千代様はご自身の力に浦部の期待がかかっている事を恐れていました。それと同時に自分が産む子の将来を・・自身は天皇へ嫁ぐ事が決まっており、力を持って生まれた子は天皇家に利用される事が分かっているのに何も出来ないと・・」
ヨシはお母様の事を思い出しているのだろう・・とても辛そうな顔をしている。
私はそっとヨシの手を握る。
「では清子の母は自分の意思で野上に嫁いだのか?」
ヨシは旦那様の言葉に顔を上げると、今にでも泣きそうな顔になったがしっかりと頭を振った。
「いいえ、それはありません。すでに入内の日も決まっており準備も整っておりましたから」
「ではなぜ?一族の期待を背負った令嬢が、その期待を裏切るような事を・・」
「千代様は決して浦部を裏切ったのではありません!浦部の期待を裏切ってしまい、一番心を痛めたのは千代様なのですから!」
旦那様の言葉にとうとうヨシは泣き出してしまい、私と旦那様はヨシが落ち着くまで静かに待つ事にした。旦那様は席を立つと
「温かいお茶を頼んでくる」
「では私が・・」
「いや、清子はそのままで」
そう言い残し扉の方へ歩いて行った。
私は旦那様の背中を見つめているとヨシは私の手を握り返してきた。
「お嬢様、私は今から千代様の・・清子様のお母様の身に起きた事をお話します。辺境伯様は信頼出来る方ですか?清子様をお守り出来る方ですか?」
ヨシは真剣な目で見てきた。旦那様が信用出来る人なのかを確認するために。
それほどに私の母の身に何か起きたのだと感じた私は、躊躇う事なく 大丈夫! と答えた。
「千代様は毎月必ず浦部家の菩提寺へと足を運んでおりました。千代様の心を鎮めるために住職の元へ・・その日はお寺に咲く藤の花が見事に咲いており、来年からは気軽に来られないと寂しそうなお顔をされていました。
帰る時間までの間もう少し藤を見ていたいと言われ、私は車を呼びにその場を離れたのです。
お寺の中ですし、大丈夫だろうと・・」
その時の事を思い出したのか、ヨシの手は大きく震えている。
「車を呼びに行って直ぐに千代様の元へ戻ったのです。が、どこにも居なかったのです・・時間にしたら十分程です。なのに千代様はその場から消えてしまったのです・・まるで最初から千代様は居なかったかのように」
「住職は・・」
「もちろん一緒に探してくださいました。浦部の家に使いも出して、若い僧侶にも声をかけて・・それでも見つかりませんでした」
「・・・」
ヨシは浦部の当主に殴られ蹴られと折檻を受けた後、両手を縛られた状態で蔵へ閉じ込められたと言った。
浦部家からしたら陛下の寵愛を受ける娘。
次期国母になるかも知れない娘。
その娘が突然消えたとなれば、付き従ったヨシを責めるのも仕方がない。
当然のようにヨシの家族も家から一歩も出る事を許されず、監禁状態となった。
水も食事も与えられず、何日閉じ込められたのかも分からなくなったある日、蔵から出された。
ヨシは死をもって償うのだと覚悟を決めたが、見張から言われた言葉は
「千代様が見つかった」
だった。
お母様はお寺から数十キロ離れた空き家で発見された。だが、発見された時お母様は男性に対しすごく怯え怖がった。そして気を失った・・
「その日から数日、千代様は眠り続け目を覚ました時には連れ去られてからの記憶を失っていたのです。当主はその事を隠し恐れ多くも天皇家に報告をしなかったのです。そして入内の日、千代様は倒れられた。直ぐに奥医師が呼ばれ診察を受けると・・」
ヨシは言葉を止めた。
言いにくかったのだろう・・お母様の身に何が起きたのかを私に話す事を。
でもヨシは私を見つめると
「清子様をご懐妊されておりました」
と、はっきりと言葉にした。
そこから天皇家を騙したと、浦部の当主は隠居させられその娘が新しい当主となった。
新しい当主の仕事はお母様の、私の父親探しだった。当主は眠っているお母様から何が起きたのかを視た。
当主はあまりにも酷い事に心を痛め、天皇家に報告する前に野上家へと使いを出した。
「息子殿の子を入内する筈だった娘の腹にいる」
と・・
野上の当時の当主は焦り息子を問い詰めた。
問い詰められた息子は 魔が刺したんだ。と自供した為に(愛する二人を結ばせる)とし、鈴木家の娘との婚約を解消してお母様と籍を入れた。
「実は・・あの日、千代様を拉致したのは野上の息子と鈴木の息子でした。二人は夜通し酒を飲み、まだ酒が抜け切らない時に千代様を見かけたのだそうです。
二人は・・無理矢理・・」
「ありがとうヨシ!お母様の事は・・わかったから。それよりも私の力の事を・・教えて欲しいの」
聞いていて辛かった。
私より春子を可愛がったお父様の気持ちがわかったから・・
酔った勢いの遊びだった・・
ただ相手が悪かっただけ・・
まさか出来損ないの娘(私)が出来るなんて思いもしなかっただろう・・
私は生まれて来てはいけない娘だったんだ・・




