二十 デート
「清、明日は何か予定があるか?」
夜、食事が終わりお茶を飲んでいると急に旦那様が聞いてきた。
「特に・・ありませんが」
「そうか、では街へ出掛けないか?」
「街へですか?」
「やはり清子さまはこの色目もお似合いですわ」
「そう、ですか?少し明るくないですか?」
昨夜急に旦那様から誘われて街へ行く事になった。私はどの着物を着て行くか悩んでいたら、フミさんが声を掛けてくれたのだ。そしてフミさんが選んだこの着物は前に購入した中の一つで、季節的にはギリギリだった。
「今日は少し肌寒くなりそうで、この着物がちょうど良かったですわ」
季節は春から夏へ変わる時期。
昨日までは暖かい・・熱いくらいの日差しだったが、今日は少し肌寒い。
せっかく旦那様と二人で出掛けるのだからと振袖を選んだのだけど、着てみたらちょうど良かった。
「夜は更に冷え込むと言っていますが・・.琉生様のお車ですから大丈夫でしょう」
「フミさん、ありがとうございます。何かお土産を買って来ますね!」
「そんな気を使わないでください。折角ですから楽しんで来てくださいませね」
玄関を出れば旦那様は車の準備をしていた。
私は待たせてしまったと思い急いで旦那様の元へ行こうとした時、
「危ない」
石に躓いて転びそうになってしまった。
「も、申し訳ありません!旦那様!」
「いや、清が無事で良かった」
旦那様が手を差し伸べてくれたおかげで転ばずに済んだが、旦那様の腕の中に閉じ込められた状態に身体が固まってしまう。
「・・琉生様!」
「あっ、すまない。その、無事か?」
フミさんの声に我に返った旦那様は私から手を離す。
「はい、あの、ありがとうございます」
その言葉を口から出すのが精一杯だった。私は旦那様に手を引かれ車へ乗り込む。フミさんは笑顔で手を振り 楽しんで来てください。 と、声をかけてくれた。
街までは車で行く事が出来ないと、旦那様の仕事場へ寄る事になった。私が緊張で固まると
「車を停める場所は職場から少し離れているから大丈夫だ。そう緊張する事はない」
「良かったです・・」
旦那様の言う通り車を停める場所は皇居から少し離れていた。その分厩舎からは近かったようで・・
ヒヒ〜ン、ヒンヒン!ヒヒ〜ン!
と、間違いなくリュウの鳴き声が響いていた。旦那様は気付かれては困ると言ってリュウへ挨拶する事もなく急いでその場から離れた。
街の散策はとても楽しく、見るもの見るものが新しかった。
雑貨屋や装飾品屋。貸し本屋や花屋なんてのもあった。
屋敷の近くの町もそれなりに楽しめるが、街はそんな規模では無くとにかく楽しかった。
少し早めにお昼を食べ、また街を歩く。
旦那様は私の歩幅に合わせ歩いてくれるから、それだけでも嬉しかった。
歩き疲れたら甘味処で休憩。そこで初めてアイスクリンなる食べ物を口にした。
たくさん歩いたせいか身体は熱く、少し汗ばんでしまった。そんな時に旦那様が注文したアイスクリンは冷たいけど甘く、口に入れると溶けて無くなってしまった。
「!だ、旦那様。口に入れたら直ぐに溶けて無くなってしまいましたよ?」
なぜか小声になってしまい、そんな私に旦那様は優しく微笑まれた。
旦那様はアイスコーヒーと言う真っ黒な飲み物を美味しそうに飲んでいる。
そのお顔が、姿が光に当たり、また窓から入ってきた風に髪が揺れる。
その姿があまりに美しく、しばらく惚けてしまった。見れば周りの女性たちも旦那様に釘付けだ・・
「清?早く食べないと溶けてしまうよ?」
「ひゃ、ひゃい・・」
変な声が出てしまう。
この美しい人の隣り私の様な者が並んで立って良いのだろうか・・周りを見れば綺麗な女性や可愛らしい女性も旦那様を見ている。
不釣り合いだわ・・
そう考え始めると更に顔を上げる事が出来なくなってしまった。
甘味処を出ると今街で流行っている観劇を見る事になった。もちろん私は初めてで・・
「私も・・初めてだ・・凪に勧められてな」
予約をしてくれていたのだろう。案内された部屋は個室になっていて、旦那様と並んで舞台が見れるようになっていた。
演目は結婚を約束していた恋人と別れさせられるお話だった。
「清・・まだ涙は止まらないか?」
「ぐすっ、だって旦那さま・・二人が可哀想で・・グスッ」
感情移入してしまった私は涙が止まらず、旦那様は困り果ててしまった(笑)
「夜は食事をして帰ろう。清に食べさせたい店があるんだ」
そう言って連れて来てくれた店は、高級料亭だった。旦那様はそこまで格式は高くないから。と言ったが・・直感で高いと思った。
「火ノ川様、お待ちしておりました。お連れの方もお待ちで御座います」
女将に案内された奥の個室は街の夜景が一望出来る、料亭で一番の部屋だった。
が、そんな景色よりも私の目に飛び込んで来たのは・・
「ヨシ・・」
私の乳母、ヨシだった。




