十九 違和感 五 琉生目線
任務から急いで屋敷へ戻るが誰もいなかった。
式に探させると藤棚にいると知らせて来た。いつもの私なら着替えて向かう所だが式が見せた映像には、清の後ろに見知らぬ女性の影が映っていた。
そしてその女性が清を後ろから包み込んだ瞬間、清はその場に倒れ込んだ。
「清子!!」
私は無我夢中で清の元へ飛んだ・・
駆けつけた時、凪に呼び掛けられても目を覚さない清の姿が飛び込んできた。
私は我を忘れ清の側へ駆け寄ると凪から清を奪うように抱き上げた。
「何があった?」
「わからない・・突然倒れたの・・。周りにも誰もいなかったわ」
「誰も?」
凪はええ、と顔を縦に振る。
フミも同じように首を振った。
とりあえず清をこの場所に寝かせる訳にもいかないため抱き上げると急ぎ屋敷へと戻った。
屋敷に到着する直前で愛馬リュウに跨る隊長の姿が目に入り驚いた。聞けば普段おとなしいリュウが泣き叫び暴れたと・・
その時のリュウがなぜか私では無く、清に擦り寄った事に驚いた。
なぜならリュウは軍馬だから。
愛玩馬ならば優しくおとなしい馬が選ばれるが、軍馬はその逆だ。優しいと戦場で狙われてしまうし、妖にとっては餌になる事もある。
だから気の強い馬が選ばれる事が多い。リュウもそうだ。
産まれた時から人を寄せ付けず、言う事を聞かない馬だった。たまたま私との相性が合い(力でねじ伏せた)、そこからは人の言う事を聞くようにはなった。が、性格はそう簡単には治らない。
リュウは力のある者の言う事しか聞かないのだ。
そんなリュウが本気で清を心配していた。
しかも何回も顔を合わせているのに、これだけ心配した態度を見せたのは今回が初めてだった。
藤の花と関係があるのか?
少し引っ掛かったが、清を寝かせる事が優先だったため屋敷へと急いだ。
次におかしいと感じたのは清が目覚め、初めてニンジンをリュウヘ与えた時だ。
私や厩舎で働く人間以外から餌を食べた事がないリュウが、清の手から出されたニンジンやリンゴを喜んで食べたのだ。
あのフミでさえも食べてもらえず
「琉生様に似て好き嫌いがハッキリしてますこと」
と、軽く嫌味を言われたほどだ。
清の雰囲気も少し変わった。どこが?と言われると説明が難しいが・・しいて言えば姿勢だろうか。
今まででも悪くは無かったが、何かあると直ぐに下を向いていた。
だがあの時から下を向かなくなった。真っ直ぐに、何かを見つめているかのように、真っ直ぐ前を見ている。いや、見つめている、と言えば良いのか。
「旦那様お待たせいたしました。夕餉のお支度が整いました」
自室で書類に目を通していると襖の向こうから清の声が掛かる。私は直ぐに行く。とだけ返事をすると、目を通していた書類を引き出しにしまった。
「旦那様、少しお休みを頂けないでしょうか?」
食事も終わり食後のお茶を飲んでいると、清が言いにくそうに口に出した。
清から休みが欲しいと言ってきたのは初めてだ。
「それは構わないが・・何かあったのか?」
野上春子が清に接触した事は知っている。もしかしたらその件で一人行動しようとしているのか?
清は言いにくそうにしている。そんな清に助け舟を出したのはフミだ。
「清子様は幼い頃に離れ離れになった乳母の方とお会いしたいそうですよ」
「乳母?」
フミの言葉に聞き返すと、清は少し言いにくそうに話し始めた。
清が十二の歳に高齢を理由に実家に戻された乳母は、清の母が嫁いで来た際に実家から連れて来た女性だった。
乳母と言うよりは教育係に近い感じだ。
「その者の名はヨシと言い、その・・実母の事で聞きたい事がありまして・・」
自分の力の事で聞きたい事があるのだろう。貴族に嫁ぐには貴族でなければならない。
そして次に重要なのは 力 だ。より力の強い子孫を残すため、自分より強い力を持つ者との婚姻はノドの奥から手が出るほど欲しい縁組だ。
当然我が家の両親もそうだった。おかげで私も凪も皇族に仕える事が出来る力を持って産まれた。
清は自分に力が無いことを気にしている。そのせいで実家、野上家でも、肩身の狭い思いをしていた程だ。
「どこに住んでいるか知っているのか?」
「・・・」
清は俯きながら頭を横に振った。
十二で離れ離れになったんだ、そこまで詳しくは聞いていないか・・
それなら
「その者の事は私に任せてくれないか?人を探す事に長けている者が部下にいるんだ。少し時間をもらえれば・・」
「旦那様にお願いしても良いのでしょうか・・」
申し訳無さでいっぱいな、小さな声で聞いてきた。
「清が一人で探すよりは早く見つかると思う。もちろん清が探したいと言うのなら手伝うが?」
清が顔を上げる。
その顔には、目には涙が溜まっていて
「よろしく、お願いします」
そう言い終わると両目から涙が溢れ落ちた。




