十七 違和感 三
部下の声で駆け付けると四〜五名の男たちが捕らえられていた。
その男たちの身なりは妖に似ており、おそらくはこの姿で本物の妖を煽り町を襲っていたのだろう。
よく見れば全員に猿轡を噛ませている。
「術なのかそう命じられているのか・・隙を見て舌を噛もうとしたので」
男たちを捕らえた土守が報告をする。
聞くとこの男たちだけが動きがおかしい事に気付き地面に穴を開けた。本物の妖であれば簡単には落ちないが、この五人は簡単に落ちたらしい。
そして・・
「落ちた所に土を被せ気を失わせました。どんな攻撃をして来るのか分からなかったので・・」
「いや、良い判断だ」
俺は猿轡を噛まされた一人の男の前に座ると、相手の顔を見る。見られた男は顔を動かし目を逸らす。
私はその男の頭を掴むと正面へと向かせる。
「なぜ?目を逸らす」
「・・・」
「言わないか?言わないなら俺が言おうか?」
「・・・」
「お前、陛下の側に仕える者・・正確に言えば、陛下の執事に仕える者だな?」
「!!」
男は主人を当てられ明らかに動揺した。
「なぜ陛下の執事がここに?」
「・・・」
「・・言わないか?」
男は何かを話そうとしている。私は部下に細い猿轡へ交換させた。
外せばきっと舌を噛む。そう思い奥歯の所にだけ球結びがしてある紐へ交換させる。すると話は出来るが舌は噛まない。
「火ノ川様ですね。お察しの通り私めは執事殿の家来です。なぜ?と問われましたがその答えは・・」
男の肩が震えだす。
「!!」
「あな、たを、、ある、、、じょせい、から離す、、た、め、、、」
それだけを言うと口の中から血を吐き絶命した。
きっと命令を話すと命を奪う術が掛けられていたのだろう・・
だがそれよりも気になったのは・・
「小隊長・・清子さんが危ないのでは・・?」
そう、ある女性とは清子の事だ。
章子様は守りが固く尚且つ力がある。
凪も同様・・
「!小隊長、急いで戻ってください!後のことは俺がします!」
そう声を上げたのは土守だ。
「木柴も小隊長と行け!くそ、こんな時に風見がいれば・・」
風見は風を操る。その力は数人を風で運ぶ事も出来る。だが・・
「いや、私一人なら大丈夫だ」
そう言い終わると術を出す。
俺の力は火。
火は強ければ強いほど風を巻き込む。
俺は周りを巻き込まない様術を出すと
「あとは頼む」
そう言い残し屋敷のある方角へ飛んだ。
陛下の部下がなぜ町を襲ったのか・・
なぜ私と清子を離したのか・・
恐らく清子の力に関係があるのだろう・・
側にフミと風見がいるとは言え、清子の元へ急がなければ!
私は祈る思いで屋敷の方へと飛んだ。
「わぁぁぁ、綺麗ですねぇ」
私はフミさんに連れられ町の外れにある藤棚へと足を運んでいる。町の人が作った棚には薄紫の花をたくさん付けた藤が見事に咲いている。
その藤棚は先が見えないほど奥まで続いていて、至る所でゴザを敷いた人たちが花見を楽しんでいた。
「桜の花も綺麗だけど、藤の花も綺麗でしょ?」
声を掛けてきたのは旦那様の妹で凪様だ。
風見さんから私が春子に襲われた事を聞き付け、急いで来てくれたのだ。
突然こちらへ来て大丈夫なのか?とフミさんが問えば
「主人である章子様の命だから大丈夫よ」
と答えた。
凪様の主人と言えば天皇陛下の娘で内親王様だ。しかもただの内親王では無く、次期天皇と言われているお方だ!
その方の噂は屋敷から出られなかった私の耳にも入るお人で、天狐の力(神通力)をお持ちだとか・・
そんなお方がなぜ私を?
と疑問に思ったが、そこは深く追求してはいけない気がして黙った。
二人を見ると楽しげに藤の花を眺めている。
きっと春子の事で気落ちしている私を励ますために、ここまで連れて来てくれてのだ。そんな二人の優しさに心が温かくなった。
「凪様、フミさ・・!」
私は振り返りながら二人の名を呼んだ時、急に目の前が暗くなった。
気を失うとかでは無く、本当に真っ暗闇に自分一人が立っていた。
「凪さま・・、フミさん・・」
名前を呼ぶが返事はない。
今の状況が信じられず思わず自分の頬を抓るが
「痛い・・」
何が起きたのかも分からず不安になる。
恐る恐る前に進むが、本当に前に進んでいるのかもわからない。
不安と恐怖が入り混じり足を止めたそんな時、どこからとも無くリーンリーンと鈴の音が聞こえてくる。私はその音の鳴る方へ顔を向けると薄っすらと人影が見えた。鈴の音が大きくなるにつれ人影もはっきりと見えるようになる。
その影は数人の女性を連れた若い娘だった。
娘は綺麗に結われた髪に藤の花の髪飾りを付け、藤色の着物を着ていた。
(まるで藤の精霊ね)
リーンリーンと鈴の音が更に大きくなる。と同時になぜか私の頭の中に知らない女性が浮かんだ。
その女性は遠い昔の衣装を身につけていて、当然私の知る人では無かった。
鈴の音が止まると髪飾りを付けた娘は私の目の前に立ち止まると、私に話しかけてきた。
「待っていた」
「?」
「そなたを待っていた。ずっと・・」
そう言い終わると私の目の前に手をかざす。するとその手から藤の花が風に舞う様に私を覆った。
ああ、知ってる。
私はこの景色を見た事がある・・
「お久しぶりにございます。藤花様」
私の口が勝手に動いた。




