十四 皇女章子
「章子様、火ノ川琉生様がお越しになられました」
「そうか、通しなさい」
侍女がお兄様が来た事を伝えに来た。
お兄様からは数日前に章子様にお伺いの連絡が来ており、本日この時間に許しが出た。
「凪を残して他の者は部屋から出て行きなさい」
章子様に言われ、私以外の侍女は部屋から下がって行った。私の立場は章子様専属侍女であり、皇宮での役職は女御だ。
章子様は全員が下がったのを確かめると私に目配せをした。お兄様を通せとの意だ。
私は軽く頭を下げると侍女達が出て行った反対の扉を開ける。と、そこにはお兄様が立っていた。
章子様との謁見の為か、皺のない制服に身を包んだお兄様は妹の私からしても格好良い。
「火ノ川様、お待たせ致しました。皇女様がお待ちです」
「かたじけない」
たとえ兄妹とは言え仕事中は一線を引く。
「お久しぶりでございます皇女様。妹がお世話になっております」
章子様の前に立つと頭を下げる。
「凪は良く動いてくれていますよ。お座りなさい、凪お茶を」
「はい、皇女様」
兄も章子様に勧められソファーへと腰を下ろした。私は二人分のお茶を出すと章子様の後ろへと控える。
「妾が聞きたい事は察しておろう。其方の家に匿っておる娘の事じゃ」
「・・野上清子の事でしょうか」
章子様は頷くと私が淹れたお茶を一口飲む。
「あの娘は浦部の血の者だ。知っておるか?」
「清子の母の姓がそうだと調べております。が、その浦部家の事はいくら調べても出て来ません」
浦部?
初めて聞く家門だ。
「それもそのはず、浦部は本名(裏辺)と書き天皇家の裏側を司る家門なのだ。当然表の世界には出てこない」
「「?!」」
ふふ、と章子様が笑う。
どうやら兄妹で同じ驚き方をしたようだ。
「裏辺の力は秘密なのだ。よって表では浦部と名乗り、成人すれば裏へ回る。そしてこの裏辺の世襲は女性。男子はみな赤子の頃に養子に出される。だから誰も知らない」
残りのお茶を飲み干すと空の湯呑みをテーブルの上に置いた。
「その様な大事な事を、私達に聞かせて良かったのでしょうか・・」
お兄様が私の疑問と同じ事を聞いた。
章子様は更に笑うと
「お主らだから話したのだ」
と、ハッキリ言った。
「どんな経緯で野上の当主に嫁いだのかは知らんが本来、力を持った裏辺の女は皇室に嫁ぐ事が決まっている。その力が外に出ては困るからな」
「力を持つ。と言う事は皆が力を持って産まれる訳では無いと?」
「そうだ、力を持った娘が皇室に嫁ぐ。そうで無い娘は家門のため女子を産み血を繋ぐ」
あの清子さんにそんな高貴な血が流れていたなんて・・
驚いて声を失っていると、章子様は驚くのはまだ早いぞ?と話を続けた。
「妾の調べでは力を持つ娘は数代に一人、産まれるか産まれないかだそうだ。だが、全く力がない訳では無く相手の目を見るとその人の悩みや気持ちが分かるのだそうだ。だから別名 占当 とも言われていた」
「占当・・」
「そうじゃ、占い師として天皇家を支えていた」
それだけでもすごい力だ。
私たち、表に出ている貴族はほとんどが火や水などの力を出している。
でも清子さんの実家の力は、相手の内部に入り込む・・
「皇女様は清子にもその力があると、お思いなのですね」
「ああそうだ。清子の母、千代にはそこまででは無いが力があったと報告を受けていた。らしい。」
「らしい?とは」
章子様は私にお茶のお代わりをねだると、溜息をついた。そして
「裏辺の事は陛下にしか知らされないのだ。正直妾も占い婆が裏辺の人間だとは知らなかった。それこそ良く当てるなぁとしか・・な」
当時を思い出したのかクスクス笑い出す。
そして真顔になると信じられない事を話し始めた。
「本当なら清子の母、千代は陛下の妻になるはずであった。千代が学園を卒業したら入内する手筈となっていたと、妾の母も言っていた」
「「・・・」」
入内・・皇宮に入り陛下の寵を受ける者。
浦部の者は入内まで徹底的に隠される。だから千代が裏辺の者だとは陛下以外は知られていなかった。はずなのに、入内の直前で野上の当主に嫁いだ事になる・・
「不思議であろう?だが、もっと不思議なのは野上の妻となった娘が、どこの家の娘なのかが誰も知らなかった事なんだよ」
「・・皇女様は野上の当主と、鈴木の当主。それに陛下の執事が関係していると思われますか?」
お兄様の言葉に章子様は目を細めた。私はこの場にいて良いのか・・これ以上関わってはいけない。
頭の中で思うのにこの場から離れる事が出来ないのは、最近出来た友が関係しているからだ。
「それをお主に調べてもらいたい!もちろん清子を守りながら・・出来るか?」
「清子はすでに我が家の者。守るのは当主である私の役目です。そして、その清子が狙われるのであるならば、その芽を摘むために動きます」
「お兄さま・・」
「まだ清子の力がハッキリしない故に難しいと思うが、必要であれば凪や妾の私兵を貸そう」
章子様の申し出にお兄様は少し考えたが、直ぐに考えを伝え始めた。
「お申し出、ありがとうございます。ですが相手がどんな奴か分からない以上、我が特攻が動いた方が良いかと」
お兄様の言葉に納得された章子様は、よろしく頼む!とだけ伝えると部屋から下がって行った。
私は章子様を見送ると直ぐにお兄様に声をかける。
「私を清子さんの護衛に就かせて欲しい!」
と・・




