十三 兄と妹
「章子様が清子さんの事を知りたがっているの。話せる所までで良いから聞かせて欲しい」
俺は凪に言われるまま轟さんへ式を飛ばすと、待ちきれなかったのか話始めた。
「・・そちらでも調べたのでは無いのか?」
「正直に言えば清子さんの存在は今まで隠されていたわ。貴族の戸籍からも・・消されていたわ。母親が亡くなった時に一緒に・・」
「・・」
「だから調べられなかったの、清子さんの事は・・」
そう、清子は今貴族籍に載っていない。
今の清子は平民だ。
なぜ野上の当主がそんな事をしたのか、そこが引っ掛かっている。
俺は話せる範囲で清子の事を凪に話した。
と言ってもまだ話せる事は少ない。
凪は少し考えた後
「清子さんのお母様の事も正直謎に包まれているの・・。章子様は何か知っている様子ではあったけれど。お兄様、これから先清子さんはある事に巻き込まれるわ。章子様がそう言ったから間違いない。そして・・まぁ良いわ。とにかく一度章子様が会いたいと仰ってたから近いうちに来てね」
何かを言いかけて止めた先の言葉は、章子様が話す事なのだろう。
凪はそのまま迎えに来ていた車に乗り込むと皇居へと帰って行った。
凪は皇女章子様へ仕える女御だ。
章子様は何人か居る皇子皇女の中でも次期天皇と言われる程の力を持っていて、天狐の先祖返りとまで言われる程の神通力を持っている。
そんな方へ仕えている凪は我が一門の光だ。
そして凪の婚約者であり、俺の上司である轟様は凪との婚姻後に上に上がる事が決まっている。
本部の中枢部へ。
[そうそう、お兄様!清子さんの籍は私に任せておいて!それよりも、清子さんを逃がしてはダメよ!絶対に!彼女は色々な意味で原石だわ!良い?絶対に繋ぎ止めるのよ!!]
と言い残し去って行った。
「繋ぎ止めるも何も、決めるのは清子なのに・・」
今はまだこの屋敷から出すつもりは無いが、事が片付けば自由にするつもりだ。
清子ならこの屋敷よりももっと良い所へ紹介する事も出来る。
何なら皇宮でも・・もしかしたら縁談の話だってくるだろう。
素直で明るくて料理も美味い。
清子は我が屋に助けられたと思っているが・・
「凪の言う通り、救われたのは俺の方かも知れないな」
俺は凪が乗る車を見送りながら独り言を漏らした。
清子と出会う前の俺は女性に対し何の感情も湧かなかった。むしろ嫌悪感しか無く、夜会に義理で出席してもエスコートなどする気にもならずいつも一人で出席していた。
近寄って来る女性に対しても冷めた態度を取っていた事は間違いない。
嫌悪感しか湧かない相手に優しくするつもりなどなかったからだ。
部下達が令嬢の話をしていても興味すら湧かなかった。女の何が良いのだ?そんな言葉を平気で言っていた。のに・・清子に対してはそれが無かった。
最初は清子の力が気になり、上司である轟さんに頼まれた事もあってこの屋敷へ連れて来たが
「あのフミが一目見た清子を気に入ったのは意外だったな」
人を見る目はあります!これはフミがいつも言っている言葉だ。
フミは昔から火ノ川家に仕える女中で、好き嫌いが激しいで有名だった。
と言っても本人の好き嫌いでは無く火ノ川家にとって良い悪いで判断していたと、今ならわかる。
人が居なくなってもフミは肉体強化の力があるから、人の十倍は仕事が出来たから母も何も言わなかった。
俺が産まれてからは特に酷かったと母は良く笑いながら話していた。
俺の婚約者としての立場欲しさに近づいて来る家門が多かったからだ。
そんなフミや凪の心を簡単に掴んでしまった清子。もしかしたら俺も・・
「旦那様?」
俺の戻りが遅く心配したのか、清子は静かに声を掛けてきた。
俺は清子の方に身体を向けると、暗がりでも分かるほど赤い顔をした清子が立っていた。
「あの、暖かくなったとは言え夜はまだ冷えます。お風呂の準備も出来ておりますよ」
「ああそうだな。風呂をいただこう」
俺の言葉に安心したのか玄関を開けると俺が通るのを待つ。
「?」
無意識に清子の前で立ち止まると清子の顔を眺めていた。俺の視線に気付いた清子は更に顔を赤くする。
こんなにも純粋な娘の身に何が起こるのだろうか・・
「旦那様?」
「すまない、凪に何か言われなかったか?」
「いいえ、凪様とは楽しい時間を過ごさせていただきました」
「そうか」
俺は清子の頭に手を置くとそのまま屋敷へと入った。
俺の後ろから清子も入って来る。なぜか耳まで赤くして・・
その夜の食卓には今までに無く多くの皿が並べられており、凪のために振る舞われたと分かっているが少しだけ、本当に少しだけ腹が立ってしまった。
その中でも清子は俺にだけと煮魚を持って来た。
お昼の残りばかりでは・・と、俺が風呂に入っている間に作ってくれた物だとフミが教えてくれた。
そんな気遣いが嬉しくて、先程まで立った腹の中は美味い煮魚の味に消されていた。




