十一 女子会?
「清子さま、本日昼頃に凪様がお見えになられると連絡がありました」
「えっ?凪様が?」
朝餉の片付けをしていると旦那様の見送りから戻ったフミさんが困ったように言ってきた。
何でも凪様はいつも突然来られるらしく・・
「せめて昨日の昼にでも連絡があれば買い出しに行けましたのに」
何があったかしら・・と、冷蔵庫や倉庫を覗き込んでいた。
私からしたらフミさんが作る物は全てが美味しいから悩む必要も無いかと思うのだけれど、フミさん曰く
「凪様はいつも皇居のお食事を食べられていますでしょ?こんな婆が作る物では満足出来ないのでは」
と不安気だ。
「そう言えば凪様が 久しぶりにフミさんの手料理が食べたいから!と仰ってました。だから普段通りのお料理でお喜びになられると思いますよ」
私の言葉でフミさんが目を細めた。少しは安心したかな?私はフミさんの言う通り手を動かした。
余れば夜にでもお出ししましょう。と言って、全部で五品の料理を作った。
煮物に酢の物。焼き物に揚げ物。お浸しにお漬物、最後はご飯とお味噌汁。
なぜかお味噌汁は私に作って欲しいと言われ、普段通りに作った。
出来た料理をお皿に移し終えると同時に玄関が開く音が聞こえてきた。
「フミー。清子さん。来たわよー」
その声に反応したフミさんは
「まぁ凪様ったら、ここはご実家では無いと言うのに・・」
と、言葉では困ったような口振りだったけれど、どこか嬉しそうだった。
「フミさん、凪様をお待たせしては・・」
「ええ、清子さまも一緒に参りましょう」
急いで割烹着を脱ぐと玄関へお出迎えに向かった。
玄関に立つ凪様を見た時、自信に溢れた素敵な女性との印象を持った。
今はまだ珍しい洋装に身を包み、踵の高い靴を履く姿は女性の私でも見惚れてしまった。
「まぁぁ凪様ったらハイカラさんになられましたねー。こんなヒラヒラしたお洋服なんて・・」
「やだフミったら!都では珍しく無いわよ!」
「ここは都ではありませんよ?とにかく良くおいでになりました。ささ、中へお入りください」
凪様は フミの考えは古いわよ!とか、そんな考えでは清子さんが可哀想だわ!とか叫んでいたが、当のフミさんは普段と変わらない態度で凪様を案内していた。
そんな二人の姿を見て思わず笑ってしまう。
「まずはお昼にいたしましょう。清子さまと一緒に作ったんですよ」
「うわぁ、私こう言う料理がすごく食べたかったの!」
「凪様はいつももっと美味しい物を食べられているのではありませんか?」
フミさんがご飯をよそいながら問うと
「見た目は確かに素晴らしいわ!でもねー、味が薄いの・・健康を考えてだとはわかっているけど・・物足りないのよねー」
そう言いながら煮物や揚げ物などに手を付けていた。私は温めなおしたお味噌汁を凪様とフミさんに出すと、凪様はお味噌汁の香りを嗅ぎ
「このお味噌汁、何か良い香りがするわね」
そう言いながら椀を口に付けた。
「えっ!何このお味噌汁!すごく美味しい!!」
そう言いながらお椀の中の物を全て飲み干した凪様に、フミさんは嬉しそうに頷いた。
凪様は お代わり!と言ってお椀を差し出し、それを私が受け取る。
自分が作った物をこんなにも喜んでもらえるなんて・・
ところが凪様から出た言葉は
「やっぱりフミの作る料理は全てが美味しいわ!毎日この料理が食べられるお兄様が本当に羨ましいわ!」
だった。
振り返れば酢の物や焼き物を 美味しい美味しいと言いながら口に運んでいた。
それもそうか、凪様はフミさんの手料理を食べにこの屋敷へ足を運んだのだから・・
当然机の上に並べられた料理は全てフミさんの手作りだと思うはずだ。
嬉しい気持ちから一気に下がった感情をどう落ち着かせたら良いのか悩んでいたら
「そちらの酢の物と揚げ物。それからお味噌汁は清子さまがお作りになった料理ですよ。美味しいですよね、琉生様もいつも美味しそうに召し上がられておりますよ」
「!」
「えっ?これも清子さんが作ったの!?すごく美味しいわ」
私が立ち尽くしているとフミさんが私を見ていた事に気がつく。
私はフミさんの気持ちに気付くと涙が溢れてしまった。でもこの涙は野上の家で流していた涙とは真逆で、とても胸が熱くなる涙だった。
私は急いで台所へと向かうと急いでお味噌汁をお椀へと注いだ。
「それにしても清子さんはどこで料理を学ばれたの?ほら、私も来年にはお嫁に行くことが決まっているでしょ?もちろん私が直接料理を作ることは無いと思うけれど・・」
「そう言えば凪様、嫁入りの準備はすすんでいるのですか?着物は?家具は?」
「着物も家具もお母様が準備していますよ。あの轟家に嫁ぐのですから、ものすごく力が入っているわよ」
まるで他人事のように話す凪様に違和感があった。本来なら自分の着物や家具だ。親と一緒に選ぶ物だろう・・この間の私の着物選びのように。
「清子さんが不思議に思うのも無理ないわ。私だって本当なら自分で着る着物くらい選びたいし、家具だって・・でもほら私って皇女さま付きだし、お相手は侯爵様だからお母様が張り切ってね・・」
それに・・と口を閉じてしまった凪様がその後ご自身の結婚話をする事は無かった。




