第194話
更新が1日遅れました~っ;
笑い転げてオレの肩から膝へ落ち、なおも身をよじってヒィヒィ唸っているオーリィと、それを恨めし気に睨む仙人ヒゲの爺っさま。
可愛い系の魔獣が醸し出す、何とも滑稽な場面がそこにあった。
「ふっ……ふふっ…」
小さな笑いが横からこぼれる。両手で口を押さえ、リーリアが笑っていた。
「彼らはアーミンという種族なんだ」
オレはそっと話しかけた。
「アーミン?」
「そう。とても賢い奴らでね。君の様なエルフなら彼らの声を聴くことができるんだ」
そう言うと、リーリアは首をかしげる。
「でも、あんたはヒト、だよね。どうしてわかるのさ?」
「まあ、なんていうか……たまたまそうなった、てのが一番正しいかな」
「たまたまで聞こえるもの、なのかなぁ……」
オレの認識では合ってるんだけど。
「キュルッキュキュ! キュルルル~!(そうじゃないっちゃ! そのお人が規格外なだけだっちゃ~!)」
ひっくり返ったまま、オーリィが叫ぶ。何を失礼な。
「規格外? あんた、ええと……」
「あッと忘れてた。オレは……『ゼオン』だ。この姿だと、な」
「この姿……?」
不思議そうにオレを見上げるリーリアに笑いかけ、発動中の魔石を握る。
「『解除』…元の姿へ」
「っ! 髪の毛と顔が変わったっ!?」
「キュルキュルキュル~♪(これがこのお人の素顔だっちゃ~♪)」
何でお前が得意げな顔するんだよ。訳わからん。
「キュウリィ~、キュルキュルゥリィィ~(なるほどの~、『新生エリシオ教国の英雄』ケインだっちゃかの~)」
うわぉ、その呼び名を知ってたんだ爺っさま。隅に置けないな、この種族は。
「エリシオ……? 英雄って??」
更に首をかしげるリーリア。あんまり曲げてると首を痛めるよ。それに頭からはたくさんの疑問符が生えてきたように見える。
こりゃしっかり説明しないと誤解されるかも。
「えーと……発端はだな、そこのオーリィに連れられて行った先で、偶然! 偶然エリシオ教国のお姫さんと知り合ったんだ、それでいろいろ話をして、だな、まぁ、ほっとけなくなって。手を貸してたらいつの間にかそう呼ばれてたんだ」
決してオレの本意じゃない! オレはただ穏やかに生きていきたいだけなんだから!
「キュルッキュルル~(それは無理だっちゃよ~)」
「キュウゥリリィ~(それほどの力があってはの~)」
くぅ~、アーミンたちに否定されてしまった……。なんちゅうか、心が抉られるな~(泣)
「そんなに強いケインが、何故姿を変えているのかな?」
絶賛混乱中のリーリアだが、それでも的確に疑問をぶつけてくる。
「変に有名になっちまったことと、ここ……ガルマン帝国に知られたくないからなんだよ」
「知られたくない?」
ホント、ここには来たくなかったんだけどなぁ。
「ここに魔道具製作省ってあるんだけど、知ってるか?」
訊くと、なぜか息をのむ。
「! そこって、人をたくさん集めてる場所だよ。嫌なところ!」
おや、随分と嫌われてるようだが。
「どうしてそんなに嫌うんだ?」
「だっておかしいんだよ! スラムへも何回か来て、みんなを誘ってたんだよ。その時にさ『お腹いっぱい食べてゆっくり眠れる場所、欲しくない?』……そう言って、食べ物や飲み物を配って。『足りないのなら、ついておいで。もっとあげるよ』手招きしたヒトにみんなふらふらとついていった」
俯いて唇をかむ。
「キミはどうして行かなかったんだ?」
「優しそうなお兄さんなのに、なんだか嫌な感じで……」
それに、と、眼を細める。
「飲み物に何か入ってた。マーヤが『これは口にしちゃだめよ』って教えてくれた味がして、たくさん飲んだ人たちがおかしくなったんだ」
表情が抜け落ちた顔で立ち上がり、引き留める仲間の声も届かない様子だったという。
「そうやってついていった人たちは、誰も帰ってこなかった」
そんなことが何回かあったから、みんなも不審感を覚えて集まらなくなったらしい。
ふむ。話しからすると精神系の薬でも入れて操ってるのか。やる事がえげつないな。
「あいつがやりそうなことだよな」
「あいつって、誰の事?」
「魔道具製作省の筆頭チーフ、タケル・マティスだ。そいつとだけは顔を合わせたくない」
問答無用でオレを殺しにかかった奴だしな。
あんなヤバい相手と縁を繋ぎたくないんだが……
「ま、いつかはきっちり対峙して話をつけなきゃならんだろうが、今は見つかりたくない。だから顔を変えているんだよ」
「そうなんだ」
それにしても。
「マーヤは薬師だったのかな」
「うん。ダンが森で薬草を集めて、マーヤが薬にしていた。ボクも教えてもらってたんだ」
「そうか。でも、危ない薬の味を覚えていたなんて、キミ凄いよ」
思わず頭をなでたらくすぐったそうに首を縮めながらも、嬉しそうにほほを緩めたが。
その笑顔が掻き消える。
「二人とも冒険者で、強かった。でも、病気には勝てなかったんだ……」
3年前、流行病がここガルマン帝国を襲ったのだそうだ。
それも最初は狙いすましたようにスラムとその周辺だけを。
そのため当初は帝国の上層部も見て見ぬふりをしていたそうだ。
だが、お貴族様と貴族街に近い高級帝国民(メイン通りを歩く着飾った一般民の事をそういうんだそうだ)まで病魔が侵入し、深刻な事態に発展したため慌てて対処に奔ったらしい。
大急ぎで薬が開発されてお貴族様たちにはあまり影響がなかったが、ほぼ全域に広まっていたスラムとその周辺地域は壊滅的な打撃を受けていた。流行病の特定に時間がかかり、薬が間に合わなかった、と公式では発表されていたが、誰もその内容を信じなかったという。
軽い咳と頭痛に始まり、その2,3日後には一気に高熱を発する。その前兆として口の中に水疱が出来、そのために水すらも飲み込むのが辛くなり……脱水症状を起こして死亡する。
乳幼児はもとより、成人した大人ですら逃れられない死神の鎌だった。
「ダンもマーヤもあっという間に……倒れて、起きられなくなって……一生懸命に薬を造ってたのに、効かなくてっ!」
俯いた顔からぽろぽろと透明なしずくが膝に落ちて、爺っさまの毛皮に弾かれた。
爺っさまが肩へ飛び乗る。
「キュウルゥリリィ、キュルルウゥゥ~~(そのように泣くではないっちゃよ、きれいな眼が濁ってしまうでの~~)」
長いしっぽで首周りを巻き込み、そっと手で涙を払ってやっている。
あの仕草覚えている。『黒の森』でオレが凹んでいた時にオーリィがやってくれたんだった。
あの時は言葉がわからなかったけど、心が慰められてほっこりしたんだよ。
この種族、本当に優しい心根を持ってるんだな。
「頑張ったんだな、キミは。よくやったよ」
そう言って肩を何回か叩き、抱き寄せる。
保護してくれた大人たちと死に別れてから3年間、この子は独りで生き抜いてきたんだ。
その苦労や哀しみに手は届かなくとも、寄り添うことはできるだろう。
引き寄せた時にちょっと硬くなったが、そのままゆっくりとオレの上着をつかんできた。
「うっ……ううう~……うわあぁぁ~~ん!!」
泣き声とともに上着がじんわりと湿ってくる。
いいさこれくらい。3年間溜まりに溜まった涙をここで流しきると良いよ。
作者の体調不良で更新が遅れてしまいました。
それと、色々感想をいただきました!
ありがとうござい余す。
病気治療により今は底辺を彷徨っている作者の
健康と気概が戻り次第、返信していきます。
誤字報告も感謝!です。
おいでいただき、ありがとうございます。




