第192話
オレの手のひらにあるイヤリングから感じる魔力。
魔力の波長には覚えがある。これは『幻惑』もしくは『変身』の魔法が込められてるな。
どうやって手に入れたのかは分からないが、これがあったからこの子は気づかれることなくここまで隠れていられたんだろう。
ふと見ると、『バインド』が解けかけている。エルフだからか、魔法に対する抵抗力が高い。
さて、どうするか。
「睡眠」
額に指を突き付けて唱える。オレを睨みつける水色の瞳が揺らぎ、瞼に遮られた。
崩れ落ちる小さな体を支え、『ストレージ』から出した大きめの袋へと移す。
「ちょっと不自由だが我慢してくれよ。まずは安全なところに行かないとな」
オレが張った『結界』を破ろうと何人もの敵性対象がうごめいている。相手にするつもりはないんだ。
『無重力浮遊』と『ウインド』をかけて屋根から屋根へと移動する。ある程度離れたところであの場所にかけていた魔法を解除した。
一気に雪崩れ込んでいく赤いマーカーに慄く。
(あんなに集まっていたのか~。野生の勘っておっそろしいな)
ひと気のない路地に飛び降り、そのまま門を目指す。
門兵にカードを示して外へと向かうが、
「今からどこへ行くんだ?」
などと質問された。
(ここの人間はよそ者の見張りでもしてるんだろうか?)
イラっと来たがそれを呑み込み、見かけ上は大人しく答える。
「下見に南の森まで行ってくる。すぐに戻るつもりだ」
「ほう、そうか。南の森の魔獣は手ごわいからな、気をつけろよ」
「それはどうも」
(まったく、どいつもこいつも陰険な言い方しやがって!……とと、こいつらもモルティ家の息がかかっているのか)
あの、冒険者を装ったお坊ちゃん貴族の家名がそうだったな。
やれやれ、面倒なことだ。
とはいえ、あのお坊ちゃんの誘いを断っているんだ、下見に行くといったのは正解だったかも。
オレは怪しまれない程度に足を急がせて南の森へと分け入った。
「この辺でいいか」
入り口から少し入った小さな水場にエルフの守りがかかっていた。前の村に居た時に使っていたのだろう、石を丸く置いた焚火跡が残っている。
オレはそっと袋を下ろし、小さな体を外へと出した。
「いくつか知らんが、随分軽いなこの子」
袋を毛布代わりに敷いて寝かせながら『鑑定』をかける。
名前 リーリア (本名:?)
職業 スラムの孤児 生を受けて23年目(エルフ年齢:7歳)
POW 89
STR 56
VIT 55
DEF 97
MGP 205
MGR 183
INT 157
LUK 193
EXP 16
スキル 風魔法(レベル2) 水魔法(レベル3) 土魔法(レベル1)
敏捷 疾風 穏身
特殊スキル 植物神ヴォターニュの加護と祝福
※ 注意事項…ヴォターニュ神の加護と祝福があるものの、現在の
ところ緑魔法は発現していない。同じように土魔法も低レベル
にとどまっている。
現在:飢餓状態
(あっらぁ~、これはまた滅茶苦茶な)
本名、すなわち真名の部分が分からないのは多分。
(……この子が生まれたその当時、真名を送る親がいなかった、てことか?)
エルフは子供につける真名を非常に大切にするという。生まれてきた子の人生を守るために、親が愛情込めてつけるのだとか。
(それだけ差し迫った状況だったんだろうな……それに)
ステータスの数値が凄い。
POW(体力)やSTR(力の強さ)、VIT(持久力)はこの年齢なら頷ける。問題はMGP(魔法攻撃力)とMGR(魔法防御力)の数値だ。
流石エルフ、子供でこれだけの力があるとは!
それだけじゃない。INT(知性)だって見事なものだ。知識の有無はさておき、ちょっとした薬師や錬金術師の駆け出しにも並ぶくらいの高い数値となっている。
(LUK(幸運)の高さは……こんな環境で生き抜けたんだ、低い訳ないよな)
スキルにしても、生きていくためには必要なモノが並んでいる。
だがそれよりも優先すべきことがある。
(飢餓状態だとぉ!? こりゃ一刻も早く治さないと)
焚火跡に途中で拾った枯れ枝を置き火をつける。そして簡易のかまどを取り付けた。
小さな鍋に水を入れ、その中にホーンラビットの肉を細かく裂き、肉の残っている骨とともに放り込む。オレとしては昆布を追加したいんだが、内陸ではあまり馴染みがないだろう。
骨を引き上げてから乾燥した野菜とミルクを流し込み、最後にパンの耳を追加で入れて出来上がり。
辺りに漂う匂いに惹かれてか、眠ったままなのに鼻がひくひく動いている。
「睡眠解除」
その言葉と同時にむくりと起き上がる浮浪児、いやリーリア。
眠そうに目をこすりながらも、一番に見つけたのはナベ。
口元を緩ませながら次に目を向けたのは周辺の景色。
不思議そうに首を傾げ、最後にオレを見る。途端に警戒感を顔に出し、威嚇とともに身をひるがえし……かけた、が。
「ぶっ!?」
鼻を押さえてひっくり返ってきた。
「おいおい危ないぞ」
かまどに突っ込みそうだったので慌てて支え、オレの横へと座らせる。
「済まないな。魔獣が寄ってこないようにと『結界』を張ってるんだ。うっかりしていたよ」
「~~~っ」
鼻へ手をやったまま涙目で睨んでくるリーリアの口に飴玉を押し込んでやる。
一瞬目を丸くして、でも口をもごもごさせて味わう。飴玉が両方のほっぺたを行き来する姿はまるでリスだ。
その様子を横目で見ながらオレはナベの中身を小さな器によそってかき回す。優しいミルクの香りが立ち上り、食欲を刺激してくる。
一生懸命に飴玉を転がしていたリーリアにもその匂いは届いたようだ。手が離れた鼻がひくひく動き、視線が器をガン見したまま動かない。
キュルルル~ グググウゥゥ~ッ
魔獣の唸り声にも似た音が隣から響いてきた。横を向けば、真っ赤な顔でお腹を押さえている。
「まだちょっと熱いが大丈夫だろう。ゆっくり食べろよ」
器とスプーンを両手に握らせてやると、驚いたように見上げてくる。
「どうした。食べないのか?」
「…………るの?」
幽かな声が耳に届く。
「ん、何だって?」
「これ、食べていいの?」
鈴を振るような、耳に心地よい声だ。
「腹を空かせてる子供に飯をふるまうのが可笑しいか?」
「だって、ボク……スラムの住人、なのに」
うわぉ、ボクっ娘発言いただきましたよ!
コホン……ではなく。
「スラムに住み続けたいのか、お前は?」
訊き返すと、思いっきり頭を振った。
「誰も住みたくてスラムに居ないだろ。なら、ただの子供だ」
「で、でもっ!」
「あとは、そう……オレの自己満足、かな」
「自己、満足……」
「手の届く範囲なら何とかしたいし、できると思う。でも、それ以上は無理。言ってみれば我が儘だな」
ははは、と笑うオレを見上げる瞳が潤んでいる。
「ま、そんな訳でさ、オレの我が儘に付き合ってくれよ。さあ、食べな」
「…うん……」
小さく頷き、スプーンを口に運ぶ。
「熱っ! でも美味しい……」
「そうか。すきっ腹のようだからゆっくりな。早すぎると戻しちまうぞ」
「わかった……すごく、美味し、い……うっ」
泣き声が混じっていたが聞かなかったふりをする。洗った鍋に湯と茶葉を注ぎ、そこへハチミツを落とす。『鵺の里』でもらった茶葉とジャイアントビーの蜜だから甘さは折り紙付きだ。熱くならないよう早めに火からおろしてコップに移す。
隣りを見れば、カラになった器を物欲し気に見つめているので、コップと器を交換してやる。
「え……?」
「まだ足りないとは思うが、一度にたくさん食べてはかえって体を壊す。これでも飲んで腹の虫を宥めてやることだな」
言われるままにそっと口をつけるリーリア。白い湯気が耳元からうなじへ抜ける。
「甘い……ハチミツだ……マーヤの味…」
おや、知らない名前が出てきたが。これは彼女の保護者、かな?
何回も読み直してるんですが、気になる箇所が出てきて……。
ひとつ直すとまたひとつ……。モグラ叩きやってる感じです。
可笑しな文章になっていないと良いのですが。
おいでいただき、ありがとうございます。




