第191話
新年になりまして、初めての本編です。
遅くなってすみませんでした。
オレが見つけた追跡者は……浮浪児だった。それも、スラムになら確実にいるだろうと思われる、全体的にすさんだ雰囲気を漂わせていた。
(でもあいつ、大通りの向こう側から視線を飛ばしてきたよな? なら、そう心配することもないか)
まぁ、通りを横切ることもできないだろう、そう思ってオレは周辺へと注意を変える。
(お? この壁の色、ここから変わってるな)
大通りの輝かしい黄金色から普通の土壁になっている。
(なるほど、ここからは一般庶民の領域ってわけだ)
大通りを闊歩しているキラキラしい連中も一般庶民なんだが、あの衣装を与えられているらしい。宿屋のご亭主がそう言っていた。
(何でもかんでも格差をつけるって事か。鬱陶しい連中だな)
内心ため息をついていると。
(あれ、さっきの視線が近くに来ている?)
いつの間にか、あの浮浪児が近くの物陰に潜んでいた。
こいつ、空でも飛んできたか?
(そんなわけないな、なに馬鹿な事考えてるんだよ)
そっと辺りを見渡せば。
(あ、あれか!)
浮浪児の足元にあるのはマンホールらしき蓋。
要するに、下水道を移動してきたってことだな。
確認するためにゆっくりと歩を進める。浮浪児はきょろきょろと辺りを見回し……ふたを開けて滑り込む。
その速さときたら、キラーラットより素早そうだ。
そして数舜ののち、少し先の横道から飛び出してきて、またオレを注視している。
(ほぉお、なかなかすごい運動能力だな)
もう少し様子を見ようかと前を見ると、なにやら人だかりがしている。それは或る商店の入り口みたいだ。
上を見れば『オーマイン商会』の名がでかでかと書かれていた。
「なあ、どうして集まっているんだ?」
近くに立っていた人に尋ねると。
「ん、あんた冒険者かい? ちょうどいいときにきたね! 『オーマイン商会』の支店長が先日帰ってきたんだよ、それも別嬪さんの嫁を連れてさぁ! で、『幸せのおすそ分け』で小さなお土産を配るんだよ。昨日はクッキーだったんだけど、それが美味しくてさあ! 今日は何を配るのか楽しみなんだよ!」
エプロンをつけたままのおかみさんが満面の笑みで答えてくれた。
そっか、無事に帰ってこれたんだな、よかったよかった。
それからもひとしきり喋りまくるおかみさんの相手をしていたら、商会の入り口から大きな箱を抱えた従業員が現れた。
そのまま配るのかと思ったら、商会入り口にある小さな木の台に乗って声を張り上げる。
「えー、お集りの皆様、お待たせしました! 本日の『幸せのおすそ分け』をお配りします! 今回は遠国の風習に習いまして、ここから皆様に向かってばらまかせていただきます! さあ、こぞってお集め下さいませ~!」
そう言うなり、箱の中から手づかみで引っ張り出したものをばらまいた。
ワッとばかりに人々が手を伸ばし、物をつかもうとどよめく。
オレもひとつつかんで引き寄せる。それはラッピングされた小袋に入ったアメだった。
ひとつ口に入れるとイチゴミルクの味がする。懐かしいな。
思わず手を伸ばして幾つか小袋をゲットした。
オレと話していたおかみさんは、エプロンの裾を両手で広げて持ち、その中に集めている。流石年季が入ってるな。
それにしてもかなりの数だ。ここにいる人全員に2~3個は行き渡ったんじゃなかろうか。
中には落ちたものを拾ってる奴もいるし。
「ちょっと、それ私が先に見つけたのよっ!」
「なに言ってんだいっ、手にした方が勝ちさぁ!」
「きぃぃっ、このクソババアが!」
「尻の青い小娘は口ばっかりだね!」
何やら女の闘争みたいなのがあちこちで起きている。男性陣はみんな引いてるなぁ。
オレも早々に騒ぎを遠目に見ていたが、入り口付近に現れた人影を見て頷く。
(あれはディシオとモナンザだ。おーお、幸せそうにくっついて)
「皆様、今日もたくさんお集まりいただき、誠に有難うございます。本日の『幸せのおすそ分け』はこれで終了いたします。また明日も行いますので、是非おいでくださいませ。また、『幸せのおすそ分け』は皆様の幸福と繁栄を祈る想いも込められております。これからも力を合わせて帝都を盛り上げて参りましょう!」
ワァッと声を上げる群衆に一礼し、二人は下がっていく。
うん、上手い収め方だな。これなら誰も無茶苦茶に欲張らないだろう。
事実、エプロンでしっかり集めていたおかみさんは、拾い損ねた子供や年寄りに分けてやっているし、な。
ふと気が付けば、オレを注視していた視線がおかみさんに向けられている。何やら悔しそうな、物欲しそうな視線。
(やっぱり子供だな)
拾いに行きたくとも、自分の恰好では蹴飛ばされることを知っているのだろう。
一般庶民とスラムの人間とはそれくらい違うんだ。
(ん、ならこの手で釣り出すか)
オレは懐からひとつ小袋を出し、指に引っ掛けてぶらぶらさせる。途端に浮浪児の視線がオレに……いや、オレの指先に移って固定された。
(よし、成功!)
そのままゆっくりと浮浪児の居る脇道へ近づく。
と、小さな影が飛び出してオレの指先にある小袋を引っさらい、すぐに脇道へと逃げ込んだ。
「おい、待てよ」
声だけをとがらせてオレは同じ脇道へ駈け込む影は小さな隙間へもぐりこんで向こう側へと抜けていった。
(こりゃ、後を追うのはムリだな)
流石に大人の身体では通り抜けることができない。
(でもまぁ、何とかなるか)
『索敵』と『マップ』を使って、そこへ浮浪児のマーキングを落とし込む。すぐに赤い点が移動していく様が見て取れた。
オレは『無重力浮遊』で屋根へと飛び移り、さらに『ウインド』をかけて屋根から屋根へと移動していく。
マーカーした赤い点は時々点滅しながらスラムの奥へと移動していった。
その間にも、敵性感情を持った点がいくつも『地図』に現れては消えていく。
そのいくつかは先の赤い点に向かかって行ったが、すぐに動きを止める。きっと浮浪児の素早い動きについていけなくて諦めたに違いない。
そうやって何人もの手をかいくぐり、やがて、ある地点で止まる。オレはその真上へ移動してそっと窺った。
浮浪児の頭が何度か左右を見回し、その場所にしゃがみ込む。かなり体力を消耗したんだろう、肩が大きく揺れていた。
暫くして肩の揺れがなくなり、握りしめた小袋を開けるかすかな音がした。
中からひとつ出して口に含む。上からではよくわからないが、全体に緊張が緩んでいるようだ。
(『防音』と『結界』(こそっ)さて、行くか)
『無重力浮遊』を切りながらオレは浮浪児の前に降り立った。
「アメ、美味しいか?」
ギョッとした顔を上げた浮浪児、次の瞬間には身をひるがえす。
そうそう何度も同じ手は食わんよ!
「『バインド』! さて、どんな顔かな?」
下半身にかかったため、動きが取れずに睨みつけてくる浮浪児に近づき、帽子に手をやる。
とられまいと両手で抑えるのをいなしているうちに、小さなものが足元に落ちた。
「……ぁ…」
「ん? イヤリング、か?」
思いがけないことに硬直する浮浪児の手を払いのけてイヤリングを拾い、もう片方の手で帽子をむしり取る。
と。
中から結構な長さの髪が流れ落ち。
その髪の中からとがった耳がのぞいていた。
「え! お前、エルフか!?」
(どういう事だオーリィ! こんなの、報告にもなかったぞっ!?)
(キュ~~! キュイキュイイ~~!!(んな馬鹿な~~! アチシにもなかったっちゃよ~~!))
直ぐに訊いてくる! と慌てふためいてオーリィが消える。
ま、情報不足なのは仕方ないのか。ここへはみんな近づきたくなかったようだし。
(いや待て。この状況、どこかで?……あ、おばば様が言ってたよな)
獣人国の集都へ行く前に寄った『鵺の里』。そこで暮らしている長老とおばば様に挨拶してお茶をもらったんだが。
『……今、アタシの『予知』が映像を持ってきたよ。ケイン、ガルマン帝国で出会う命がある。それを必ず救い出すんだね』
『救い出すって……あれ、おばば様に言ってないよな? オレ、もともとエルフを取り戻しに行くんだが、その事か?』
『い~や、そうじゃない。けれど本質は繋がってる、みたいだね』
『? ますますわからなくなったけど』
『……壊れて捨てられたものが積み重なった場所。そこに蹲る小さな影。落ちたイヤリング。帽子の下から出てくる髪と……あるモノ。これが『予知』で見たすべてさ』
『おばば様……』
『どこで出会うかわからないが、この縁を手放しちゃいけないよケイン。お前さんにとって重要なことだからね』
(確かにそう言われたんだが……こんなの不意打ちじゃないかあっ!!)
この『ガルマン帝国』編は、ちょっと暗い展開が
多くなりそうです。今までの能天気では無理、かなぁ?
……鬱展開にならない様、頑張ります。
出来る限り、周一の更新を目指してますが、乱れても
ご容赦のほどを。




