閑話22~ 集都の恋バナ・・・?(前) ~
明けましておめでとうございます。
本来なら続きを投稿するべきなんですが、
まずは休み明けの慣らし運転、ということで。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ!」
今日も集都ダールスドットの冒険者ギルドに明るい声が響く。その声を聴くたびに、周りの人々が笑顔を浮かべる。中にはだらしなく崩れている顔もあるが、そんな奴は冷たい視線の十字砲火を浴びせられることとなる。
それで気が付いてすまし顔になればセーフ、分からずそのままであればごっつい獣人に首根っこをひっつかまれて修練場へ消えていく羽目となる。
彼女……フィリーは今や、ギルドの愛でられ役となっているのだ。
「こ、こんにちは。お、オイラここ初めて来たんだけど」
そんな彼女の前に立ったのは、初心者らしき冒険者だ。例にもれず顔を緩めているが、初めてのニンゲンさんに無体は働かない。ただ、その動きを注視するだけだ。
そんな相手の様子には気づくことなく、フィリーは説明を始める。
「そうなんですね。ご存じのようにここは獣人さんがほとんどで、ニンゲンさんにはあまり居心地が良くないかと思います。それでもここで活動されるなら、この認識票をつけていただくことになります。ギルドが認めたニンゲンさんなので、余計なトラブルに巻き込まれることが無い……あの~聞いてらっしゃいます?」
可愛らしい声に聞き惚れていた冒険者は、慌てて頷いた。
それを確認してフィリーはにこやかに手を差し出す。
「では、どちらでもいいので片手をここヘ乗せてください」
初心者冒険者にはドッキリとしか言えない状態だ。
フィリーには分からない。その発言がもたらす相手の心情を。
「え? て、手を? その、あの」
「あ、これも仕事なので大丈夫です。どうぞ」
「は、はははい!」
差し出された小さな手にそっと触れる冒険者。
(うわ、柔こい、小さい、可愛らしい!)
硬直したまま脳内でお花畑が爆発している冒険者をよそに、フィリーは目を閉じ……数秒後に目を開けて手をそっとどける。
そこにあるのは、真珠程度のきらめく玉がふたつ乗っていた。
そのひとつをとって認識票の中央に置くと、玉は半分ほど沈み込んで止まった。
それを手に取り、フィリーは笑顔で冒険者に差し出す。
「これがあなたの認識票です。この国にいる間は必ず身に着けてくださいね」
「あの、これは何ですかっ?」
見とれていた冒険者が聞く。
「この玉はあなたの魔力です。個人を特定するものなんですよ」
「え。でもオイラ魔法なんて使えないはず……」
「魔力ってどなたにもありますよ。生活魔法が使えるんですから。でも、さっきの感じだとあなたの魔力って結構大きいようなので、一度魔法の指導を受けてみたらいかがですか? 何か収穫があるかも、です」
その言葉に冒険者は顔を輝かせる。
「そうしますっ。ありがとうございました!」
最敬礼をしてカウンターを離れていく冒険者に手を振り、フィリーはもうひとつ残った玉を手渡した認識票に似たタグへと埋め込む。
「お疲れ様フィリー。またひとりニンゲンさんが来たようね」
「はいセシリー姉さん、認識票の交付終わりました!」
後ろからかかった声に振り向けば、金色がかった耳にイヤリングをつけた狐獣人がいた。
彼女はここのサブギルマス。声を荒げることのない穏やかで落ち着いた雰囲気の女性だが、内実はバリバリの武闘派だ。下手にイキった冒険者なんぞ、瞬殺される。
フィリーから渡されたタグを手でなぞる。
「そうね、きれいに出来てるわ。ありがとう。本当に助かっているの」
「そ、そんな! 私こそ自分のスキルが役に立っているなら嬉しいです!」
真っ赤になって両手をアワアワさせるフィリーはとても可愛い。ギルド職員のみならず、食堂に居合わせた冒険者たちも目じりが下がってしまった。
そんな彼らをセシルがちらりと一瞥する。
それだけで彼らの背中に冷たいものが走り、慌てて仕事を再開する者、隣と話を再開する者が続出した。
そんな彼らを横目に見ながら、セシルは顔を戻す。
「事実は事実よ。自分を卑下しないでフィリー。貴女のおかげで不届き者の排除が楽になっているんだから」
受け取ったタグを受付から見えない壁にある釘に引っ掛ける。そこには一面同じタグがかけられていて、それぞれ同じような玉が埋め込まれていた。
同じような、と言っても光り方や色、輝きなどが違う。
中にはどす黒く汚れたような色をしている玉もある。
「ああ、これはもう駄目ね。だれか、このニンゲンさんたちを監視してちょうだい。違反行為があったら即座に押さえてくること。いいわね?」
「「「了解です!」」」
何人かが立ち上がり、セシルが示すタグの名前を見て外へ向かう。
「それと、苦情や陳情があるかしら?」
「ありますあります! 結構上がってきてますよ」
職員が差し出す書類をひと渡り眺めて軽くため息をつく。
「どうしようもないわねこれは。今回で何かやらかしたら即座に入国禁止措置を。このニンゲンさんを登録したギルドにも通告するよう手はずを整えておいて」
「「「わかりました!」」」
すぐさま動き出したギルド職員を背に、セシルはフィリーと視線を合わせる。
「ほらね、ご覧のとおり。以前は現場を直接押さえないといけなかったのが、貴女のスキルで出来る玉が違反行為を教えてくれるのよ。それだけの価値があるの。だから自信を持ちなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
まだ少し戸惑いながらも、笑顔全開で答えるフィリー。今度は男女関係なく顔をほころばせる。それほどの暖かい笑顔だった。
「フィリー、迎えに来たっすよ!」
ギルドの入り口に目をやったフィリーの顔が薔薇色に染まる。
「レックル!」
小柄なサル獣人がこちらも顔を赤くしてカウンターに歩み寄ってきた。
「ちょっと時間が早かったけど、良いっすか?」
周囲へ会釈しながらセシリーへ遠慮がちに訊いてくる。もともと腰の低いレックルだが、ギルド内ではそれがもっと顕著だ。
「いらっしゃいレックル。今日もフィリーにはひと働きしてもらったのよ。嘱託職員としての業務は終わりにして構わないわ」
「ありがとうっす。じ、じゃあフィリー、帰るっすよ!」
「はい! セシリー姉さん、ギルドの皆さん、お先に失礼します!」
手を繋ぐのも双方恥じらいながら、それでも満面の笑みで出ていく。
微笑みながら見送ったセシルだが、扉が閉まった途端、笑顔を消して指示を出す。
「いつもの通りに。……頼むわよ」
「「「了解しました」」」
更に何人かが席を立って裏口へ向かう。
手にしたタグを弄びつつ、セシルは呟く。
「それにしても『触れた相手の魔力を魔珠として顕現させる』スキルなんて、本当にレアよね。見出したのがあの人でなかったら壮大な戯言と笑い飛ばしていたかもしれない」
セシルの脳内にはさっき出ていったふたりの姿が浮かんでいた。
「しかも本人は無自覚だし。あの天然の可愛さは或る意味毒よねぇ」
その時。
タグに嵌まっていた玉が金属的な音と共に割れた。
同時に、掛けてあったタグの幾つかも同じ現象に見舞われている。
「どうやら最後の引き金を引いたみたいね。しかもこのタイミング……行くしかないか」
誰にともなくつぶやくと、カウンターの外に出る。
「サブギルマス、お出かけですか?」
「ちょっと予感がするの。あのふたりを追ってみるわ」
「……っ。分かりました、行ってらっしゃいませ!」
顔をこわばらせながらも最敬礼をするギルド職員に見送られ、セシルは走り出した。
長らくお休みして申し訳ございません。
詳細は活動報告に記載してあります。
今年も気長にお付き合いしてくださればありがたいです。
不定期になりますが、よろしくお願いします。




