閑話21~ 届いた想い ~
ちょっとフライングですが、フリント君の領地での
お話です。
晴れた空の下、シーツの端を竿に止めてしわを伸ばす。こうしておくと後でのしを掛けなくてもいいくらいに布地が伸びるんだもの、ひと手間かけておくのは無駄じゃない。
干し終わった洗濯物が風に翻る。うーん、気持ちいいっ。
軒下に置いてあった籠を手に取って家の中へ声をかける。
「母さん、洗濯物干し終わったから広場に行ってくるわね!」
「気を付けて行っておいで、セディーナ」
「はーい!」
優しい声に返事を返して広場へ向かう。今日はバザーだから楽しみなの!
塩にコショウ、村で作れないハーブをいくつか。そうそう、ペポカ(カボチャ)は母さんの体にもいいから買おうかしら。スープにすると父さんも喜ぶしね。
足取り軽く入った広場ではもう既に人でいっぱい。仕方ないわね、家の仕事を済ませてから来てるんだもの。
急いで塩とコショウを売っている行商人の所へ行く。なんとか目的の分が手に入って一安心。
後は野菜を買わないと。これは村の中の物を買うことに決めているの。隣近所との付き合いもあるし、この村の野菜って結構おいしいから。
でもね~……。
意を決して一つの店の前に立つ。
「こんにちわエレン」
「あら、来てたのセディーナ」
鼻で笑うように答えたのは2軒隣に住むエレン。同い年で小さい時には仲が良かったんだけど、いつしかエレンが私に嫌味を言うようになった。原因は分かってるけど、わたしにはどうしようもないのよね~。
「ペポカはまだあるかしら」
「あるけど、あんたの口には合わないんじゃない? 何せ村長様のお気に入りなんだから」
これなのよ。何かあると二言目には『村長様』が出てくる。実際には『村長の息子』なんだけどな。
「そんなことないわ。トミーからは何ももらってないもの」
「あらぁ、そぉかしら~?」
トミーってのが問題の『村長の息子』よ。思うに、エレンはトミーが好きなんじゃないかしら。でもトミーは私に絡んでくるからそれで……まさかね。
色々考えていると、
「買うの買わないの? いつまでも店の前に居られると困るのよね」
エレンに言われてしまった。そうね、今日はペポカを買おうと思っていたからそれでいいわ。
「じ、じゃあ、そのペポカを……」
「へぇ、ここのバザーは半端ものを売りに出しているんだな」
後ろから知らない声がかかった。え、だれ?
振り向けばそこに居たのは冒険者? のお兄さん。
私の知っている冒険者って、もっと威圧感満載でこれ見よがしにおっきな剣やら斧やらを背にしてのし歩くような人たちなんだけど、この人は全然違う。
第一、武器が見当たらないの。服装も普通の旅人みたいで、威圧感はどこぉ? な感じ。黒髪と黒目がちょっと違うかなぁなんて思うくらい、フツーの人だわ。
私がその人を見ていたら、
「ちょ、ちょっと! うちの品物に難癖付けるつもりなのっ!」
エレンが噛みついていた。
「難癖も何も、そのまんまさ。そこに並んでる野菜、中身がスカスカだね。普通なら家で消費するレベルのものを売りつけるのは、いくらバザーでもやりすぎだと思うんだが」
「なっ、なんてこと言うのよ! 中身がスカスカなんて、あんたにわかる訳ないじゃない!」
「なら、そのペポカを売ってくれ。目の前で割ってみればわかる事だろ?」
「……っ!」
え、珍しい。エレンが絶句してる。じゃ、その人の言うことが正しいの?
「い、いいじゃない! りょ、領主さまがそれでいいって言ってるんだから!」
破れかぶれでエレンが叫んだけどそんな事領主さまが言っていた、かしら?
「そうか。領主が認めているんだな?」
「そ、そうよっ! 領主さまの意向で決まるんだから間違いないわよっ!」
ちょっと戻った顔色でエレンが叫んだが、その次には再び真っ青になっちゃった。
「じゃ、領主本人に聞いて来よう。君、この道を辿って行けば領主の館に着けるんだよな?」
後半は私の方に顔が向いていたから、聞かれているのは私、だよね?
「あ、はい。この道をまっすぐ5分ほど歩くと領主さまの家の門が見えます」
「ありがとう、早速行ってこよう。それと、ここの反対側に居る行商人が持っているペポカは美味しそうだった。買うのならそっちにするよ、オレならね」
そう言ってニコッと笑った顔に思わず見とれてしまった。邪気なんて感じられない、好意全開の笑顔なんて久しぶりだわ。
「あ、あんたっ、いきなり領主さまのお屋敷に行ったって入れないからっ!」
横からエレンが慌てて叫んでるけど、そんなことないでしょ。いつも子供たちが入り込んでるわよ。
それを領主さまも奥様も喜んで相手しているの、貴女だって見てるじゃない。
でも、声を掛けられたその人は振り返った。
「大丈夫、領主に用事があるんだ。大事な用がね」
そう言って懐から何かを取り出してひらひらさせる。
それって、手紙、かな?
表情を無くしたエレンが崩れるように座り込む。自分の発言のまずさに気づいたみたい。
その場から立ち去りながら、わたしはあの人の言ったことを思い返してみた。
「そういえば、エレンの所って行商人に自分の野菜を売ってたわよね」
その行商人はもう既にいない。あそこはよそで売るためにここで仕入れていくって言われていたっけ。
「そっか。美味しいものを売って、残りをバザーに出していたんだ……」
なんだか裏切られたようで悲しい。でも、お金を稼ぐには仕方ないのか、な。
そんなの、おかしいよね。ふっと彼の顔が浮かぶ。
そう、彼ならどう答えてくれるかしら。
『誤魔化したっていいことないよ。結局自分に返ってくるんだから』
うん、たぶんそう言うわね。
心の中がほっこりしてくる。そんな彼が大好きなのッ!
大急ぎで言われた行商人の所へ行く。そうね、確かに美味しそうだわ。
「ペポカ、くださいな!」
「待ってたぜ、セディーナ」
バザーからの帰り、一番会いたくない人につかまっちゃった。
「今からちょっと付き合えよ」
「この荷物が見えないの? あんたに付き合う暇なんてないから」
「なんでだよ、そこにおいておけばいいじゃないか」
この人が『村長の息子』トミー。何かといっては声をかけてくるんだけど、わたしにはそんな暇はないの。病気で寝込んでいる母さんの世話と家の仕事、そして父さんの手伝いもあるんだからっ。
今だって早く帰ってご飯の支度をしたいのに。
「なあセディーナ。俺の嫁になれよ。そうしたら親の面倒だって今よりずっと楽になるからさ、あんなトンチキ待ってることないじゃないか、そうだろ?」
トンチキって、あんた、誰のこと言ってるのよ。頭にカチンときたわ!
「彼は、フリントは約束してくれたのよ。きっと帰ってくるわ!」
「どうだかな。知ってるか? 今の帝都ってさ、魔力の高い奴は次々にいなくなっているってあちこちで噂になってるぜ」
「なによそれ」
そんな物騒な所に居るの、彼は?
「確かに彼の魔力は高いけど、でも、皇帝様の要請で行ったんだから、そんな事に巻き込まれるわけ……」
「それは分からねぇぞ」
私の反論を遮ってなおも偉そうに言葉を紡ぐ。
「帝都ってのはでっかいんだ。ここと違ってな。何が起こってもおかしくないところだぞ」
「何が起こっても……」
その言葉にドキッとする。そんな場所にいる彼が心配で心がうずく。
私が俯いたので調子に乗ったのか、トミーが近づいてくる。
「近寄らないで! あんたの世話にはならない、絶対に!」
そう叫ぶと、トミーの顔がゆがんだ。
「なんだよ偉そうに。女は黙って男の言うとおりにしてりゃいいんだよ!」
歪んだ顔のまま、トミーが私の腕をつかんで引っ張って行こうとしてる。それに抵抗して足を突っ張るけれど、力じゃかなわない。悔しくて身をよじる。
その拍子に、抱えていたペポカが零れ落ちちゃった。
割れちゃう、せっかくの美味しいペポカが!
「あっ」
「な、なん……っ!」
無理と分かって手を伸ばした私と、声に振り向いたトミーが固まる。
だって、だってペポカが宙に浮いて止まったんだもの!
なんで、どうしてぇ!?
「恋人の待ち合わせかと思ったら暴力沙汰とはな。呆れたもんだ」
知らない声が響く。いえ、ついさっき聞いた声だわ、これ。
「ひと気のないところで待ち伏せしておまけに乱暴とはな。頭大丈夫か、お前」
冒険者のお兄さんがズンズン近づいてきて私の腕からトミーの指を引きはがしてくれた。
もう片方の手にはペポカが収まっている。ええっ、この人、片手でトミーをいなしてたの?
村の中でも力があるって自慢してたのに。
「嫁入前の娘さんに何てことするんだお前は」
「う、煩いうるさいっ! この女は俺のものだ、どうしようと俺の勝手だろ!」
「人を所有物みたいに扱う奴は……クズだ」
トミーも私も息をのんだ。
飄々として穏やかだったあの人の体から吹き付けるような威圧感がトミーに向かっていく。
「お、おおお俺は村長の息子だぞ! 親父に言いつけてやる!」
「どうぞご勝手に、だ。村長には領主の前で話そう、と言っておいてくれ」
「くっ……!」
言い負かされたトミーは悔しそうにしながら逃げていった。
「さてと。聞いていなかったけど君がセディーナで間違いないかな?」
私の方を向いたあの人は初めて会ったときと同じ雰囲気に戻っていたから、ちょっとホッとしちゃった。
手にあるペポカを抱えなおして、もう片方の手を私に差し出す。
そこにあるのは手紙。
「キミの大事な人からの文だ。読んでやってくれ」
閑話はこれで終わりです。
次から新章に入る予定。
一生懸命書いてますが、伏線を造りすぎて……(泣)
あちこちメモを見つつ、見落としが無いよう頑張ります。
おいでいただき、ありがとうございます!




