第188話
新章始めます!
「……なんだあの有様は……」
オレの口から出た感想だ。
「キュルキュルキュル~(誰だってそう思うよね~)」
オーリィもうなずく。
「よくもまあ、恥ずかしげもなくあんなものを置いておく感覚が分からん」
「キュルル(同意するだっちゃ)」
「……誰も文句言わないのか、あれ?」
「キュ~……キュルッキュルキュルル(居るんだけど~……言った途端に兵士に拘束されるんだっちゃ)」
「…………そういうことか」
ため息をついてもう一度ソレを眺める。
森を抜けて来て小一時間歩いた先にあるのが、ガルマン帝国の帝都オールマスだと聞いている。確かにその通りだったし、距離も間違っていない。
帝都の規模も……まあ、想像していた大きさだと、思う。
けど、実際に見ないと分からないもんだ。
「まさか、ゴーレムをこんなことに使うなんてな~」
後ろは全面石壁だと思う。見えている部分で判断する限りでは。
何故見えないのかというと、そこには。
「ストーンゴーレムにアイアンゴーレム、サンドゴーレムも混じってるな」
「キュルルキュルルキュルル~(ファイアゴーレムもいるっちゃよ~~)」
「何考えてるんだここの連中は」
そう。帝都の石壁を巡る外側にはゴーレムが立ちはだかっているんだ。
それはもうびっしりと!
石壁は2階建ての家よりも高いのに、ゴーレムは頭一つ分上に抜けている。外壁を巡回する兵士の姿がゴーレムの後ろを動いているのがこちらからも見えているんだ。
そのゴーレム、時たま顔を動かしたり目を開けたり、果ては口を開けて焔を吐き出したりしている。要は『生きている』ことを見せつけているんだな。
けれど。
「魔力の充填が不十分だな」
「キュルッキュキュ!(不十分というより一部しか入ってないっちゃよ!)」
「確かに」
この帝国には正直不信感と警戒感しかない。だから今まで封印してきた『鑑定』と『看破』を思う存分かけることにした。
このゴーレム達も見ていると不気味だが、実際の中身はスカスカだ。
魔力の充填はされているが、それも状態を維持するのが精いっぱいで崩れないのが不思議なくらいだ。
今動きを見せている奴も半分以下の魔力だし、あのままじゃ一歩を踏み出すことすら難しいかもしれない。
「盛大な虚仮威しだな」
口の中でつぶやきながら、オレは帝都への入り口に向かって歩き出した。
ここ数日、オレはあちこちへ寄り道をしていた。
と言っても無駄に道草を食っていたわけじゃない。
まずはベイレスト共和国の首都ヴェルドに行って、馴染の薬屋へ爺さんのポーションを渡してきた。
店主は気のいい人で、急にいなくなった爺さんを心配してくれていたが、オレが訪ねて行ったことでようやく安心したらしい。
ポーションの在庫も切れそうだったから一層喜ばれたんだ。
茶でも飲んで行けと誘われたが、長居するとろくなことが無い。特に冒険者ギルドに見つかったら速攻で拘束されるだろう。
オレは他にも用事があると言い訳して退散した。
次に行ったのはガル爺さん。
ガルマン帝国のエルフたちは相当消耗しているはずだから、連れていく場所は安全でなおかつ簡単に捜索できないところでなくちゃいけない。執念深く後を追ってくるかもしれないしな。
その点でガル爺さんのダンジョンがある森は条件に当てはまっている。
もしここに来るなら、ガル爺さんに『結界』でも張ってもらえたらな~、という下心で来てみたんだが。
…………思ったより歓迎されてしまった。
オレが来ることはアーミン情報網で筒抜けだったらしい。やるな、アーミン。
ただ、話せるのがガル爺さんだけだったから良かったとも思う。ルゥに知られたらどうなるか……考えたくもない。
『お前さんも諦めた方がええぞい』と、半ば憐みのこもった声で言われたが。
今はそれどころじゃないんだよ!
挨拶も早々にオレは逃げ出した。
最後に訪れたのは獣人国の集都ダールスドット。
集都に移り住んだ『鵺の里』の住人たちがどうなっているのか知りたかったからだ。
何事もないと良いけどな。
そう思いつつ訪れたギルドに居たのは。
「あ、ケインさん!」
「え、フィ、フィリー? 君、ギルドに就職したの?」
呼びかけてきたのはフィリーだった。前と違って顔が輝き、本来の可愛い笑顔がよく似合う女の子になっていた。
「まあケインさんじゃないですか。お久しぶりですね」
その横から顔を出してきたのは受付嬢を装ったセシリー・ウッドマイル。
ここのサブギルドマスターで強い。でも、そのオーラを押さえているため、侮ってくる冒険者をあぶり出しては撃沈している。なかなかの策士だ。
「今日はどんなご用件で? そういえば総轄ご夫婦がまたお会いしたいとおっしゃっておられましたが、そちらへご案内しましょうか?」
流れるような会話に乗せられそうになりつつ、何とか躱して獣人国を出てきた。
あ、その前にいくつか頼みごとをしたんだが、言い切る前にすべて手筈が整っていたのには驚いた。
『そのうち必要となるような気がしていましたので』なんて言ってたけど、本当かなぁ?
…………このツケ、いつかは返ってくるんだろうな。
やれやれ、これからめんどくさいところに行くってのに、この脱力感はなんだろうな……
そしてようやっと、オレはガルマン帝国の領地へと踏み込んだんだ。
勿論、最初に北の端にあるパルリオット地方へ寄って、男爵と彼女に手紙を渡し、フリントの現状を伝えてきたとも。
よっぽど心配していたんだろうな、家族はもう泣かんばかりに喜んでいた。
彼女の方はいささか問題があったけれど、でもまぁ今は無事に収まってると思いたい。
そうしたうえで、オレは帝都へ向かったんだけど、その第一印象は……最悪、の一言に尽きた。
入り口の門付近には人が並んでいた。ただ、今まで見てきた町と比べると、毛色が変わっている。
まず、商人の数が少ない。この規模の大きさの都市にしては、入ってくる食糧や日用品に見劣りがするんだ。
それと、農民の姿もない。まぁこれは時間帯が関係しているのかもしれないな。彼らは朝早くに訪れて市場へ向かう。そこで持ってきた品物を並べて客とやりあい、売り切れ次第帰っていく、そんな生活をしているはずだ。
後はオレみたいな冒険者や旅人たち……なんだが、これがまた少ない。冒険者の数はそこそこだけど、そのほかの人間がほとんど見当たらないのはどこか異常だ。
(フリントの言うとおり、おかしなうわさがあるから敬遠されているのかな?)
(キュッ!(そうかもだっちゃ!))
オーリィと小声で話しながら行列の後ろに並ぶ。
すると、前に居た商人らしき人が振り返った。
「おや、冒険者さんかね。こちらまで足を延ばされるとは珍しいでんな」
「はあ……」
何を言いたいのか分からずあいまいに返すと、笑顔のまま顔を寄せてくる。
何か不穏な感じを漂わせる笑顔だな。そう思って内心警戒していると。
「今、ここの都は危ないで。できる限り早く出る方が正解でっせ」
声を潜めてそう囁いてきた。
なのでオレも小さな声で、
「あ~、あの、ヒトが消える、ということか?」
「聞いているなら大丈夫や。決してお貴族様らしき連中についていかねぇことやな」
それから通常の声音に戻り、
「そうかや。まあお気張りやす」
それっきり前を向いて黙りこむ。
これは忠告だな。こんな商人にまで警戒感が広がっているとは、よほどのことが起きているんだろう。
再度気を引き締めて門の方を見つめる。
直ぐに順番は回ってくるだろう。
前の商人はカードを見せるとそのまま入っていったが、
「お前、初めて見る顔だな。冒険者か?」
門番に引き留められる。
「ギルドカードを見せろ」
言われるままカードを取り出す。
「名前はゼオンか。ここへは何の用事で来た?」
「この南の森へ行く途中で寄っただけだ」
「南の森? 何もないぞあそこには」
「依頼を受けてきたんだ。これ以上は言えない。必要なら獣人国のギルドへ問い合わせてくれ」
「獣人国、の依頼か……」
この言い訳のために集都へ寄ったんだが正解だったようだ。門番もヒト族至上主義のようでたじろいでいる。
「わ、分かった。歓迎しよう。帝都オールマスへようこそ」
「ありがとう」
おざなりな挨拶に返答を返し、オレは帝都へ足を踏み入れた。
出だしからいろいろとありそうなガルマン帝国……。
これから飛び出すものは……?
無事にエルフを救出できるまで見守ってくださいね。
おいでいただき感謝、感謝です!
2023/8/7 新章の題を挿入しました!
諸般の事情で遅くなり、まことに申し訳ありません(土下座)




