第187話
オーリィの鉄拳(?)がさく裂!!
もちろん、大音響の元はフリント君だ。
本人は渡された魔石を見つめてわなわなしてる。
第一声の後、何も言わなくなった彼が心配になって、
「おいフリント、大丈夫か?」
軽く肩をゆすってやる。
「あ、う、うん。大丈夫、ちょっと気が遠くなりかけてた」
全然大丈夫じゃないだろそれ!
「この魔石に掛けられている術式と魔法陣は素晴らしい! 緻密でありながら不要とする部分を大胆に削り、バランスを崩すことなく一つの魔石に収めているんだ……!! 流石師匠の教えを受けた兄弟子の仕事です!! ああ、見事だっ……!!!」
イエ、姉弟子です……と言いたいが言えないな。
どうしたもんか、と内心頭を抱えているオレにかまうことなく、なおも熱心に魔石を眺めていたフリントが首をかしげてオレを見た。
「ケイン、この魔石を造ったのはエルフじゃないのか?」
「そうだけど、よくわかったなフリント」
魔石を『解析』するのは錬金術師の技術のひとつだからおかしくないが、魔法陣や術式でエルフが関係しているなんてわかるんだろうか?
オレが不思議そうな顔をしていたからか、フリントが含み笑いしながら答える。
「いや、作成者がエルフだって情報はないよ、この中には。ただ、俺がエルフの術式の組み方を知ってるから分かっただけなんだ」
「エルフの組み方だって?」
なんかすごいことを言い出したぞ!?
「俺が小さいころ、近くで魔獣の氾濫があったんだ。その時対処してくれた冒険者の中にエルフの魔法使いが居てね、襲われかかっていた俺を助けてくれたんだ」
昔を懐かしむ顔でフリントが語りだす。
「その時に見た魔法が凄く心に残って、ね。そのエルフに願ったんだ。『魔法の術式を教えて』と。今思うと相当失礼なことを言ってたんだよな」
そう言って頭を掻く。
「エルフのヒトは俺を暫く見つめ、『キミにこの魔法は使えないでしょう。魔力がちょっと足りませんから』そう言った後、『でも生活魔法は使えるのでしょう? ならば、INT(知性)を伸ばして錬金術師におなりなさい。貴方の年齢でその数値なら見込みがあります。これをあげましょう』そう言って、自分の術式と魔法陣を記した紙をくれたんだ」
『貴方自身が使えなくとも、その術式が理解できたなら、未来で必ず役に
立ちます。しっかりと学び、貴方の糧としなさい』
その言葉を残して、エルフの魔法使いは他の冒険者たちと帰っていったという。
「俺はその紙に書かれた術式と魔法陣を眺め、書き写し、他の魔法陣と見比べてみたりした。魔術書は高価だから買えなかったけれど、村の薬師の爺さまが持っていた魔術書を見せてくれたんだ」
そうやって何度も何度も見直し見比べていくうちに、些細な変化に気づいたんだと。
「ほんっとに些細な事なんだが、そんな箇所が幾つかあって。俺より魔力のある友達に試してもらったら」
魔力の消費量とか、発動時間の短縮とかで違いがあったらしい。
それからさらに好奇心が沸いて、どれがどの要素なのかも研究している最中なんだと笑っていたが。
「ほう、それは初耳じゃの」
ぬっ、とばかりにオレたちの間に割り込んだグィード爺さん。
「どこがどう違うのか説明してくれんかの」
「勿論です師匠! 今ここに術式と魔法陣を書きますので!」
そう言って書こうとするところを、オレはグイッと引き留める。
「何するんだ!」
「邪魔する気かのケイン!」
知識を探求するふたりに睨まれたが構うことない。
「それより先にフリント、家族と彼女に近況を知らせないつもりか?」
「「あ」」
「帝国へ行くついでに寄り道できるから、手紙くらい届けるぞ。みんなに心配かけるなよ」
「そ、そうだな。分かった、頼めるかケイン?」
「もとよりそのつもりだからな。早く書いてこい。カトーサン、レターセット出してやってくれ」
『了解デやんス。ニイサンこチらヘ』
カトーサンに誘導されたフリントはテーブルの隅に座り、首をひねりながらも一心に書き付けている。
その姿を横目で確かめながら、オレは帝国に居るエルフをどうやって連れ出そうかと考えていた。
その肩をつんつんと突くのは……爺さん?
「ん?」
「……すまんな。ついつい好奇心が先に出てしもうた」
「錬金術師の会話に割り込んだんだ、睨まれるのは覚悟の上だよ」
そんな事で凹んでたら、オレはとっくの昔に爺さんの所を飛び出していたさ。
そう考えると、オレって結構我慢強かったんだな。
「爺さんの方が大変だったろうに、よくオレを放り出さなかったもんだと今でも思ってるよ」
「フ、フンッ。なぁにをゴマすりおってからに!」
いや、本音ですけど。
プイッと横を向いた爺さんの耳がほんのり赤くなっているのを見て、これ以上言うのをやめた。
年寄りを弄るのは趣味じゃないし、何より照れ屋の爺さんの地雷を踏んだらえらいことになる。一緒に住んでて何度かやらかしたオレだけが知る黒歴史だ。くわばらくわばら。
そんなやり取りをしているうちにどうやら書き終わったようだ。
「これを頼む、ケイン」
差し出された二通の封筒を受け取り、確認する。
「コーランダル・ヴァッセル。これは父親か?」
「そうだ。名前は厳めしいが中身はいたって気さくな田舎のおやじだから、気負う必要はないぞ。玄関で呼んでくれれば本人が出てくる」
何だそれ。
「もう一通は彼女宛てだな」
「ああ。俺の現状を隠すことなく書いてある。そのうえでもう2年、いや3年待っていてほしいと……無理を承知で書いた。駄目なら父にそう伝え、グフゥッ!?」
「オーリィ!?」
「キキッ! キュキュキュキュッ!(この鈍感男っ! 乙女の一途をぶん投げる奴に天誅だっちゃっ!)」
なんとオーリィ、『滑走』を鉄の球状に変形させてフリントの腹へぶち込んだんだ。
器用なことを、と感心したのは頭の片隅。それよりも、
「大丈夫かフリントっ!」
目の前で蹲る男を気遣って背中をなでる、が。
「……い」
「なんて言ったんだフリント? どこか痛いのか?」
「す」
「す?」
「素晴らしいっ! こ、これがアーミンの隠された力かっ! それを俺は今、この身体で受け止めたんだ!! 何と、なんと画期的な出来事の真ん中に俺は、俺は……感激だあぁぁっっ!!!」
…………忘れてたよ。こいつも錬金術師なんだってことを一時的に。
新しい知識を求める連中のひとりだって。
その証拠に、オレの脇に居るグィード爺さんの眼が光ってる。キラキラなんて可愛いもんじゃない。ギラギラ、もしくはギュルンギュルン。
前の世界に例えると……スタート地点にいる、サーキット用の車だな。周りにいる強敵を前に、マシンの力を最高に引き上げ、今まさに飛び出す瞬間を待ち構えている。そんな感じだ。
その目標はオーリィ、君だよ?
その証拠に、オレの肩をつかんだフリントがグワッとばかりに顔を寄せてくる! 近い、近いよ……!
だが、その行為をチャンスととらえたのか。
「キュイキュッ! キュキュキュッキュッ!(食らえ、アンポンタン! 乙女の決意をまったくわかっていないドジ男っ!)」
一声吼えたオーリィが近づいてきたフリントの鼻を蹴り上げる!
「うがっ!?」
のけぞった顔に飛びついて爪を一閃!
「いいい痛い痛い痛いっ!!」
振り回される腕を避けて影から影へと渡り歩き、耳やら指やら、果ては髪の毛の根元まで食いつくオーリィ。あんた、そこ齧ったらハゲになっちゃうでしょーが!
「キュキキキィッ!(ツルピカになっちゃえだっちゃ!)」
オーリィの怒りはとどまることを知らない。よほど彼女の事が気に入ったんだろう。
でもな、潮時ってものが有るじゃないか。
「いい加減にしてやれよオーリィ。フリントだって悩まなかったわけじゃないんだからさ」
「キュルキュ~……(それは分かるんだけども~……)」
「彼女が待ってくれていた、それは朗報だろ? 喜ぶべき事じゃないか」
「キュ~…キュルキュ~(そっか~…そう言われればそうだっちゃ~)」
やっと納得したのか、ゲシゲシと齧っていた耳を最後に蹴っ飛ばし、オーリィはオレの肩へと戻ってきた。
「いたたた……俺アーミンに嫌われたのか?」
やっと起き上がってきたフリントの両頬にはひっかき傷が残り、額からは毛根からの血がたらりと。
な、なかなかのホラー顔になっていた。
流石に気の毒なので、『ヒール』をかけてやる。
「嫌われたのは事実だが、それはあんたの彼女に対する態度や気持ちが問題だからだよ」
「セディーナへの気持ち? そんなの愛してるに決まって……」
「その言葉、本人に告げてるのか?」
「………っ」
こいつ、本当にヘタレだな。真っ赤になって黙るフリントを見れば一目瞭然だ。
「言葉にしないと想いは伝わらない。たとえ肉親であろうともな。彼女…セディーナさんにあんたが想いを伝えていないのなら尚更だ」
「なっ、けど待っててくれると!」
「それを確実にする方法はある」
オレはさっき渡された手紙を突っ返す。
「書き直すんだ。セディーナさんへの想いを込めて、な。ちゃんと伝えて、待っていてくれと」
本当に言葉にしなければ分からないですよね。
作者自身にも刺さりました……(笑)
と、とりあえず、この章は終わりです。
閑話を入れて、新しい章へ移りたいと思います。
おいでいただいた方皆様に感謝、感謝です!




