第186話
ガルマン帝国のやらかしが出てきます。
話を聞いて思わず吹き出しちまったよ。どこまで盛ればそんなことになるんだろう。
爺さんは苦い顔をしている。どのような醜い出来事であろうとも、正しく記されるべきだと考えている爺さんには許せることではないんだろうな。
『過去の歴史を改ざんするとは何事か!』てな。
まあ、そう言った方向への論調なら、次に出てくるのは『故郷を取り戻そう!』『我らを追放した偽の王家に鉄槌を!』なんてことになるんだよな。
どっちもどっちだと思うが。
「今の自分の領地の方がずっと広いし豊かじゃないのか? なんであんなちっさいところを狙うんだよ」
「メンツ、だな。自分たちの主張が正しいのだと広めたかったのかもしれない」
フリントが呆れ気味に呟く。
「キュルキュイキュルキュル(問題はそう考えているのが国のトップ集団だけってことだっちゃ)」
「王侯貴族、それと軍属って事か?」
「キュ!(そうだっちゃ!)」
それは一番駄目なパターンだ。国を正しく治めなくてはいけない人間が暴走すれば、ワリを食うのは弱い者、すなわち一般民衆だ。
「さっき軍属の住む地域が二つに分かれているって言ったよな。『西軍属』が『回帰派』で『東軍属』が『変革派』と呼ばれてるって。このうち『回帰派』が今言った故郷奪還を叫んでいるんだ」
「じゃあ『変革派』はどうしてるんだ?」
「そっちはそっちできな臭い。王制なんぞ前時代なものはぶっ潰せというのが『変革派』だ」
うわぁ、それはそれでおっかない。
「ちなみにチーフ…魔道具製作省は皇帝に味方してて、資金や人材を融通してもらっているんだが、それも怪しいと俺は思ってる」
次々に情報を披露するフリント。余りの多さに頭が痛くなってくるな。
「あの人……チーフは皇帝を敬う気なんてチリほどもない。便利な財布だと思っている節があるんだ」
「そりゃまた、不敬の最たるものじゃのう。そんな気配があったのかの?」
爺さんが憮然とした表情で尋ねる。
「直接目にしたことはない。でも……ある日、チーフの部屋近くを通りかかったときに、『エルフが欲しいなぁ。持ってるのは軍属だけで皇帝じゃ話は通らないし。いっその事、どちらかの軍属に乗り換えようかな?』と、呟いていたのを聞いたんだ」
その時フリントは錬金術の材料を取りに来ていたのだが、気を抜かないように集中していたため気配が消えていたらしい。そっと後ずさりして離れたが、その言葉は耳に残ったという。
「正直言って俺は皇帝を好きじゃない。召喚状一枚で俺を家族やセディーナから引き離した上に、ただただ追い回されて使われるだけの職場に放り込み、何のフォローもない。そんな皇帝だが、俺を含め家族は忠誠を誓っているんだ。なのにチーフはっ!」
自分の利益だけで乗り換えようと考えるなんてっ……そう言って拳を握りしめる。
フリント、お前ってやつは純粋なんだな。先祖代々受け継がれてきた皇帝への忠誠を、その身に宿して悔しがっている姿を馬鹿にしてはいけない。そう、思った。
「儂の弟子はようできた男よの。皇帝様も満足じゃろうて。ほっほっほ」
爺さんも認めているのか。その割には笑いが黒い。なぁに考えてるんだか。
それよりも聞きたい情報が出てきた。ぜひ確認せねばっ。
「フリント、エルフを自分の所に持っているのは軍属しかいないのか?」
そう、問いただす。
「そうだな。だいぶ昔……20数年前、森にあるエルフの村へ攻め入って捕まえてきたと聞いた。その当時は人数も多くて、参加した軍属へそれぞれ分けられたんだけど……」
分けられた、だと!? 亜人とはいえヒト族に連なるエルフをモノ扱いにするとは……!
一気に頭が沸騰した、が。
「落ち着かんか、この慌てもんが」
「痛てっ」
オレの後ろに居たグィード爺さんが頭を杖で小突いてくる。あんた、いつの間に移動したんだよ?
「その後エルフと軍属はどうなったのかの?」
オレをどつきながら穏やかな声で爺さんが促す。その落差、すっごく大きいんだけど?!
フリントもオレと爺さんのやり取りをみて目を丸くしているものの、口を開く。
「あ、ああ。軍属のどこの家にもエルフが居るようにしたんだけど、大量に魔力を吸い上げてそのままに放置したところが多くてな。次々に死んじまったんだ。軍属のトップが慌てて禁止命令を出したときにはすでに半分以上が駄目だった。その後も死ぬエルフが居て……」
「今は何処に何人いるか分かるか?」
勢い込んで前のめりになったオレを不思議そうに眺めつつ、フリントが答える。
「俺が知っている限り、モルティー家がふたり、ディザルト家がふたり、ヨーラス家がひとりだったと思う」
「……全部で5人、か……」
「キュルキュルキュキュッ!(その人数で間違いないっちゃよ!)」
オーリィが同意するなら、それだけしか生き残っていないんだろう。オレもあの人から正確な人数を聞いていないしな。
でも、村を襲って混乱しているところを捕まえたんだから、少なくとも10人以上、20人近くは居た、と思う。それが5人とは。どんだけ無茶させたんだ、帝国は!
「本当にヒトとは思っていなかったんだな、帝国は」
イラつきとともに言葉を吐き出す。胸がむかむかしてそこらへんに唾を吐きたいくらいだ。
そんなオレの様子を見ていた爺さんが問いかけてくる。
「いつも飄々としていたお前さんがそこまでイラつくとはのう。ウーランダ公国で何があった?」
「え、ケインは公国に居たのか」
フリントが驚きの声を上げる。
「あそこは観光で行くところだけど、まさかそうじゃないよな?」
「今度はそうするけどな」
言外に違うと匂わせて爺さんに向き直る。
「爺さん。あんたが面倒くさがりなのはわかってたけど、あれはないだろ。彼女、限界に近かったぞ」
「おや、そう言うからには、お前さんが慰めたんじゃな。ベッドインまでしたんかの?」
「なっ、なんつーこと言いだすんだよっ、このスケベジジイ!」
なに下品なこと言いだすんだよこの人!?
「既婚者相手にそんな事やれるかぁっ!!」
「ほう、ということは、儂の『変身』と『認識阻害』『状態保持』の魔法を打ち払ったと……あ奴は今、どうしておる?」
「心配ないよ爺さん。あんたに鍛えられた技術で乗り切ってるから」
『ストレージ』から小袋を出し、中のひとつを手渡す。
それを手にのせ、爺さんはにんまりと笑った。
「よう出来とるの。これなら儂としても自慢できるのう」
「え、それはなんですか師匠?」
イマイチ話についていけなかったフリントが首をかしげる。
その様子を見つめにやりとした爺さん、彼の手に自分の持っていたものを乗せた。
「儂の優秀な弟子が造り上げた使い捨ての『変身』魔石じゃ。条件を厳しく言い渡してあったから無理じゃろうと思っとったんじゃがな」
「使い捨ての『変身』魔石!? そ、それは魔方陣を改造したって事ですかっ!?」
「そうさの、そういう事になるわな」
「爺さん……一言で片づけるなよ」
あの人、相当苦労したはずだぞ?
「そうかもな。じゃが、これを造り上げることで儂の弟子として認められるんじゃ。やっすいもんじゃろが」
からからと笑う爺さんの顔面に一発食らわそうかと拳を握ったが、
「こ、これはすごい!!」
大音響の称賛に気勢を削がれてしまった。
いろいろときな臭い情報が出てきました。
一体どうなってるガルマン帝国!?
あと1話でこの章も終わる予定です。
お付き合いいただきありがとうございます。




