第184話
「わっ、儂の研究ぅ! 研究がぁぁっ!!」
『寝室ルーム』から走り出てきたグィード爺さん、呆気にとられるオレ達の前を突っ切り、テーブルにかじりついた。余りの勢いに、テーブルにあった紙が数枚、ひらひらと飛び散る。
「うおぉっ、儂の大事なメモっ!!」
「まったくもう。落ち着けよ爺さん」
両手を広げてあわあわと紙を追いかける爺さんに注意しながら、オレは『ウインド』で紙をひとまとめにしてテーブルに置いた。
それに飛びついて枚数と順序を確認する爺さん。いつ見てもこういう時は鬼気迫る顔だから、そばに寄るのも勇気がいる。
「47,48,49,と。で、この後に入れる……」
「おぉい、じいさぁん」
「うるさい、声をかけるな! えっと、これの後はこれで……」
「じいさん、おい、爺さんってば!」
「うるさいと言うておろうがぁっ! ととっ、なにするんじゃ!」
「いー加減にしろってば、この糞ジジイ!!」
「うおおぉぉっっ!?」
かじりついているテーブルからべりっと剥がして、頭から水をザブリ! その中に小さい氷を入れることは忘れずに。
「ぎゃっ、なななんだこの、背中から滑っていく冷たい塊はッ! 冷たいっ! つべたいいぃっ!!」
おお、ちょうど背中に入っていったみたいだな、オレ、ナイス!
塊を取ろうとおかしなダンスをしている爺さんを見て、ちょっとすっきりした。
その後、『乾燥』『温風』で爺さんを乾かしてやったら。
「ふうぅ。……誰かと思ったらお前さんか。なんじゃ、今度は早く帰ってきおって、何か問題でもあったのかの?」
やっと正常な判断ができるようになったみたいだな。
「問題というか……この人の事で帰ってきたんだよ」
オレの後ろに居る男を前面に引っ張り出す。
「フリント・ヴァッセル。ガルマン帝国のパルリオット地方にある男爵家の三男で、魔道具製作省に所属している錬金術師だ」
オレの紹介に爺さんの反応は。
「ほうほう、ガルマン帝国とな。魔道具製作省所属……ふむ、錬金術師? これはまた面白い。ケイン、どれほどの数値かのう?」
「まずはINT(知性)が226ある」
「おお! 素晴らしい!」
「次に、MGP(魔法攻撃力)が128。MGR(魔法防御力)が112だ」
「なるほどなるほど。フリント、とか言うたか。お前さん、相当頑張っとるのう。善きかな善きかな」
やっぱり爺さんは凄腕の錬金術師だ。数値を聞いただけで努力を認めてくれるのだから。
爺さんならわかってくれると思っていたんだ。
逆にフリントは放心している。
「お、俺の事を認めてくれる……? え、どうして」
「あったり前じゃろう。その数値を聞いて笑う奴は錬金術師ではない!」
爺さんが力強く宣言する。そして口調を和らげ、
「お前さんのステータスは誇るべきもんじゃ。今までようやった。辛かったであろう」
爺さんの言葉で一度止まった涙腺が決壊してしまった。
「あ”、あ”んだも、ぞお”言っでぐれるのがあ”あ”ぁぁっっ!!」
両目から出る水分量が半端じゃないぞ。オレはカトーサンにすぐ口に出来る飲み物を用意するようこそっと伝えたよ。
爺さんはそんなフリントの背中をそっとさすっている。
フリントの大泣きが止まった後、オレは彼に話しかける。
「今のままでは何をするにしても中途半端だ。うっかり外に出るのも危険だし、いっそのことここで爺さんに暫く師事してみたらどうだ? この爺さん人使いは荒いが、腕はいいからな」
「何じゃその言い方は。お前さん、老い先短い年寄りにそんな言い方ないじゃろが」
「あんたの普段を見てると尊敬ってなんだろな~、と思えるんだよ」
「年寄りに何ちゅう物言いを。儂、すねちゃうぞ」
「あんたがそれくらいで凹んでたら、世の中全てが根暗だよっ」
オレたちの言い合いを聞いていたフリントがそっと口をはさんできた。
「師事するのは構わないし、ありがたいんだが……このヒト、なんて名前なんだ?」
「「忘れてた!」」
爺さんとオレ、思わずハモってしまったよ。
「と言っても、俺も正式な名前は知らないんだな~」
頭に手をやるオレを呆れて見つめる二組、いや、三組の眼。
表情が無いけどカトーサンまで呆れてるみたいだ。
何なんだよ、まったく。
オレにとっては「グィード爺さん」で十分なんだからさっ。
「仕方ないのう、こうなったら名乗るしかないの」
そう言って腰を伸ばし……
「あいててててっ!」
「爺さん、無理すると寿命縮まるぞ?」
今起きたばっかりだろ、急に動いてぎっくり腰になっても知らんからな。
『ハイ・ヒール』を掛けつつ爺さんに注意を促す。
「いや、うっかりしておったわい。助かるのう、一家に一人ケイン、じゃな」
「常備薬みたいに言うなっての」
「なんだこの、ゆるゆるな掛け合いは……?」
フリントがぼやいているが、
『諦メてくだせぇ、ニイサン。これがいつものふたりでヤスから』
「そ、そうか」
「では改めて。儂はファルグィード・エル・グランギアスというんじゃ」
「へぇ~、やたらと長い名前だな爺さん」
「うむ。儂もあまり好かんのでな、グィード爺さんで通しておる」
「その方が馴染みがあってオレは良いな」
「じゃろう?」
などと話している傍でフリントが頭をひねっている。
「ファルグィード……グラン、ギア、ス…!? ま、まさか貴方様は『ベイレストの護り手』!!」
なにその、厨二的な呼び名は。
「ほう、まだその名は生きておったのか」
「で、では! ご本人なのですねッ! ああっ、感激です! 『生ける錬金術の中興の始祖』ともいわれた貴方様に、俺いやわたくしめは憧れておりましてっ!!」
あ~らら、言葉遣いまで変わったよ、フリント君。でもってもうひとつ厨二な名称が!
「是非是非っ! わたくしめを弟子にお加え下さいませっ!!」
床に跪いて爺さんににじり寄る姿はなんか鬼気迫るものが有るな。近寄りたくない。
「ふぅむ。確かにお前さんは鍛えがいがありそうじゃの。……よし、では師弟の契りを結ぶぞい!」
ブン、と振り回したのはごつごつした荒削りの杖。どっから出した、それ?
見覚えあるなあの杖。
そうそう、拾われた直後の後ろ向きだったオレの頭を思いっきり引っ叩いた奴だ。石突で小突かれたんだけどあの先端でやられたら、間違いなくあの世行きだったな。
うんうんと独り納得していたオレの目の前で、爺さんは杖を大きく掲げる。
「フリント・ヴァッセル。汝、錬金術師を目指すものとしてここに在り。
我ファルグィード・エル・グランギアスを師として敬い技を受け継ぎ、
これからの時を生きることを願うものなり。
錬金釜の焔を絶やすことなく、精進することをここに誓え!」
跪いたフリントが呼応する。
「我フリント・ヴァッセルはファルグィード・エル・グランギアスを
師としてこの命ある限り敬い尊び、精進することを誓います。
錬金窯の焔が絶える時、我が命も絶える刻と心得て、生涯を錬金術の
鍛錬に捧げます」
、
…………スンゲェ文句だな。厨二病、ここに極まれり、てか。
内心ドン引いていると、爺さんの持つ杖の先端に光が生まれ、その中から小さなナニカがこぼれ出た。
それを拾って爺さんがフリントに渡す。
「今の誓いをもってお前さんは儂の弟子となった。これが弟子としての証じゃ。常に身に着けておくように」
「は、はいっ、ありがたく頂戴します!」
眼よりも高く両手を掲げて証を受け取ったフリントは、真っ赤な顔でそれを見つめ、再度頭を下げる。
そっとのぞき込んで見たそれは、金属特有の輝きを放つひし形のペンダントトップのようだ。
オレに気が付いたフリントが急いで手を握り込む。取らないからそんな眼で睨むんじゃないよ、フリント君。
ゆっくりと腰を下ろす爺さんは満足そうだな。
グィード爺さんの名前がやっと出せました!
やたらと長いうえに、ベイレスト共和国とのしがらみがあるので
本人は嫌ってます。
でも、いろんな功績があるので、なかなか忘れてもらえないんですよね~。
諸事情によりちょっと早く投稿しますので、お楽しみくださいませ。
今日も来ていただいてありがとうございます。




