第182話
フリント君の過去が語られます。
オレの問いかけに男……フリント・ヴァッセルはひどく驚いたようだ。
「ゆ、雪の中、だって? チーフは『魔石発掘鉱山』だと言っていたのに……!」
おや。なんだか行き違いがありそうだな。
「あんた、チーフからどう言われていたんだ」
「……ゴラン山脈の北側にある魔石発掘鉱山が手つかずだから、そこへ行って確認しろ、前に行ったチームの連絡もないから、彼らの状況も探索して来い、と。そのふたつを命令されたんだ……」
「あんた独りでか? そりゃ無謀だろうが」
さっき『鑑定』で見たように、こいつのPOW(体力)とSTR(力の強さ)は低い。一般的な人間に比べても、だ。いくら魔法が強くたって、魔獣に出会ったなら一発でやられる。せめて剣士か格闘士の護衛がいないと、探索しようがないだろうに。
オレが呆れて見つめると、自嘲の笑みで顔がゆがんでいた。
「チーフの命令だからな。いや、そうじゃない」
俯いて首を振る。
「チーフにとっちゃ、俺は廃棄物扱いなんだ」
「廃棄物……」
なんだそれ。嫌な言い方だな。
「以前からチーフは俺を嫌っていた。目に見えるわけじゃないけど自分に従属する気配がない、と気づいていたんだろう。あのグラドールみたいな忠誠心が無い事に」
グラドール・ブリオン。西の森で危うく鉢合わせしそうになった時のリーダーか。
あれは狂信者だぞ。比べる方がおかしいと思うんだが。
「だから俺を独りで追いやったんだ。懲罰的な意味もこめて」
「逆らうなら飛ばしてやる、てか?」
「不満を持ってたやつが他にもいたが……俺の扱いにビビってたからな。何も言わなくなったと思う」
なんつー恐怖統治だ。そりゃ誰でも口をつぐんで従うだろうよ。
ストレスがMAXになったら反乱を起こしそうだがな。
「確かに懲罰なんだろうな。雪の中に放り出すんだから」
思わずつぶやいたら、フリントが
「さっきも言ってたよな。『雪の中』ってどういう意味なんだ」
食いつきそうな勢いで訊いてくる。
「そのままの意味だ。
ゴラン山脈は北と南で気候が大きく違う。あちらは年中雪が降っている地域だ。特にあんたの言う『魔石発掘鉱山』辺りは樹々が見えないほど深い雪の中にある。知らなかったのか?」
「し、知らない。そんな情報はなかった。ただ、今までのようにやれば良いとだけしか」
「今までのように、ったって。独りでか?」
西の森でも3人がかりでやってたよな。
「俺は…魔力があるから単独でも大丈夫だと……そう、チーフに言われたんだ。今考えれば、それも懲罰のカモフラージュだったかもしれないと思う」
諦めきった表情でフリントがつぶやいた。
そんな顔は見たくないな。
「それにしても勿体ない。あんたほどの錬金術師を切るなんて」
「俺を……勿体ない、と。そう、言ってくれるのか?」
キョトンとした顔でフリントが聞き返す。
「当然だろ。あんたのステータス見たら。あれ、相当努力したんじゃないか? ポーションやら魔法薬を大量に作っていたんだろ?」
「え……」
「でなきゃ、INT(知性)があれほど高くならないぞ。あの数値はあんたの努力の結晶であり、それ以外の何物でもない」
魔法を使うにはINT(知性)が高くなけりゃならないが、その上げ方は実に地味な方法しかない。
ちまちまとポーションを造る、だけでなく、あれこれと配合を変えたり魔力を込める時間を工夫したりと、自分なりに試行錯誤を繰り返していかないと上がらない、とグィード爺さんが教えてくれた。
魔法を使う場合でもそれは変わらない。魔法陣のどこを強化するか、どれを省略するか、細やかな気配りと操作が必要となる。
それでも上昇率は一番低く、大抵の人間は途中で投げ出してしまう。そこを乗り越えられるかどうかで錬金術師の質が決まるんじゃ、とグィード爺さんはたびたび言っていた。
そしてその後には決まって、
『お前さんのようにいきなりMAXになる奴には無駄な説法じゃがな!』
と鼻で笑われて終わりになっていた。
そんなこと言われてもなぁ……オレの所為じゃないと思うんだが。
だが、それよりも。
この男の数値は難関を乗り越えてきた者しか得られない域に達している。
あ、勇者や賢者、聖女には関係ないよ。あいつらにはスキル補正があるからな。
そういえばあいつらはどうしているんだろう。
あの国からは逃れたようだけど、その後は全くうわさを聞かないな。まさか死んだり……はないよな。あのステータスだ、そんじょそこらの魔獣が束になったってかなうわけないんだから。
…………閑話休題。余計なことを思い出しちまったよ。
今は目の前のことに集中せねば。
そう思い、顔を上げれば。
「え、ええぇえっ!?」
フリントが号泣していた。大の男が手放しで大粒の涙を滝のように流しているなんて図柄、見ることになろうとは。引いて良いかな……。
「えぐっ、えぐ……ばがっでぼられるどばおぼばながっだぁぁ~!」
これ、『分かってもらえるとは思わなかったぁぁ~』、だよな。
(キュウキュキュ~(随分冷遇されてたみたいだっちゃ~))
オーリィもちょっと同情気味だ。
そんなフリントにカトーサンが近づく。
『相当たメ込んでヤしたね、ニイサン。マずは落ち着きナせぃ』
そう言ってタオルを前に置く。どっから出したんだ、あれ。
渡されたタオルで顔を拭き、ついでに鼻をかんで泣き止んだフリントが頭を下げた。
「すまん、急に泣き出して。けど、嬉しかった。俺の今までの努力を認めてもらえて」
「前の職場ではわからなかったみたいだな」
「ああ。いつもいっつも『なにちまちまやってるんだ』とか『無駄なことやってるんじゃねぇ!』とか言われてたから……」
分かるわかる。自分を磨くってのは地味な作業だし、知らない奴から見たら馬鹿みたいだろうしな。
「その職場に錬金術師はいなかったのか?」
半ばわかっている質問をする。
「居ない。あそこには、魔術師、それも高位の攻撃魔法を扱える奴ばかりだったんだ」
まあ、魔力が高くて魔方陣そのままの魔法を使っても問題はない。
ただ、その段階で成長は止まるし、それ以上の高みは望めないなっ。
暫し黙り込んだ後、フリントは自分の生い立ちを語り始める。
「知っての通り、俺は貧乏男爵の三男に生まれた。男爵とは名ばかりの、ほとんど平民と言っていい暮らしだった。でも、家族は仲が良くって、いつも領民と一緒に働いていた。俺はたまたま魔力が多かったから、錬金術師を目指したんだ」
拙いながらもポーションや傷薬を造って、家族や領民に配ってもいた、と。ゆくゆくは魔法薬を扱う店を持って、男爵領の生活を支えるつもりだった、とも。
「それを! あいつがぶち壊したんだ!」
あいつ。タケル・マティスの事だ。
ある日、帝都から使者がやってきた。何事かと恐れ慄く家族の前で、そいつは皇帝の玉璽が押された紙を広げて宣言したのだという。
『 フリント・ヴァッセル。
帝国の危機が迫っている中、そなたの助力が必要となった。
この場から帝都にある魔導具製作省へ直ちに出頭せよ。
ガルマン帝国の貴族としての務めを果たせ。
ガルマン帝国 第26代皇帝
オーディマ・ソリッド・ガルマン 』
「そのまま俺は使者の乗ってきた馬車で帝都まで連行された。家族との別れも……あの娘との約束も果たせずに……!」
俯いてタオルを握りしめ、肩を震わせるフリント。
あの娘、か。言い交わした彼女かな。
「何の説明もなく、あいつ……チーフの前に立たされて……最初に言われたのが」
「言われたのが?」
「『ふぅん、地方貴族にしては魔力が高いんだ。その力、ボクのために使ってよね。あ、ちなみに拒否権はないから~』……くすくす笑いながら俺を見つめて、そう言ったんだ」
……随分な態度と言葉だな。あいつらしいと言うべきなんだろうが、むかつくことに変わりはない。何様と思っているんだか。
「その日以降、俺は故郷に帰っていない。家族とも、あの娘とも会えずじまいだ」
なかなか壮絶な人生だな、おい。
(オーリィ、こいつの故郷の様子ってわかるか?)
(キュルキュル? キュイ~(帝国の北側だよね? 分かるっちゃ))
(ちょっと情報仕入れてきてくれないか?)
(キュルッ!(了解だっちゃ!))
力強い返事ののち、オーリィの気配が消えた。
200話に達しました!
いや~、ここまで続くとは思っても見ず……。
まだ伏線が残ってるし、書きたいこともたくさんあるし。
なので、もう少しお付き合いくださいませ!
本日もお越し頂き、ありがとうございます!!




