第181話
ガルマン帝国へ乗り込む準備、始めます。
とりあえず、あのふたりに関してはこれで問題なさそうだ。
さて、これからどう動くべきか。
このままガルマン帝国へ向かっても情報不足であることは否めない。
「ん、そうだ!」
「キュルキュキュ?(なんか思いついたんだっちゃ?)」
「グィード爺さんの所へ行ってみよう」
『イシスの箱庭』から拒否されたあの男、フリント・ヴァッセル。タケル・マティスに不信感を持っていたあいつなら、何か教えてくれるかもしれない。
「まだ治っていないかもしれんが、一度戻ってみるか」
周辺に誰もいないことを確認して『瞬転』を発動する。
いや、『門』でもいいんだけどさ、あの、真っ黒な穴に入るのがどうしてもおっかなくって。
「キュル~、キュルィィ~(ウッククク~、怖気づいてるだっちゃ~)」
仕方ないだろ、いやなものは嫌なんだよっ!
「キュルッキュキュキュ、キュルルキュルィ~(肝っ玉が太いのか小心者なのか、ホント読めないお方だっちゃ~)」
半分呆れ半分諦めの入ったオーリィの言葉を後に残し、オレはラッテンサンド高原へ飛んだ。
相変わらず目に悪い風景だよ、ここは。
黒いブロック積みの樹々と植菌部カラーの高原から目をそらしつつ、オレは『ホール』へ転移して中へ入った。
『お帰りナさいヤせ、ボス』
カトーサンがテーブルの上から飛び降りてオレを迎えてくれた。
「あれ、爺さんは?」
ぐるりと見渡すも、部屋の中にはいない。どこ行ったんだ?
カトーサンが答えたのは、
『親父さンはリラックスルームに居ヤす。あと4時間ハ寝てますぜ』
「寝てるってぇ? あの、錬金術大好き人間の爺さんが?」
新しい付加魔法を研究すると息巻いていたグィード爺さんが寝・て・い・る?
天変地異でも起こるんじゃないかぁ?
そんな戦々恐々としたオレを見て、
『大丈夫っすよボス。ちょっト鎮静剤と睡眠導入剤を打ち込んダだけ
デヤスカラ』
「……なんだその、精神病院で用いられそうな薬の羅列は……」
『イエ、ですカらね。ボスが出て行ってカらずっト寝ずに研究をシテ
たんスヨ、オヤジさん。
ナノデ後ろカらちょちょいと』
「打ち込んで、強制的に眠らせたって事か……」
さもありなん。
その一言に尽きるな。
その次にやる事は。
「よくやってくれたカトーサン!」
オレはゴーレム人形の肩を軽く叩く。
「あのジーサン、夢中になると寝食を忘れるタイプなんだよ。一緒に居た時も何度怒ったことか。あ、もしかして今回も食べてなかったのか?」
『ヘイ。最初は一日1食は食べテやしたが、そのウち栄養素ヲ
抽出したポーションで済まセるようになりやシテ。あれでハ体
がもタないと判断いたシやした。……良かったデやしたか?』
最後は自信なさげに顔をうつむけていたカトーサンだが、
「うん、それでいい。的確な処置だ」
オレの言葉にホッとしたようだ。
『そう、デヤスか。……怒られるかと、思ってたんでヤスガ』
「逆だよ。夢中になった爺さんを止めるよう伝えなかったオレが悪いんだ。そう言う情報がなくともカトーサンは自主的に判断できる。ありがとう、最高だ」
そう、伝えると。
『そこマで言ってもらエるンデ……っ!』
何やら感激しているカトーサンだった。
ん? なんでだ? 普通だと思うんだが…………。ま、まあいいや。
「ところでカトーサン、この前預けた男はまだ治療中か?」
訊ねると首をかしげてしばし沈黙。そして、
『そっすね……最初の見立てヨりも早く回復シてルんで、
そろソろ大丈夫っすヨ。起こシまスかい?』
「そうしてもらえるかな。あ、それとその部屋で話せると良いんだが」
『良いっすよ。小サいテーブルと椅子ヲ用意しまスんで』
「おう、助かる」
話しながら『医療カプセル設置所』の扉をくぐり、カプセルの前に立つ。
以前見たまま、青い液体に浸かって眼を閉じている男。違うのは光の線がせわしなく上から下、または下から上へと動き、そのたびに横にあるランプが点滅を繰り返している。
やがてランプがすべて同じ色に変わり……中の液体が排出されていく。
要するに『オールグリーン』。準備完了、てことだな。
生まれたままの体に、いつの間にか服が着せ掛けてある。これはあれだな、最初に居れた時に服が消えたのと同じ仕組みなんだろう。
白いシャツに焦げ茶色のチョッキと同系色のズボンを揃えるあたり、コーディネート能力まであるのか。スゲェな、ここ。
顔を覆っていたマスクは消え、ライトが点滅して目に当てられる。どうやら覚醒を促してるな。
{う………うぅ……」
うなり声とともに目を開ける。最初はぼんやりとしていたが、目の焦点が合いだして周りを見渡す顔が驚きと困惑に彩られる。うん、その反応は正常だ。
「カトーサン、出してやってくれ」
『ヨうがす』
返事とともにカプセルの前面ガラスが左右に割れる。あれ、最初の時は上に跳ね上がったのに、今度は真ん中から引っ込むんだ。
まあ、立った状態で跳ねあがったら前に居る人が危ないよな。
オレは立ちすくんだ男に手を差し出した。
困惑しながらも手を伸ばして歩き出そうとしたが。
膝から崩れ落ちる、寸前で抱きとめた。
「す、済まない。なんだか、力が入らなくて……」
「しばらく動いてないからな、当然だ。まずは右足をゆっくりと前に踏み出してかかとに力を入れる。で、しっかりと踏み出せたら次に左足を同じように前に出す。それを繰り返せばいい」
『電気信号デ筋肉を補助シてタんすが、やっぱ無理デすかい』
こればっかりは身体が覚えてることだから。そう言ううちにも足取りが確かになってくる。
『そういうモんでスか。ア、こっちニ椅子ガありやすよ』
「よし、そっちに向かうぞ」
オレはゆっくり後ずさりしながら誘導する。部屋の隅にしつらえたテーブルセットと椅子に腰を落ち着けるころにはかなりしっかりとした足取りになっていた。もう大丈夫だな。
カトーサンが前もって用意してくれていた紅茶を差し出すと、
「ありがとう、いただくよ」
ひと口含んでカップを置く。そして周りを見渡した。
「な、なんかすごいところだな、ここ……」
オレは声を出さずに様子を見守る。
やがて男の眼が正面に座っているオレへと戻ってきた。
「……えーっと……あの、貴方、は?」
そうだな、こいつはオレにあったことないよな。オレが一方的に知っているだけだし。
「まずは、そうだな。オレはケインという。冒険者だ。あんたはフリント・ヴァッセル、だな?」
「なっ! なんで名前を…っ!?」
そうだよな。知らない相手から名前を呼ばれるなんて気味わるいことこの上ない。
「生まれは帝都じゃない。パルリオット地方にある男爵家の三男で、ガルマン帝国の魔道具製作省に所属している錬金術師、で合ってるか?」
「!?&+#☆!っ?」
あらら、言語機能が崩壊しちゃったよ。
オレを睨みながら腰を浮かしかけ……力が入らずに座り込んじまった。
あまり脅かしたくはないんだが、ここはしっかりオレの方が上だと知らしめねば。
「MGP(魔法攻撃力)128。MGR(魔法防御力)112。INT(知性)……ほう、226もあるのか。錬金術師としても かなり高い数字だな。惜しむらくはPOW(体力)とSTR(力の強さ)が100を切ってるところか。物理的な攻撃に弱いから前線には立てない、と」
オレの言葉に青ざめていく彼。
「あ、あんた……俺を『鑑定』してるのか……?」
答えることなく、二ッと笑ってみせる。
「いいスキルを持ってるな。「直感」か。自分と周囲の不穏な気配に敏感になるんだ。おっ、LUK(幸運)も147とは恵まれてるな。……それでも」
オレは男を見据える。
「なぜ、雪の中に飛ばされたんだ?」
おいでいただき、ありがとうございます。
2023/6/14 訂正しました。
魔道具制作省 ⇒ 魔道具製作省
何度か読み直してはいるんですが……見落としました。




