第180話
商会長は女好きです。
あちらの問題が片付いたなら次はこっちだ、と言いたいところなんだが。
もう少しこのふたりの護衛を影ながらやっておこうか。
というのも、ふたりの荷馬車が出て行ってから直ぐに、商会長の追手と思われる風体の男たちが、わらわらと門を飛び出していくのを見てしまったからだ。
馬を使っていないから追いつけないだろうが……そこまで執着するとはな。
男なら振られた時点で諦めろと言いたい。まぁ、あの美人さんを見逃したくはないんだろうけど。
「キュルッキュ~(あのヒト、執念深いっちゃよ~)」
だからって子供の嫁を取り上げるなよ、大人げない。
英雄、色を好むとはよく言われるが、引き際を誤るとみっともないぞ。
ま、閑話休題、だ。今はあの男たちをどうにかしよう。
宿場町から見えない位置までそっと後をつけて、魔法を発動する。
オレの記憶の中にある『バインド』よりも、効きそうな魔法。
「『グラビティ』(範囲指定)」
「うぉっ!」
「な、なんだ!」
「「「うごけない~~っ!」」」
いやぁ、オレのINT(知性)さん、本当に優秀だ。
この魔法で5人いた追手のうち4人までがその場に倒れて動けなくなったし、ちょっと範囲から外れかかった奴も足を固定されたようで立ちすくんでいる。
周辺一帯を『防音』と『結界』で包み、おまけに『認識阻害』を張り付けたから他の人たちにはわからなくなってるから安心、安全。
「キュルキュル~?(誰のための安心、安全だっちゃ~?)」
当然、オレのために決まってるだろうが!
分かり切ったことを言うなよオーリィ(ドヤ顔)。
そうしておいて、オレは5人の前に現れた。
「よう、ご苦労さん」
「なんだお前は!」
「俺たちをこんな目に合わせて後悔するぞ!」
「は、早く魔法を解けっ!」
「俺たちの雇い主を知らないのか!」
「今なら許してやる、かはっ!」
最後の発言した奴は……あ、一番きつくかかってるな。押しつぶされそうになってる。
ちょっと緩めてやると、地面に倒れたまま肩を大きく揺らしていた。
う~ん、この魔法、ちょっとムラがあるな。均等にかからないといけないんだが。改良の余地があるようだ。
などとよそ事を考えていると。
「「「「「聞いてるのか!!」」」」」
ハモリで怒鳴られてしまった。
「ああ、すまんすまん。忘れていた」
「「「「「忘れるなっ!!!」」」」」
……君ら、仲いいな。グッドハーモニーじゃないか。
ではなくて。
「あーと。ちょっと確認するが、あんたらが追っているのはオーマイン商会の秘書でいいのかな?」
そう聞くと驚いたようだ。
「そうだっ。分かっているなら邪魔するな!」
「いちいち大声を上げるなよ、鬱陶しい。オレはまだ耳が遠くないんだ、普通の声で聞こえるよ」
「それはっ」
「それとも何か? オーマイン商会の関係者はバカでかい声で無作法な奴らでないと務まらんのか?」
「「「「っ!?」」」」
「先ほどオレのところに乱入してきたのもあんたらと同じだよな?」
「……ひょっとして、お前、いや、貴方は……ケイン、さん?」
足だけ固まった男が恐るおそる訊いてくるので頷いてやった、ら。
全員、さぁーッと血の気が引いたのにはこっちが驚きだ。
「あ、あの……」
「ん、なんだ?」
「「「「「殺さないでくださいぃぃぃっ!!」」」」」
そこまでハモるのか、あんたらは。
というか、
「…………どっからその結論にたどり着いたんだ?」
「だ、だって、貴方様が、その、大魔法でフォルカイス王国軍を全滅させたと聞いてますから、俺たちもそうされる、のかと」
あ・な・た・さ・まぁ!? 初めてだよ、そんな敬称呼びは。
それに、何その誤情報。オレってどんだけ非道なの!?
「キュキュキュル~♪(やーい、お情け無用の大悪人~♪)」
やめろオーリィ! おかしな呼び名をつけるんじゃないっ!
「そ、それに、『勇者』や『聖女』も張り飛ばした、と」
それはちっがーうぅ!
「『賢者』の前で、だ、大魔法を展開して」
「3人まとめて消し去ったと、聞いてるん、ですが」
「「「「「違うんですかっ!?」」」」」
違うも違う、大違いだっ!
「あのな……オレはただ追い払っただけだ。軍隊の全滅なんてやってないぞ」
「え、そ、そうなん、ですか?」
「『勇者』はフェルディート将軍が叩きのめしたし、『聖女』はガル爺さんが怒鳴りつけてたな」
あの時の怒りは凄かったよな。アーミンをあそこまで馬鹿にする「聖女」もヒドインだが。
「『賢者』の相手は確かにオレだが、大魔法って言ってもちらっと見せただけで撃ってもいないし……どこからそんな情報仕入れてきてるんだあんたらは!」
「俺は酒場で」
「ああ、おれもそう聞いた」
「……商会長の集めた情報にあったからてっきりそうだと」
「この前行った娼館でコレに」
「ギルドの姉ちゃんがこっそり教えてくれた」
「「「「なにいぃぃっ~~~!!」」」」
なぁにやってんだこいつら。今お前らがどうなってんのか、理解してる?
呆れて眺めるオレの前で、ギルドの姉ちゃん発言した一人をみんなが口撃している。いや、本人たち動けないからな。もし動けてたら、すさまじい修羅場となっていたに違いない。
姉ちゃんてもしかしてミッキーさん? 殺す、お前殺す!! 憧れのミッキーちゃんを汚すとはっ! オレ死ぬもう死ぬ軽く死ねる! いっそお前死んで来い!! …………エトセトラエトセトラ。
もう、不合理。支離滅裂。混沌の一択だ。ただただ煩い。
やる事もあって時間がもったいないな……腹も立ってきたぞ。
「お前ら、いい加減にしろ!」
『威圧』を乗せて一発怒鳴る。
「「「「「…………」」」」」
やっと静かになったな。
「まったく何しに来てるんだおまえらは」
噂話で決めつけたり騒いだり。
「もうちょっと正確な情報集めしろよ。他人に頼ってないでさ」
呆れたため息とともに『グラビティ』を解除する。
身体にかかっていた圧が消え、恐るおそる立ち上がる男どもに向かい、最後に一言。
「商会長がどう言ったか知らんが、オレはオーマイン商会の誰にも組しないし、敵対もしない。
た・だ・し!」
ぎろりと睨んで続ける。
「悪意を持って近づく奴には容赦しない。徹底的にたたくからな」
「あの、でも……」
「なんだ」
「じゃ、どうして秘書のモナンザさんに絡むんで?」
おっかなびっくりの及び腰で訊いてくるだけ根性があるな。
「ハインツ商会長がどういう人間でどれだけの影響力があるのか正直オレは知らん。でもな、子供の恋人を取り上げるような品性の奴と付き合うつもりはない。そう伝えておけ」
しっしと手を振ってやると、逃げるように去っていく。こっちはこれでいいか。
「オーリィ、商会長周りに誰か張り付けてもらえないか? あれで諦めるとは思えない」
「キュッ!(了解だっちゃ!)」
「悪いな、頼むわ」
「キュキュッ! キュルッキュキュ~(構わないっちゃよ! あのおっちゃん、前から目をつけてたっちゃよ~)」
「え、そうなのか?」
オーリィが言うには、各国それぞれにアーミンの連絡網が敷かれているらしい。でもって、主要な人物には当番制で張り付いているのだとか。
「キュルッキュキュキュル、キュルキュルキュ~(宰相補佐とか財務大臣秘書とか、近衛隊長所属の小姓なんかだっちゃ~)」
「え、本人ではないのか?」
「キュイキュルキュイ~(んなことしたら魔道具に感知されるっちゃよ~)」
国の主要人物はいろんな魔道具を所持しているし、その周辺にも配置されている。アーミンにとってそれをかいくぐるのは簡単なんだそうだが、いちいち面倒、だと。
それよりも、使えている者たちの方がずっと監視が緩いし、やりやすい。何より噂話を仕入れる効率が良い、らしい。
「キュイキュイキュイルルル~(洗濯場や厨房、休憩室とかの話って馬鹿にならないんだっちゃ~)」
執務室の独り言や何気ない言葉に噂話、それを複数組み合わせるとかなり精度の高い情報となる。日に何度か情報交換して擦り合わせ、連絡網に流せばアーミン全体で共有できる仕組みになっている。
(アーミンを諜報部員として囲い込みたいはずだよ、こりゃあ)
以前訪れた獣人国での会話が蘇る。各国の内部情報なんてどこでも喉から手が出るほどにほしいものだ。だからこそ、アーミンは何処にも属することなく過ごしてきたのだろうな。
「そんな情報をオレが聞いて利用しても良いのか?」
「キュルッ! キュルキュルキュイキュル?(何を今更! アチシ達の情報を聞いてもおかしなことに使わないだっちゃ?)」
「そうか」
それほどの信頼をもらっているのか、オレは。だったら答えなくっちゃな。
アーミンの情報集めは凄いです。
影から影へ移るから分からないんでしょうね。
更新が遅れて申し訳ありません。
今日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。




