第158話
ミゼルヴァ王朝。魔法に関しては他の追随を許さぬ優れた技術を持ち、古代文明の中で最も長く続いたと言われているのに、文献がほぼ壊滅状態で詳細が分からない、謎の王朝。
そんななか、ダンジョンコアの中から発見される石板がミゼルヴァ王朝時代に造られた強力な魔法であることを突き止めた学者がいた。
その学者が発表した論文で一気に王朝への関心が高まり、ちょっと力のある冒険者や魔法使い、裕福な商人等に雇われた傭兵たちがダンジョンコアを求めて押しかけた時期があったらしい。
だが、相手はダンジョンだ。
そう簡単に攻略できるようなものでないことは明確だ。その証拠に、現在においても未攻略のダンジョンが存続していることから明らかである。
数多の生命と資材と時間が喪われてやっと、ダンジョン攻略が無謀なものだとヒト族は気づいた。
その後潮が引くようにダンジョン熱が冷めていったが、幻の王朝に対する熱情は学者や錬金術師、歴史家の中に深く根付いて消えることなく燃え続ける。
容易に実態を表さないミゼルヴァ王朝に対し、膨大な時間と努力を費やしながら粘り強く探索を続けた研究者たちによって、謎と呼ばれたミゼルヴァ王朝にかけられた分厚いベールが少しずつはがされていった。
…………というのが、現在におけるミゼルヴァ王朝の位置づけであるらしい。
グィード爺さんと暮らした2年ちょいとの間、折に触れて爺さんがオレに聞かせてくれた内容だ。例にもれず、じいさんも熱烈なミゼルヴァ王朝探究者のひとりである。
その原動力が知識欲なのは、まさに錬金術師だなと思うのだが。
「どぉして! どーして見せてくれんかったんじゃああぁぁっ! あの! あの、ミゼルヴァ王朝が編み出した技術を! 儂も見たかったあぁぁっっ!!!」
冷静沈着を絵にかいたような爺さんが鼻水垂らしながら泣きわめき、床で手足をバタバタさせては大の字になって転がる。
まさに大きな駄々っ子だ。
…………見たくはなかったな。
一方、その惨状を引き起こした元凶は、正座したまま頭をかしげている。
『そウ言われテも、でスねぇ。見テも面白くないっスよ、本当に』
その声に滲むのは困惑と……わずかに感じるのはためらい、か?
マリオネットの顔に目鼻はついていない。だが、なぜかオレはそのしぐさからカトーサンの葛藤を感じるんだよな。
このまま話が進んでやり方を公開することにならないよう、カトーサンの中で何かが歯止めをかけているような、そんな感じを受ける。
その感覚は何処から来ているんだろう。
そしてオレは何故そう思うんだ?
疑問を解消しようと口を開きかけたが、不意に背筋が寒くなった。
身体中の皮膚がざわり、と逆立つような。
木枯らしに足元をすくわれたような。
もっと言うなら……実体のない冷たい手が、首筋から背中へと降りていったような、そんな気配にオレは固まった。
この感覚には覚えがある。
そう、確か、ウルヴィスと話していた時だ。
あの時は柔らかく押しとどめるような感じだったが、今回は全然違う。
前回は『注意』を促して『停止』させただけだ。
今回はそれよりももっと強い『警告』が含まれている。
『それ以上は駄目』と、耳元で囁かれた……いったい誰なんだよお前!
前回と言い、今回と言い。本っ当にまどろっこしい!
怒鳴ろうとしたがそれよりも早く。
「……ュッ! キュキュッ!(……のおバカ! どこ行ってるだっちゃ!)」
「痛ってぇ! 髪を引っ張るな!……え?」
はっ、と我に返ればそこは『魔窟』のど真ん中。
前回と同様どこにも行った覚えはないが、オレの意識だけ吹っ飛んでいた可能性が高い。
え、ひょっとしてオレ、幽体離脱かトリップしてたの!?
「キュ! キュイィ~(うん! ホント心配したっちゃ~)」
「そうか……なんなんだろうな一体」
「キュルキュ…キュルキュキュ!(よくわかんないけど……今は考えるなってことだっちゃ!)」
そんな簡単な事かぁ?
「キュルッキュキュ?(多分神様関係の事だと思うっちゃよ?)」
やっぱそっかー! くっそー!
指を握り込んでグッと固める。やや顔をうつむけて歯を噛み締める。
これはオレが小さい時についた癖だ。
母親にしょうもないことで叱られ叩かれるたびにこの姿勢で耐え続け、オレが声をあげなくなったら次は家の外に放り出されるようになった。寒かったけれど、身体に加えられる暴力がなくなっただけマシだった。
その代わり心は冷え切っていって、笑うことも怒ることもしなくなり……母親に気味悪がられた。『あんたがやったことなのに』心の中の声は届かず、オレは捨てられた。
伯父が探しに来てくれなかったら、オレはあのまま心をどこかにやってしまっていただろう。なにも語らず動かず食べることすらせずに、死んでいたかもしれない。
あの環境から連れ出して世話を焼いてくれた伯父や家族、近所の人たちには感謝の言葉もない。
みんなのおかげで心を取り戻し、母親の事も笑い飛ばすこともできるようになった。
……ただ、不意打ちで悪意を向けられたり、我慢していたストレスがたまった時に身体が防御反応を起こしてしまうんだ。小さい時はしゃがみ込んでしまって固まったが、今はそこまでいかないのが救いだな。
「キュキュイ~?(だいじょぶ~?)」
肩へ降りてきたオーリィが頬をなでてきたけれど、オレの中のイライラは収まらない。
ここは一発…
『ファスト』と『身体強化』をかけて『魔窟』を一息に横切り、ホールに出る。その中央まで行って立ち止まると。
腰を落として足を踏ん張り、大きく息を吸って!
「中途半端な召喚してくれやがった野郎どもは、許さぁぁーんん!」
もう一声!
「神様だろうと何だろうと、お前らいい加減にしろぉぉー!!」
この世界にどれだけの神がいるのか知らんが、祝福や加護をつけるだけであとは知らんと放り投げる奴らばっかりじゃないか!
最高神に遠慮してるからかとも思うが、それでも何とかしようと動いてもおかしくないだろうが!
そんな奴ら、絶対。絶っ対。ずぇったいに!
「敬ってなんかやるもんかぁぁっー!!!」
はー、はー、はぁぁー。
あー、久しぶりに大声出したな~。
『魔窟』じゃどんな影響があるかわかんなくてこっちまで来たけど。
ホントはさ、この上の高原か海岸べりで叫ぶのがお約束なのはわかってるよ?
でも、却下。
高原だとまたウルヴィスが飛んでくるし、それ以外のナニカも呼び寄せそうだし。
海岸べりはオレが適当な場所を知らないからな。わっはっは。
もっとも、海に向かって叫ぶとメイマーニアの奴に捕まりそうな気がする。
あれはあれで面倒くさいし。
で、ホール一択なわけだ。
うん、スッキリした。
「キュ~……キュイ、キュルル~(うへぇ~……声もデカかったけど、内容が無茶苦茶だっちゃ~)」
うん、そうかな? 妥当だと思うけど?
「キュキュッキュ!(神様相手にどーすんだっちゃ!)」
「何言ってるんだ。最初にケンカ吹っ掛けてきたのはあっちだぞ、オレは悪くない!」
「キュ~~キュルルキュルル……(駄目だこのヒト、自分を正当化してるっちゃ……)」
顔を押さえて影に潜り込むオーリィ。その際に何か呟いてたようだけど聞こえない。
聞こえないったら聞こえない!
「キュルッキュルルル~(難儀なヒトを好いたアチシが一番アホだっちゃ~)」
オーリィのぼやきは影の中に消えていった。
最後でオーリィがデレてます(笑)
今回でストックが切れました。
仕事が重なってなかなか書けずにいたのが……ハイ、言い訳です。
が、頑張って書きますのでご容赦くださいませ(平伏)
それでも来てくださり、ありがとうございます。




