第157話
ケインとグィード爺さんが決裂!?
オレは『魔窟』へ戻ると椅子に座ったまま動けずにいる爺さんの前に立ち、両手でひじ掛けをつかんで身をかがめる。
「待たせたな爺さん。さて、O・HA・NA・SHI・しようか?」
間近に迫ったオレの顔を見詰め、グィード爺さんの顔が引きつる。
それでもさすがに年の功、でてくる声に震えはない。
「OHANASHI? の前にじゃな、この魔法を解いてくれんかの?」
「ほう、何故に?」
「いや、さっきから、ほれ、自然に呼ばれておっての? 分かるじゃろ?」
「それはそれは」
今、オレたちは笑顔全開で向き合っている。
にこにこにこにこ ニコニコニコ。
なのに、なぜかカトーサンが近寄ってこない。
『……ニンゲンのオーラってこんナに黒くナるんでやスね。
ビンビンと警戒信号がうなっテるでヤす。今は近寄れないっす』
あ? カトーサン。それはどーゆー意味かな?
笑顔とともにマリオネットの方を向けば、そそくさとテーブルの下に移動する。
ふぅん、そぉゆー態度にでるんだぁ? よし、この後仲良くO・HA・NA・SHI・しような?
小さく悲鳴が上がったような気がしたが……まあいいや。
オレは顔を戻した。
爺さんの作り笑顔がはがれてきたけど、それも無視する。
「儂もこの年での、ちょぉっと近くなっとるんじゃ。だから行かせ……」
「大丈夫だ、そんなに長い話じゃないからさ。さらっと言ってくれれば終わりになる。そうだろ爺さん?」
「さらっと……」
「論点はひとつだ。簡単だろ……爺さん、カトーサンのゴーレムをどうやって造った?」
何も答えずに顔をそらした爺さん。そこにある明確な拒否を読み取りつつもオレは構わずに話し続ける。
「前にオレ、訊いたよな。『人造人間って作れるのか?』と。その時は『否』だった。神の領域に属するもので、己で考え己で判断する『自我』は出来ないってね」
うん、しっかり覚えてる。その時の爺さんの、悔しそうな諦めきった表情すらも。
「でも、賢者の石でも駄目だって言ってたことがここには起こっている。マリオネット型のゴーレム、あれは間違いなくカトーサンの自我をもって、その権限を行使している。
爺さん…………いったい、何をやったんだ?」
そう問い詰めると。横を向いていた爺さんの眼がオレをとらえた。
「すまん」
ただ一言、その口から洩れた言葉。
なにに対する謝罪なのか、オレにはわからない。
謝らなきゃいけないことをやったのかもしれないが、それすら見当もつかない。
いや、これはただの逃げだ。薄々はわかっている。
「爺さん……あんた……神にケンカを売ろうってか!?」
「そんなつもりはない!」
思いもかけない強さで否定された。
「じゃあ、何のつもりでやったんだよ!」
「それは……」
『ボス。おやっさンを責めナいでくだセぇ』
声とともに、オレの袖を引っ張る感触がしたのでそちらを向けば、テーブルの上にマリオネットのカトーサンが正座(!)していた。
『アッシは元々中級ノ水分補給魔導機でヤす。固定さレた状態
で稼働すルのが普通なんでやスよ。それヲうっかり愚痴ったノ
が始まりなんで』
この遺跡全体の管理を任されているのだから、どこの様子だって『見る』ことも『聞く』こともできて、音声で指示することもできるらしい。元の世界の記憶に照らすと、モニター画面ですべてを見ている管理室に近いんだろう。
『前の『門番』サんから必要な能力は受け継イでヤスからね、
処理機能に問題はないんスよ。ただねぇ……どウにも歯がゆい
んでサ。贅沢な悩みデはあるんスが』
「儂もな、独り言よりは誰かが居てほしいと思ってたんじゃ」
黙っていた爺さんがぼそりと言う。
「こんなことを想うとはのう。ケインと暮らしていた時を懐かしむとはな」
え、あんたオレが居た所為だと言いたいのか。
「半年前、だったかの、おぬしが出掛けたのは。送り出した当時はそう感じなかったんじゃよ。ずっと独りで生きてきたからのう」
宙を見つめながら、独り言のようにつづられる言葉。だが、爺さんの心そのものがそこに在った。
「最初はそれまでの生活に戻れば良いんじゃと、そう思っておった。じゃがの……ケインと過ごした2年ちょっとが意外と楽しかったようじゃ。首都にあるあの家が変に広く感じられてな。不思議じゃろ?」
「…………」
「ここでもそうじゃ。元々錬金術師なんてのは孤独なもんじゃ。今まではそれで良しと思うておったが……口げんかの相手がちぃと欲しくなって、の」
「………………」
「そこへカトーサンのぼやきを聞いたもんじゃから、それなら、と」
「爺さん…………
…………ついに呆けたか?」
「なぁにを言うか、小僧めが! 儂は生涯現役じゃ!」
やっと普段の爺さんらしくなってきたな。こうでなくっちゃ。
「でもマリオネット型のゴーレムは爺さんが造ったんだろうが、その先の自我はどうしたんだ?」
「お前さん……それも儂が造ったとは言わんのじゃな?」
「ははっ、いくらグィード爺さんでも無理無理」
恨めし気に見上げる爺さんの目の前で手を振る。
「以前に聞いた話と爺さんの気性からして造りかねんとは思うけどさ」
貴重な品である『熊の肝』を渡してからそんなに時間が経っていない。たとえそのほかの材料がそろっていたとしても、だ。
賢者の石だってまだ成功した錬金術師はいないんだ。それを使ってもできない『自我』なんだし。
そうそう簡単にできるとは考えにくいんだよな。
「ふんっ、面憎いほどに情勢を読みおるの、こ奴は!」
どうやら和解できたんだが、逆にそれが爺さんにとってご機嫌を損ねるもととなったようだ。
「ああ、ああ、どうせ儂は耄碌じじいじゃよ。錬金術師と言ってもまだ50年しか経っておらんしの」
いや、ひと口に50年と言ってるけど、それ、普通の人の全人生ですが。
椅子ごと後ろを向いてのの字を書いてるが、ちっともかわいくないぞ?
第一、動けることに気づいてないのかな~。
「キュル~、キュルル~!(ウクク~、いじけてるっちゃ!)」
こらオーリィ! 煽るんじゃな~い!
『おやっサんがここマで素直に行動スるナんて……
やっぱボスは無敵っスね!』
カトーサン、その賛辞は意味が違うと思うんだが!?
本来の問題からずれてるんだけど!
「で、さ。本当に『自我』はどうしたんだよ爺さん」
気を取り直して改めて聞いたところ、
『ソれはアッシノやったコとでサぁ』
なんとカトーサンから声が上がった。
「カトーサンが?」
「そうじゃ。儂にもようわからん方法での」
へえ、爺さんでもわからないとは、どんなやり方なんだ。
『初公開ですな。これでヤス』
カトーサンが自分の正面で何やら手を動かすと、胸の部分がパカッ、と開いた。その奥に光る小さなもの。
『これ、ナんだかわかるっスか?』
「……随分小さいが…宝石、ではないよな…でも何か鉱物ではあるような?」
『お? 流石っスねボス。実は、魔虹石ノ欠片なんスよ』
「魔虹石のかけらだとぉぉっ!?」
オレより先に爺さんが反応した。突き飛ばさんばかりにオレを押しのけ、まじまじとマリオネットの胸を凝視している。なんだこの状態は。
『あ~……実を言エばこの作業、ちょっと曰くがありヤシて。
おやっサんを抜きにシて、アッシダけでやってたもんスから』
オレは絶句した。カトーサンだけで『自我』を造り上げた、なんて……!
『あ、この言い方ダとおかしいっスね。アッシが造ったんじゃ
ないんス。
いや、ダからおやっさん、睨まないでくだサいよ』
「睨んでなぞおらんわ! 確かにあの時はバタバタしとったが、お前さんが声をかけてくれればいつでも行けたんだぞい!」
爺さん、未知なる作業を見過ごして地団駄踏んでるよ。
「それにじゃ! お前さんときたらゴーレムができた途端に『それを穴に入れろ』と言いおったじゃろうが! じゃから何がどうなったのか、この! 儂にも! 分からぬままじゃったんじゃぞい!!」
うわ~、今度は逆ギレしてる。
そうだよな、知識欲が何より抜きんでて高い錬金術師なのに、新たな知識を得られる(?)かもしれない機会を奪ったんだから……って、その知識、まさか?
「カトーサン、その方法って……」
『ええまぁ。こノ技術、先の『門番』ORT127QZGの
データニあっタ方法でシてね。ひらっタく言うと古代文明ノ
最期の王朝、ミゼルヴァ王朝時代のものでヤす』
待て待て、ちょぉぉっッと待てぇ~~!!
なんつー事を言い出すんだお前は!
気に入らない部分を手直ししていたらちょっと更新が遅れました。
そろそろストックが切れそうです。
頑張ってるんですが、仕事との兼ね合いがきつい・・・(泣)
おいでくださって有難うございます!




