第156話
新天地!と言いながら毎度お馴染みの場所でした。
魔石発掘鉱山、じゃなくて『イシスの箱庭』から『門』を通じて飛んできたのは、ショッキングカラーの草が靡くラッテンサンド高原。
そう、古代遺跡のひとつ『魔虹石採取所』だったが、今は錬金術師の『魔窟』だ。なにせベイレスト共和国の元筆頭錬金術師長をやっていたグィード爺さんが陣取ってるんだ、中身はおっそろしく変わっているんだよ。オレはその真上へと戻ってきた。
「うわ、あっついな。けど、こいつの容態の方が心配だ」
服装をそのままに、『門番』さんだった岩の横へ移動すると、瞬きひとつ分の間に地下施設のホールに立っていた。先日設置した『短距離移動用門』はきちんと作動してくれている。
『体力強化』をかけて『そいつ』の体を抱え込み、点々とつくライトと競争する勢いで『魔窟』へと駆け込んだ。
オレの足音に驚いて振り向いた爺さんの第一声。
「お、おおっケイン!? 今回は早いお帰りじゃの」
「そんな感想はいいから! 緊急事態だ、手を貸してくれっ!」
『どうかしタンっすかボス。そんなニ慌てテ』
「え? 今のどこから……?」
『アれ、脇に抱えテるのハ誰デやすかイ?』
声はテーブルの上からしているな。えっと……?
ごちゃごちゃと物が散乱している中から、ソレは出てきた。全身銀色に輝くボディを持った……マリオネット。だが口調はカトーサンとそっくり……え?
テーブルに落としていた視線をそろりと上げ、爺さんを探す。ギリギリと首のゼンマイが音を出しているような気もするが無視して視線を彷徨わせると。
見つけた。
「どこ行くつもりだよ、グィード爺さん?」
『ファスト』でもって爺さんの襟首を引っ掴み、テーブルに戻る。このくそジジイ、ホールへ抜け出そうとしてやがったんだ。逃がすもんかよ!
「い、いや、ケイン、誤解しておるようじゃが、儂は、な?」
「誤解も六階も無い。大人しくしてろよ」
椅子に座らせて『バインド』を腰から下へかける。どうだ、これで動けまい!
「うおっ、この年寄りになんつー扱いじゃ!」
「都合よく年長者を名乗るんじゃない」
言い捨てて、次にマリオネットの方を向く。半ばカマかけで。
「カトーサン、雪の中に埋もれて蘇生したばっかりのこいつを助けたいんだけど、何か方法がないか?」
問いかけに銀色ボディのマリオネットは首をかしげる。
『ボスの回復魔法ヲ受けていレば問題ないんでは?
ア、そうか! ボスの魔法、あまりに強すぎるンでやスね。
ようがス、ならイイ方法がありまっせ!』
そう言ってテーブルからぴょんと飛び降り、軽快に走り出す。やっぱりカトーサンだな。ジジイ、何やらかしやがった!
オレの内心とは裏腹に、嬉し気に声を上げるマリオネット。食堂と反対側の壁に手をつくなり、
『やっとマタここを使えるんでヤすね、嬉しイっすよ』
その手が銀色に光る。え、ひょっとしてそこにも扉があったの!?
思った通り、ドアが出てきた。が、今までの所と違い、扉に表示がされている。
『魔虹石採取所 入り口 と 医療カプセル設置所』
「医療……カプセル……設置、所?」
『さいデやス。魔虹石ヲ採取するのハそれほど大変じゃないんスが、
叩いたり穴を掘ったリスると壁が剥がレるんす。
普通ニここの装備品ヲ使っていレば何てことないンすが、自信過
剰っつーか我が儘ナ連中ガ多くっテ、使わナい奴らが事故るんスよ。
その救急手段ガこレでさぁ』
にぎやかにしゃべりながらマリオネット型になったカトーサンが壁に手をくっつける。
シュウウゥゥゥ・・・
空気が抜ける音とともに下からナニカが滑り出てくる。前面が透明な湾曲したガラス画面で出来た……
「カプセル……だよな、どう見ても」
目に馴染んだ近未来世界の定番と言える一人用のシェルターそのものがあった。
なんだよ、どうしてだよ。ここファンタジーじゃなかったのかよ!
こんなの聞いてないぞ、創世神のバカヤローぉぉぉっ!
「うわぁ……ついにSFが乱入してきた……!」
『えすえふ……なんスかそれ?』
「あー、カトーサンには関係ないよな。ごめん、オレのうわごとだ」
ここで深呼吸。落ち着けオレ、平常心平常心。
スーハー、スーハー…………良し、じゃな~い!
こいつのこと忘れてた!
「それでどーすんだカトーサン!」
『大丈夫でヤすよ。今開けマすって』
カプセルの側面をいじっていたカトーサンが答えた途端、前面のガラス部分が上に跳ね上がった。
『その中ニ寝かせてくレレば完了ですぜボス』
言われたとおりに中へ入れると、跳ねあがった蓋がゆっくりと閉まり、頭の上部から光が照射された。その光に当たると着ていた服や下着が一瞬で消え、生まれたままの姿になる。
それと同時にガラスの下部が不透明となり、外から見えるのは肩から上の部分だけとなった。
カプセル容器が徐々に立ち上がり、そのまま壁面へと収納されていく。内部は薄青い液体で満たされ、いつの間にか顔にマスクがかぶせられている。
これはまさしくSFの世界だ!
壁面に後ろ半分を固定され、中の人間はフワフワと漂っているようにも見える。
定期的に光の筋が上から下へと流れていく。身体の調子を確認しているんだろうな。ますます近未来な光景になってきた。
うは、古代文明って元の世界よりも進んでいたんじゃなかろうか!?
オレがじっと見つめていると、カトーサンが話しかけてきた。
『心配ないっスよ。この中ニ居レば不調な部分はきっちり治シテ
くれルんスから。
ボスの魔法ヨりは緩やかでやスが、ソノ分身体に負担が
かかラないっス』
そんなに心配そうな顔してたんだろうか、オレ。
まあいいか。
(助かってくれよ、ここまで連れてきたんだからな)
その男は……フリント・ヴァッセル。タケル・マティスの魔法省に所属してる初歩の錬金術師で、マルタ・ストルス大陸から戻ってきた時、一番最初に向かった古代遺跡の所でニアミスした一群の中に居た奴だ。
自分の上司なのに何やら不信感を持っているのか、一歩引いた位置に居るのが珍しいな、と思っていたんだ。
古代遺跡の『魔導機械工場』で見かけたあの男、グラドール・ブリオンのような賛同者しかいないと思ってたからなぁ。
なんにせよ、回復するまでは話が進まない。
「こいつ、どのくらいでこの中から出られるかわかるか?」
『そっスね~……一日や二日デハ無理でやスな。心肺停止状態ハ
そう長い時間じゃナかったようでヤスが、その前ニ受ケた打撲で、
脳震盪ト脳内出血が見られるっス。
そノ治療に時間がかかりソウでやスね』
カプセルについた表示を見ながら説明してくれる内容にちょっと背筋が寒くなる。『空間転送』は便利だが、行った先がどういう状態なんだかわからないから、『バリア』みたいなものがないとおっかないよな。
あいつ、そんなことも考えずに送り出してきたんだろうか。しかも、未知の場所へたった独りきりで。
『……聞いてやスか、ボス?』
「あ、ああ、悪い。考え事していた。それで結論は?」
『出血ガ気になりやスが、順調にイけば1週間てとコろでっせ。
それ以上ハ延びないト思いやス』
怪しげな関西弁交じりの言葉に頷く。
「じゃあ、この男は任せるよカトーサン。オレがまた来るまではカプセルに入れておけるか?」
『分かりヤした。回復が早マったラ、睡眠状態にシておきまっせ。
大丈夫、逃がシゃしヤせんカラご心配なく!』
そう言って小さな拳で胸をたたく。おお、自信たっぷりだ。
『そレよりもボス、そノ装備って雪山対策ノじゃないスか。
こコじゃ暑いっスから着替えてくだサいよ』
そうだった。フードをとると中からオーリィがヘロヘロと頭の上に乗ってくる。
「キュ~~キュルルィ~(ふぃ~、死ぬかと思ったっちゃ~)」
嘘つけ。お前の種族の頑丈さは折り紙付きだぞ、聖獣の。
「キュイッ! キュキュ!(それでもっ! 暑かったんだっちゃ!)」
「はいはい、偉かったな。ほれ」
「キュ~!(んまいっちゃ~!)」
その文句をクッキー1枚で収めるお前もどうかと思うがね。
おっと忘れてた。
「カトーサン。ここの入り口なんだが、オレにしか使えないようにできないか?」
『簡単っスよ。使用者制限で行けまスッて……え、あの
おやっさんも、でスかい?』
「ああ、そうだ。というより、あの爺さんは特に、だ」
服を脱ぎながらだから少し声がくぐもってしまったが、しっかり聞こえたようだ。
「錬金術師なんてのは好奇心の塊なんだ。あの爺さん、目の色変えて入りびたるに違いない。そうなったら目も当てらない惨状になるのが分かり切ってる、だから『絶対』に! 入れるな。分かったな」
特に力を入れて最後に言い切った所為か、マリオネットがコクコク頷く。
『ワ、分かりやした。ここハ封鎖しときまスです』
何やらおかしな言葉遣いになっていたが、分かってくれて何よりだ。
では、もうひとつの案件に取り掛かるとするか。
今日は早めの投稿になりました。
かなり難航しまして……書き直しを4回もしたのは初めてです(苦笑)
誤字脱字がないか心配ですが、大丈夫だと思い…ます。
来ていただいた方には感謝、感謝。




