第155話
ユーディの破天荒な子分(?)たちが地下へ戻っていき、辺りはまた静まり返る。
「『『………………』』」
俺たちも言葉を発していないからな。本っ当~に静かだよここ。
『ん~~っ、これで万全、鉄壁の護りだよ~イシスぅ!』
褒めて褒めて、とばかりにユーディは石柱へ抱きつく。あ~、確かに?
『そう、ですね。よくやりましたユーディ。』
『うんうんっ! わらし頑張っちゃったもんね~♪』
いささか棒読みの感があるイシスの労いにも上機嫌のユーディ。
ピルピルと光の粒をあたり一面にまき散らして飛び回っている。それを見ていると、深刻に考えてきたことがまるで嘘のように霧散していった。
『ふむ、まあそうだな。こやつの言動はアレだが腕は確かだ。たとえ『空間転送』であってもここへは入り込むことはできぬだろう。』
『ええ、そうですね。ひとまずは安心ですわ。』
『門番』と聖獣が太鼓判を押しているなら大丈夫だろう。ガルマン帝国からここまでだと相当の距離がある。
魔力が多くないあいつのことだ、そうそう頻繁にこっちへ飛ばすだけの魔力を集めるのは難しいだろう。
でも、それならば。
「サテュール。以前の人族の男たちがきた日って……わかるか?」
『あの怪しげな黒服どもの事か? 吾輩には人族のような時間の感覚がないからの、よくわからぬな』
「そうか」
『あ、でもぅあの後すぐにここへ来て魔道具持って行ったよね?
確か……宿場町の補助機がひとつおかしいからってぇ』
おお、ユーディが凄いこと言ってきたぞ。やっぱ頭は良いんだこいつ。
『そういえばそうだったな。で、おぬしは日にちを知ってるのか?』
『まったまた~そんな事わらしにできるわけないってぇ~』
『…………それは胸張って言う事、なのか?』
サテュールの呆れかえった問いかけに大きく頷くオレ。
現在ずっこけ中でつぶれてるけどな。
『けどでもっ、ヤンちゃんマー君たちがメモしてくれてるもん!
すぐに見てくるぅっ!!』
メモ頼りかよ。ヤンちゃんマー君たち、名前はアレだが優秀だな。
地下へとすっ飛んでいったユーディが満面の笑みで戻ってくる。
『わかったぉ~! えとえと、16日前だってぇ書いてあるぅ』
『そうか。ではあの者共が来たのはその1日か2日前の事だ』
ということは、あの『西の森』でニアミスしそうになる半月ほど前になるのか。
『ケイン、その『空間転送』の使い手、なにゆえにもっと連発してこぬのか?』
「あ~、あいつは魔力が少ないんだ。だから他から魔力を譲渡してもらわないと発動できないんだよ」
『な、魔力の譲渡!? 何という外道な!!』
何やらサテュールが激怒している。あれ、そんなにマズい事なの?
『あれは譲渡する者の生命力も共に吸い取る方法ぞ! 一度に動く生命力は多くないが、回を重ねるほどにその量は増えて譲渡する側の寿命を縮めていく。最終的にはそのものの持つ寿命を半分にしてしまうだろう』
それはひどい。ここの世界の寿命って平均50~60歳だよな。その半分て、まだ働き盛りじゃないか。サテュールが外道というのも納得だ。
『しかもだ、譲渡するための魔力回復に時間を十分とらないと悲惨なことになるのだ』
「悲惨な事とは?」
聞きたくないな~。
『削られた寿命以上に衰弱してある日突然死亡する。それも枯れ果てた状態でだ』
うわぁ、想像していたより凄い最期だ。枯れ果てるって植物じゃないっての。
でも。あいつならやりそうだ。自分の欲望ありきでやってきているからな。
その延長で考えてみると。
「そろそろ飛ばしてきそうなんだよな」
『そ奴の周りには大勢の者がおるのか? あまりに短期間だと』
「そんなの関係なしにやってくるんだよ」
オレは初めて会ったときの…『空間転送』で宇宙空間に飛ばされかけた時に見た、あいつの眼を思い出した。
見かけは明るく、気さくな兄ちゃん風情を装っていたが、あの眼だけは誤魔化せない。暗く淀んだ汚水の様な敵意がコポコポと湧き出ていた。あれが表に出てきたなら要注意だ。
『でもぉ、今のここは弾いちゃうからだいじょぶだよねっ!』
ピルピルと飛んできたユーディが能天気な事をまき散らしている、が。
「こっちに来るのは本人じゃないからな~」
『ケインは優しいのう。そ奴に加担している時点で同罪だ。気にするほどのものではないと思うのだが』
『そうそう! 悪いことやるのは許さないんだからっ!』
首をかしげるサテュールにふんすふんすと鼻息の荒いユーディー。
割り切るしかないのかな、やっぱり。
そう考えている時。
ドンッ!
『ドーム』に衝撃が走った。
『何だ今のは!』
まなじりを上げて聖獣が吼える。
『何かが今『イシスの箱庭ドーム』に当たったんだよっ! 多分……
『空間転送』で飛んできた誰かが!』
『なんだとぉぉっ!』
ユーディーの声に反応して嘶くサテュール。苛正しく動く足が土を蹴りつけている。
言ってるはたから飛んできたってことか。何つータイミングなんだ。
ほっとくべきだとわかってる……でもオレの心が叫んでいるんだ!
「動け」と一言だけを!
『索敵』を展開してみれば……居た、すぐそばだ! それもひとりだけ?
『ケインどこへ行く!』
走り出したオレにサテュールが怒鳴るが、構うことなく『ドーム』を抜けて突っ走る。
『そいつ』は運のいいことに、オレがここへたどり着くために作った雪道へ弾かれたためにそのまま滑っていき……スピードが乗りすぎて、最後は雪の壁にめり込んでしまったようだ。上半身が完全に埋まっている。
「おい、大丈夫かっ!?」
慌てて雪の中から掘り出し、まずは呼吸を確かめる。マズい、口や鼻に雪が詰まっている!
指先に熱を集めて口や鼻の穴に詰まっている雪を溶かし、仰向けにする。心音は……ない!?
ここにAEDはないし、オレは医者じゃない。どうする!?
「ええい、考えてる暇なんかないぞ、やるしかないんだ!」
会社での研修でも習っている、救急蘇生の心臓マッサージを思い出せ!
心臓の真上に両手を重ね、体重をかけるようにしてリズムよく押す。そう、あの丸い顔をした正義の味方のテーマソングに合わせると良い、って教えてもらったっけ。
1、2、3、4。1、2、3、4。1、2、3、4。1、2、3、4。
汗がにじみ、ぽたぽたと滴るが、まだ心音が戻らない。やっぱり衝撃が必要か。
オレはマッサージを続けながら、その両手に軽い電気を纏おうかと考える。
「う~ん、と……『電撃』!」
あまり強くないように、心臓にショックを与えるくらいに抑えて……!
我ながら適当な名称だが、オレの『INT(知性)』さんは今回もいい仕事をしてくれた。
オレの両掌が青く発光し、わずかにしびれを感じた時。
ドクンッ
衝撃が走り、仰向けの体が跳ね上がった。
急いで首に手を当てると、よかった、脈拍が感じられる!
胸に耳を当てればトク、トクと遠い心音がためらいがちに聞こえた。
よし、まずは蘇生できた! 次は『回復』だが。さすがにこの雪道ではな。
『ヒール』を掛けつつオレは『ドーム』へと向かった。
だが、
「なぜ入れないんだ?」
ここへ来た時と同じように『ドーム』の結界はオレを拒む。『バリア』って張ったっけ?
「おおい、入れてくれよ!」
拳で叩きながら声を上げると、
『ごめんねぇ、そのヒトは入れてあげられないんだぁ』
『危険分子を見逃すことはできぬ相談だな』
『ケインだけなら入れるよぅ? そのヒト離せばいいだけじゃん』
『さっきの話ではそうするべきであろう?』
「どうして……って、そうか、あんた達にしてみれば敵対してるところから送り込まれてきてるもんな」
確かに理屈はそうだな。元々俺はここを封鎖するために来ているんだし、その理由も伝えているんだから当然っちゃ当然だ。
でもな。
オレは抱えている『そいつ』の顔を見る。見覚えのあるそれは真っ青な顔で息絶え絶えな状態だ。こんな状態で見放すなんて、オレにはできない。
ならばどうする、って考えるまでもないか。助けられるところまで連れていくだけだ。
オレはとある場所へ向けて『門』を発動する。そこへ念話が届いた。
『どこへ行くのだケイン。我らの所に戻らぬのか!』
「悪いなサテュール。ここに入れてもらえないならいくよ」
『何故そいつを助けるのか? 吾輩には理解できんが』
『そうだよぅ、戻ってきてよ』
聖獣の言葉にユーディの声が重なる。更に。
『ケインさま、わたくしの権限で入れるようにいたします。
ですからお戻りくださいませ』
でもなぁ……この場はいったん離れた方がいいような気がするんだよ。
だから笑って最後の言葉を。
「やっぱり一度戻るよ。大丈夫、また来るから。じゃあな、イシス、ユーディ、サテュール」
『待っ……!』
誰かの引き留める声を背に、オレは『門』へ踏み込んだ。
ケインの根っこはお人よしです。今回はどう転ぶんでしょうか…?
ここへ来ていただいた皆様に感謝申し上げます。




