第151話
未知の領域に特攻……え? ここは何処?
アナタはだれ?
「? なんで『バリア』があたるんだ? おまけに突き抜けない? 『門番』さんに当たったのかな?」
それはまずい、と少し横にそれてみるが。
「こっちもダメか」
更に横へずれても同じ。
「どうなってんだかな」
『バリア』の上から軽く叩くと。
「うおっ!? 腕だけ中に入ったぁっ!?」
慌てて引き戻すと、何の抵抗もなく抜けた。
「……なんじゃこりゃ……」
(キュルキュ~キュ?(それって魔法が反発してる。ん~と、ばりあだっちゃ?))
「『バリア』? あ、同じような魔法が弾きあってるって事か」
(キュルッ!(そうだっちゃ!))
「というんなら……こっちの『バリア』を消せばいいか」
オレは周囲を見回した。大丈夫、天井も壁も床も氷で固めてある。『バリア』を消しても雪に埋まることはない、はずだ。そうわかってはいるものの、感情が納得しない。
ええい、悩んでいても始まらんぞっ!
「……っ、えいっ」
気合い一発、『バリア』を消して正面突破!
「うおおぉぉっっ!……痛っ…………え?」
頭から突っ込んでいったら……見事にすっ転びましたよ、オレ。
オレの知らない結界で囲われたその先には。
「嘘、だろ…こんな、の……」
顔を上げたまま呆然と辺りを見回すオレ。
そこは…………優しい春が満ちていた。
雪のひとかけらも見当たらず、柔らかい地面は緑の草が生え。
小さなピンクの花があちこちに咲き乱れ。
その香りに誘われたか、黄色い蝶が花と戯れている。
ふぅわりとした風に乗って届くのは瑞々しい草木の息吹。
春の気配が濃厚に立ち込めるその中央にあったもの。
たぶん、『それ』が発したんだろう。
『だぁれ、あんたさんは?』
不思議な響きを持つ『声』で呼びかけられたんだ。
今オレは座り込んだままの姿勢で固まっている。
不意打ちによる頭真っ白状態。予想外の情報を山盛りてんこ盛りでドン! とばかりに浴びせられたため処理不能になった、て言えばいいのかな。
だって考えてみてくれ。
降りしきる雪の中でチンピラに絡まれながらもなんとか振り切り、可能な限りスノーシューターで移動してから『門』で近くへ飛んだのに、実際は分厚い積雪の中に入り込んじまった。
ならばと雪道を掘り進めても、あと少しの地点で弾かれてしまいアウト。
最後の手段で特攻したら、そこは春爛漫のホンワカ世界。
「何これナニコレ何が起こったあぁっ!?」と大声上げて錯乱出来たらどんなに楽だったか。
出来なかった理由?
それは、だな。
今、目の前に居る、『それ』の所為だ。
ピルピルピル、と音を立てて細かく震える4枚の羽根から零れ落ちる光の粒が大気に溶けていく。それに支えられている本体が、オレの目の前に浮かんでいた。
丸いおっきなグリーンの瞳が俺を視界に捉えてさらに大きく見開かれる。
おいおい、それ以上大きくなると転げ落ちないか?
そう声を掛けたくなるほど大きな……単眼。そう、一つ目なんだ。魔獣のゲイザーのような。
でもな……目の前の存在は全っ然違う。断言できる。
だって……
『あんたさん、ニンゲン? それにしてわぁ、魔力が多いよねぇ』
この、間延びした話し方と何より! その見た目が!
は・な。そう、花 なんだよっ!!
…………すまん、取り乱した。
改めて『彼女(?)』をしっかり見る。
真ん中にある球状の部分にさっきの目があり、その外側に沿って上部に3枚下部に2枚の薄紫色した花びららしき膜がついている。左右のあいたところには、透明で光に当たると虹色に輝く羽根が2枚ずつ4枚、ピルピルピルと光をこぼしながら動いている。
元の世界にあるダン〇ングフ〇ワーの花の部分だけに妖精の羽根がくっついた、そんな感じだ。
何とも形容しがたい相手だが、害意は感じられない。ただひたすら不思議がっている、てところか。
「あ~、ここは『魔石発掘鉱山』で合ってる、かな?」
やっと絞り出した声で尋ねてみる。
『ん~~、随分と昔の呼び方だねぇ。わらし嫌いだよ、それぇ』
「じ、じゃあ何て呼べばいい?」
『名前、決めてないんだぁ』
「えーと、じゃあ、『門番』さんはいるかな?」
『門番、さん? わらし知らないよぉ』
この口調。幼い子供に聞いているみたいだ。
「ここを管理している、ん~と、人工知…(あ、これじゃ伝わらん!)おねえさん、だ」
『おねえ、さんン?』
「……お兄さん、かも知れないな」
『どっちも居ないよぉ? あ、おばちゃんでいいなら』
「お、おばちゃん……」
困った。突っ込みどころは多いんだが、どう突っ込んで良いか見当がつかん。
言葉を探しかけたが、それよりも汗が出ていることに気が付いた。ここ、あったかいな。
ジッパーを下ろしてフードを脱ぐと、オーリィが頭の上に駆け上がった。
「キュルル~キュキュ~?(久しぶり~元気してただっちゃ~?)」
『お久~♪ わらしはいっつも元気ぃだよ~ん』
「キュル~。キュキュルルル(そっかぁ~。だからって山削ってちゃマズいだっちゃ)」
オーリィの言葉にうろたえる一つ目の花妖精(?)。
『な、何のことかなぁ? わらし知らないもん……』
「キュキュッ! キュイキュルル!(嘘はいけないっちゃ! 生態系が変わるっちゃよ!)」
『うくっ……わ、分かってたけどぉ、つい』
「キュ~! キュッキュルッ!(ついじゃない~っちゃ! しっかりしてほしいっちゃ!)」
『ううぅぅ……。ごめんなさぁい……』
オーリィが花妖精(?)を叱っている? さっぱり訳わからん。
「なあ、知り合い、なのか?」
「キュ~~(ま、そうだっちゃ~)」
『アーミンわぁ、わらしの友達だもんね~』
へぇ~、そうなんだ。って、なごんでる場合じゃなかった。
「えーっと、一応確認するとだな。『魔石発掘鉱山』がここの名前なら、入り口の石柱は何処にあるのかな?」
その問いを発した途端、花妖精(?)が震え出したのには驚いた。
『え、『門番』さんっておばちゃんのことなのっ!?
おばちゃんをどーすんの! わらし許さないんだからぁ!!』
「え、いや、あの?」
『嫌よいやぁ、おばちゃんを取らないでえぇぇっ!!』
そのドでかい眼からおっきな水滴がボトン、ボトンと下に落ちる。この表現は比喩でも何でもない、すぐ下にできた水たまりが証拠になる。……涙で水たまりなんて初めて見たぞ。
それにしても話を聞いてくれないのには参るなぁ。どうすりゃいいんだろ。
困り果てて首をひねっていたら。
「キュイキュイイィッ!(このあわてんぼにはお仕置きだっちゃ!)」
雄叫びとともにオーリィが花妖精(?)に飛び掛かり、花びらに嚙みついた。
ガブリッ! ガブガブ!
『ひええぇぇっっ! 痛い痛いいだぁぁいぃっ!!』
突如花びらの後ろからニュッ! とばかりに出てきた手が花びらを抑える。
すると今度は羽根に向かって鋭い蹴りだしを1発2発! それも両脇へ交互に! 何やら凄腕の拳闘士を思わせる足さばきだったな、うん。
これが見事に決まって羽根に大きな穴があき……結果。
『ああ~っ、わらしの羽根がぼろぼろ……ぷぎゃあぁっ』
花妖精(?)は落っこちた。それも、自分で作った水たまりの中へ顔面着陸。
その背面ではドヤ顔のオーリィがふんすふんすと鼻息荒く蹴っ飛ばしている。後ろで力なく揺れ動いている緑色のひも、あれって花妖精(?)の茎、かな?
「プ、ププッ」
思わず吹き出しかけ、慌てて口を抑える。相手の不幸を目の前で笑うのはさすがに失礼だろ。
……腹の中ではつい笑っちゃうけどな。
「キュキッ! キュイッキュルキュルッ!(何度言ったらわかるっちゃ! 自分の思い込みで突っ走るなっちゃ!)」
『うぶぶぶ……ごべんなざいいぃ~~』
手が花びらから離れて前の方へ動き、体を起こす。オーリィはオレの肩へと駆け上がりながらもまだ興奮冷めやらずのようだ。
花妖精(?)の顔面、と言ってもほぼ目玉だけなんだが、べったりと濡れている。後ろへ回った手が持ってきたのはタオルかな。両手でもって拭きふきしているところは…うん、可愛いとしておこう(笑)
「ん?」
見ていると、かきむしられて止まっていた羽根がゆっくりと動き出した。ピ、ル、ピル、ピル、ピルピルと徐々に速度が上がり、こぼれ出た光が穴の開いた部分に集まっていく。
「へえ、見事なもんだ」
「キュルキュ~。キュウル(頭は良いんだっちゃ~。他はペケだけど)」
他はペケ、って。どういう意味だ!?
そうこうするうちに花妖精(?)は完全復活して、オレの所にやってきた。
『ごめんねぇ、ニンゲンさん。おばちゃんを呼ぶ前にぃ確認していい?
アナタわぁ『魔石発掘鉱山』をどうしたいの、かなぁ?』
この口調、ちと苦手ではあるが、まあ何とかなるだろう。
「ここを使えなくしたいんだ」
来ていただき、ありがとうございます。




