第150話
チンピラをかわして、いよいよ古代遺跡へ!
「あんたたちはブラスが死んでもいいと思ってたんだろう! だから……!」
「な、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!」
「ちゃんと助かってるからそんなこともういいだろ」
「良くないっ! 最悪、魔法が発動しなかったかもしれないんだぞ!」
「そんなことあるかよ!」
「あるんだな、それが」
「なんだと……っ!」
ニーストの横に行って紙を広げる。さっきの契約書だ。魔法契約ではないけど、それっぽい言葉で書いてやったからな(笑)
「魔法の発動は契約の内容によって規定される。ゆえに、正確さを求められるんだ。安全に発動するためにも、な」
契約書の下の段を見せつける。
「ここにはニーストとブラスのほかに、シグラム、マルガスという名前が書いてある。なあ、コルトス、ヤッケン?」
「「ぐ……」」
さっき聞いたばかりの名前で呼んでやると言葉に詰まって反論できないようだ。
「本当ならここで発動ができなかった。ニーストの言うとおりにな」
これは大ウソ。内心では爆笑している。
「でもな」
ニタリ、と笑みを浮かべる。外から見たらオレの方がゼッタイ悪人と認定されそうだ。
「ここに血判を押しただろ。これで個人を特定できたから発動したんだ」
「そ、そうだったのか!」
「くそ、そんなことで」
随分と悔しそうだ。こいつら、最初からブラスを見捨ててオレを契約違反で攻め立てる気だったな。
「それでも一部は不正確だったから、お前らも巻き込まれたんだよ」
自業自得だと笑ってやった。
ニーストはブラスに引っ張られて後ろの方で何やらこそこそ話している。
「さて、コルトス、ヤッケン。契約違反でお前らを訴えるがいいよな?」
現物を目の前にしてるから言い訳もできまい。
案の定、ふたりの顔がさあっと蒼褪める。この世界での契約違反は魔法があるせいなのか、処罰の程度がきつい。軽くて罰金と強制労働、悪質だと判断されれば犯罪奴隷として鉱山への永久追放が待っている。婉曲な死刑判決と同じだ。
「ま、ま、待ってくれ! 俺たちが悪かったよ!」
「頼む、審査官へは持ち込まないでくれ!」
余裕も笑いもかなぐり捨て、必死になるふたりに呆れた表情を向ける。
「違反は違反だろ。法には従わんとな」
「そんなこと言わないで……っ!」
「謝る、謝るから、助けてくれぇっ!」
おや、何かトラウマでもあるのか?
半ば呆れてみていると、
「あいつら、前科があるからな……」
ぼそり、とブラスがつぶやいた。
「前科?」
「ああ。身分を隠して街を歩いていた審査官に絡んだ事があってな。その時にこってり絞られたんだよ」
あ、なるほど。囮捜査、て奴に引っ掛かったんだな。それでも懲りることがなかったから、今ココ⇒な状態になってるんだ。
「救いがたい奴らだな」
思わず零れた言葉にブラスが頷く。
「それには同意する。だが、こんな奴らでも今まで一緒に居たんだ。なんとか見逃してやってほしい」
「僕からも頼む。この後手を切るにしても、後始末はつけたいんだ」
ニーストも口を添える。そうかぁ? それほどの奴らには見えないぞ。現に今もうつむきながら口元を吊り上げてるしな。
ま、オレとしてもこれ以上引っ張るのは避けたい。魔法契約じゃないとバレるし、な。
少し考え、『ストレージ』から紙とペンを引っ張り出して文章を書き連ね、それをコルトスとヤッケンの前に差し出す。
「な、なんだこれ……?」
「『告白状』?」
そこには、ブラスを見捨てることで契約違反を言い立ててオレを抹殺しようとしたこと、そのために偽名でサインしたこと、魔法に巻き込まれたのは自業自得であって反省していること、を箇条書きにしてある。
「俺はお前らが信用できん。だが、こっちのふたりに免じて、これにサインしたら見逃してやる。さあどうする?」
「「サインする!」」
一発OKだった。そりゃそうか。
サインして血判を押したものを先の契約書と一緒に懐へしまい込む。
「じゃ、これでこの話はおしまいだ。オレがお前らに関わることはない。でも」
少しの『威圧』をこめて睨みつける。
「この先、オレに引っ掛かってきたら……その時は容赦しないからな?」
言葉もなくコクコクと頷き、一目散に走っていく。おお、良い逃げっぷりだ。
さて、あとはこのふたりだな。
「あんたたちも帰っていいぞ」
振り向いて伝えれば、
「……わかった」
「ブラスを助けてくれて本当にありがとう」
「あのふたりにも言ったが繰り返す。オレは敵対してくる相手には容赦しない。今のあんたたちに悪意はないようだから何もしないが、今度は手加減抜きだ。わかったか?」
「承知しているさ、それは。十分に反省している。二度とあんたに絡まない」
「あっちとは手を切る。地道に生きていく方法を考えるよ。それじゃ」
その言葉を最後にふたりとも戻っていった。やれやれ、これで終わったか。
「それにしてもあのジャイブスって奴、執念深かったんだな」
(キュルッキュキュ?(ホントに終わりだと思ってるっちゃ~?))
「いやに持って回った言い方だな、オーリィ」
(キュキュキュルルル(あーゆーのってしつこいんだっちゃ))
「そうだな。……え、まだ絡まれるの、オレ?」
(キュキュッ♪(可能性大、だっちゃ♪))
「嫌な予測立てるなよ。お前のそれ、無駄に当たるんだから」
(キュキュキュ!(無駄とはひどいっちゃ!))
オーリィと軽く言い合いをしながら進路を元に戻す。
『マップ』にあるのは青色のマーカーがふたつ、それも急速に範囲の外へ向かっている。最初の黄色マーカーはすでに反応がない。これならもう動いても大丈夫だな。
オレは踏み出した足に力を込めた。
「これ以上は難しそうだな」
オレは足を止めて見回す。雪原のど真ん中で何も目印が見当たらない。焦燥感にあおられて無駄に走り回り、体温と気力そして希望を奪われて、ついには行き倒れてそのまま凍死、の未来が簡単に描ける状態だ。
まぁ、コンパスとか方位磁石とかを持っていればそうはならないだろうが。
最初は足首までの雪が、ここに来ると膝近くまで降り積もっている。
スノーシューターの火の魔石も、ここまで積雪が深いと効きが悪くなってきた。
「ん~……ここからは一気に飛んだ方がいいかもな……」
『世界地図』を開いて確認してみる。目的地である『魔石発掘鉱山』までは半分も行っていない。今の状態ではたどり着けそうもないな。
(キュルキュキュ~?(注意した方がいいっちゃよ~?))
「何かいるかもしれないってか。『バリア』を張っていけばいいかな?」
オレは自分を囲む球形の『バリア』を張ってから『門』を起動した。
いつもの通り、目の前の空間に真っ黒けな渦が現れた。毎度のことながら、この渦に足を踏み入れるときには気合いが必要だ。悪い作用がある訳じゃないんだけどね。
「よし!」
一声かけて渦へと踏み込む。1歩目真っ黒、2歩目真っ暗、3歩目真っ暗。
「うん? なんだここ?」
後ろを見れば『門』は消えている。そしてそっちも真っ暗だ。仕方ないので『バリア』の上方と両側に『ライト』をつけてぐるりと見回す。
『ライト』の光を受けて周り中が真っ白に輝く。ゴーグルで調節していないと目をやられていたかもしれない。360度、上も下も真っ白。
ということは。
「雪の中、かぁ~。それは予定外だった」
(キュウルル~(予想すべきだったかもだっちゃ~))
「確かに」
ここまでの距離を考えるとあり得たな。なにせ、ゴラン山脈のふもとに近いんだから。
『世界地図』を見てもすぐそこにあるようだ。ならばやることはひとつ。
両手を『バリア』に接触させる。
「『熱湯(90度 範囲指定 前面一帯)』『誘導(融雪した水を側面の雪へ)』『冷凍(誘導した水を凍結)』……これで、どうだ!」
か~な~りいい加減な指定だが、それでもゲージMAXの『INT(知性)』さんはオレの思惑をくみ取ってくれた。
『バリア』の全面が紅く発熱し、ジュ~~と雪が解けていく。その融水はアメーバのごとく天井と両側の壁、そして足元へと流れて瞬時に凍り付き、坑道ならぬ雪道を造り上げていった。
(キュ~~キュイルル~(ふぇ~~相変わらず規格外だっちゃ~))
「ははっ、なんと言われようと使えるものは使うぞぉぉっ!」
(キュルキュルル~~(開き直っちゃっちゃ~~))
呆れたらしいオーリィのおかしな声が聞こえたが無視だ無視。とにかくこの雪の中から抜けないとな!
ゆっくりと雪道を造りながらじりじりと進んでいく。周りを凍らせて固めているとはいえ、どれだけの深さに居るのかわからないのが微妙に怖いし圧迫感が凄い。色がないって精神的に堪えるんだなぁ、と頭の片隅で納得する。
耐えきれなくなったら頭上の雪を一気に吹き飛ばして飛び出してやろうか、いやそれとも『熱湯(90度 範囲指定 前面一帯)』を『熱湯(90度 全方位)』に切り替えようか、それより『ストレージ』でごっそり切り取った方が効率がいいかな、などと現実逃避していた時。
ゴンッ
『バリア』が何かに突き当たり進めなくなった。
読んでいただき、ありがとうございます!




