第149話
ケイン、腹黒に転向する……?
「さて、それでどうするんだ?」
オレは男たちの方を、向いて問いかけるが、彼らはそれどころではない。ひとりは腰を抜かしかけているし、もうひとりは腰から下が凍りかけて顔色が真っ白になっているからだ。街へ戻るまでこいつの命が持つかどうか微妙だな。
「どうするんだ! ブラスが死んだらお前の所為だぞっ!」
「責任取ってくれるんだろうな、ええっ?!」
こいつらもわかったんだろう、顔色を変えてオレを睨んでくる。おいおい、逆恨みもいいところだろうが。
「お前らこそわかってるのか? オレを痛めつけてここヘ放置しようとしてたんだろうが」
「うっ!」
「っ!!……で、でもっ、お前がブラスをっ!!」
「そっちは4人、こっちはひとり。オレがこうなってたらお前らは助けるのか?」
「「「…………」」」
まさに正論! 言い返せるわけがない。
そんなやり取りをしていたら。
「さ、さ……む、い……っ……眠く、なっ……」
当のブラスの目がうつろになってきた。
「!? いかん! 寝るなブラス!」
「寝るんじゃない! 目をあけろ!」
「死ぬな! おい、おいってば!!」
3人が寄ってたかって揺さぶったり引っ叩いたりしているが……あ~、もう意識が混濁しかかってるなあいつ。
眺めているオレに魔力感知できる奴が這いずるようにして近づき、
「頼む! 助けてくれ! 何でもするから、だから!」
うおっ、雪の中で土下座しおったぞこいつ。
「ブラスとは孤児院から一緒だったんだ、今死なれたら僕は、僕は独りになっちまう!」
ふむ。どうやらこいつはそれほど悪い奴ではなさそうだ。あっちのふたりはそこそこ染まっているようだけどな。
知った事かと放り出してもいいんだが後味は悪い。よし、ならば。
オレは紙とペンを取り出してすらすらと書き付け、土下座している男の前に垂らす。
「? 何、を……?」
「書いてあることに同意するなら、その下にサインと血判を押せ。そうしたら何とかしてやる」
がばりっ、と起き上がって忙しく目を走らせる。そこには、自分たちのしたこと言ったことが書き連ねてあり、二度とオレに関わらないと誓う内容となっている。
「わかった! サインする!」
「あんただけじゃないぜ。後ろの3人もだ。ほれ、早くしないと危ないぞ」
促すまでもなく、ダッシュで男は後のふたりに近づき頭を下げている。あれ、あいつ抜けかけた腰が戻ってるぞ? 仲間を助ける手段を目にしてしゃっきりしたのかもしれないな。
ふたりとも苦い顔をしているが、渋々サインと血判を押している。
「これでいいだろ!? 早くブラスを助けてくれ!」
男が紙をオレに渡してせっつく。一応サインを確かめると。
(キュ~キュルッキュ(これは~ホントの名前じゃないだっちゃ))
まぁ、本名を書くとは思わなかったけど、オーリィ、お前になぜわかる。
(キュルルキュキュ(アチシの特技だっちゃ))
便利な「特技」だな。本当か? とと、その話は置いといて。
オレは紙を懐へ入れる、と見せかけて『ストレージ』へしまい込んでからブラスの元に近づいた。
「おい、もう契約したから助けろよな」
ふたりがニヤニヤしながら煽ってくる。
「助からなかったら契約違反で訴えてやるからな、覚えとけよ」
こいつら、偽名でサインしたくせに言ってることは偉そうだ。もう助からないと思ってるんだろうな。
頭にきた。こいつらまとめて魔法に巻き込んでやる。
「まずは『バインド』(ぼそっ)。『バリア』(場所固定)『熱湯』(50度設定)その後『熱風』(70度設定)最後に『乾燥』(ぼそぼそっ)」
お前らもそこで味わうといいよ。
パリッ
かすかな音とともに『バリア』がブラスと立っているふたりを包むように現れる。
「おっ、なんだなんだ」
「この野郎、何しやがる」
ふつうは音が立たないんだよオレの『バリア』は。わざとわかるようにしてやったのは正解だね。
知らん顔をしていると次に上からシャワーのように『熱湯』が降り注ぎ、寝転がっているブラスの腰から下を『熱湯』が包み込む。
本来なら人肌にした湯の中でゆっくりと血流を取り戻せるようにマッサージしていくらしいんだが、そんな気使いなんていらないだろ。なにしろオレ、狙われてたんだから(笑)
「ア、アチッ、熱いだろがぁっ!」
「熱いっ、こら、俺たちは関係ない、アチチッ! なんでお湯を、アチチチチッ!」
ふたりが騒ぐのを腰が治った奴……名前はニーストか……が唖然として見ている。
上からの『熱湯』を浴びたふたりが逃げようとしているが、そうは問屋が卸さない。『バリア』もあるが、何より足首から下を『バインド』で固定しているからな。はっは、十分に浴びていくがいい!
その次には『熱風』を『バリア』の中で回転させる。相当熱いだろうが短時間だ、我慢しろ。おお、悲鳴になってるな。いい気味だ。
最後に『乾燥』をきかせて終わり。
足元まで『バリア』を伸ばして包んでやったから下の雪は溶けてないぞ。溶かしちゃうとブラスの二の舞三の舞になっちゃうからなっ。
「あ、……お、俺は一体、どう、したんだ……?」
ブラスが座り込んで呆けている。どうやら正気に戻ったな。
「ブ、ブラスッ! 良かったっ、気が付いたんだな!」
ニーストが涙声で抱きついた。今までの事を伝えている。
反対に隣のふたりが顔を真っ赤にしてオレに迫ってくる。
「おいっ、なんで俺たちまで巻き込んだんだ!」
「熱かったじゃないか! 俺たちに怪我させる気か!」
「そうか? けど実際のところ怪我ひとつないだろ?」
吼えたくっているのをさらりとかわす。
「何屁理屈言ってんだ!」
「それにおかしいよなぁ。オレは契約通りに発動したんだが」
如何にも不思議そうに首をひねってみせる。
「なにがおかしいって……!?」
「俺はブラスを助けることで契約した。あんたらもそれに同意してサインと血判し、それに基づいて魔法が発動したんだよ? なら、本来はブラスひとりにかかるはず。そうだよな?」
内容を復唱した後、ニーストに話を振って確認してみる。魔力感知ができるくらい精通しているなら、この意味が分かるだろう。
「あ、ああ。そうだよ。契約内容も間違ってないし、サインも……! え、じゃ、あんたたちサインをごまかしたのかっ!」
「な、何のことだよ」
「契約通りじゃないってことだ!」
ニーストの怒鳴り声にふたりともたじたじだ。
「あの契約はブラスに対して行われるんだ、それがあんたたちにまで引っ掛かってるのは、契約に誤りがあるってことなんだよっ!」
はい、本来の魔法契約なら大正解。やはりニーストは気づいたな。
でも今回は魔法契約じゃない。そう見えるようにオレが匂わせただけだ。思い込んだそいつらが悪い!
(キュ~~……キュルルル~……(真っ黒だっちゃ~~……腹黒に磨きがかかってるっちゃよ~……))
耳元でオーリィが呆れかえっている。
けどな、それくらいやり返したっておかしくないだろ?
ニーストがふたりを非難する様を見ていると、
「あの、少しいいだろうか」
横を見たら、ブラスがしょぼくれて立っていた。
「あんたが俺を助けてくれた、ってニーストに聞いた。ここであんなふうに氷水に浸かったなら、確かに助かるはずもない。あんたに仕掛けようとしていた俺を助けるなんて……済まなかった」
「助かったんならそれでいい。あと、こいつにサインと血判を頼む」
「わかった。……これでいいか?」
受け取って確認するオレに、
「あんた、お人よしだな。自分を狙ってくる奴を助けるなんて」
「あいつにすごい勢いで迫られたんでな。まぁ、命が繋がってよかったよ」
これは本音だ。どんな奴でも生きてるんだ、勝手にその命を終わらせるなんて烏滸がましいとオレは思ってる。
もちろん、オレを殺そうとしてくる相手には容赦しない。悪意だけの奴に情けなんざ無駄だしな。
今回、ニーストとブラスにそこまでの悪意は感じていない。逆に残りのふたりからピリピリするような敵意を向けられている。熱湯を浴びた今はもっと顕著だ。
その差はおそらく、ジャイブスとの距離が関係しているんだろう。ということは。
「今日はコルトスとヤッケンから誘われたんだが……目が覚めた。あいつらとはもう付き合わないようにする」
ふむ、話しの流れからすると、それはあいつらを指すのか?
「あんたが俺みたいな相手にも手を貸してくれると知った今、ジャイブスさんに関わり続けると碌なことにならないだろう。ニーストにもそう言っておく」
「それは助かるな」
敵視する相手が減るならうれしい。
「ニーストは俺に引っ張られてこの場に来たんだ。俺はどう思われてもいいがニーストは真面目な奴だから嫌わないでやってほしい」
「確かに嘘はうまくないみたいだな」
そう受けて、自然にニーストの方を見やる。ブラスも視線を向けるが、
「あれ?」
「む?」
そこには何やら険悪な雰囲気となっている3人が居た。
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