第148話
またしてもトラブルに巻き込まれています、が。
ケインが腹黒になってます。
あくる日、オレは宿場町の出口へと向かった。そこには公都方面だけでなく近くの町へ向かう馬ソリが何台も居てごった返している。
その横をすり抜けてオレは出口に居る門番に冒険者カードを差し出した。
「兄ちゃん、一人で出るのかい、お仲間はどうしたんだ」
カードを確認しながら門番のおっちゃんが聞いてきた。
「オレは元々ソロで活動してるからね」
「そりゃ剛毅だな。だがここの魔獣は手ごわいぞ。しっかり準備はしているんだろうな?」
「当然。それに危ないと見たらさっさと逃げ出すさ。命あっての物種だからな」
「そりゃいい心がけだ。ここの門は暗くなる前に閉める決まりとなっている。気を付けてくれ」
「ああ、ありがとう」
返してもらったカードをしまいながらオレは門を離れた。魔道具の結界のおかげで、門の周りには雪が見当たらない。同時にあと数歩踏み出せばそこには積もったばかりの新雪があるのだが。
オレは道具屋で買ったものを取り出し、足に着ける。
一番最初に勧められたかんじきもどき、こちらではスノーシューターというらしい。元の世界のかんじきよりもスマートに出来ていて、前の方には火の魔石が等感覚で並んでつけられている。これが雪を溶かし、滑りを補助するようだ。
おまけにその間には蹴り爪もある。雪の下にある氷をしっかりとつかみ踏み込む力を持たせてくれると同時に、魔獣に出会った時の補助武器としても役に立つ、と店主は言っていた。ちょっと凶悪な曲がり方をしているのはそういう意味でもあるんだろう。
そんな準備をしている横を公都行きの馬ソリが滑り出していく。コンラッドの顔があったように見えたが、まあ関係ないな。
あ、オーリィはオレの首に尻尾を巻き付けて肩に収まっている。
防寒用の帽子とコート、両方着こむと自動的にくっつくようになっていたらしく、フード付きコートになって万全の防寒度を上げてきているんだ。少し首元をあけておけば呼吸もできるし外も見ることができるとあってご機嫌だ。オレはちと寒いけどなっ。
帽子のひもを締め、ゴーグルとマスクをきちんと装着し、くつろげていたコートの合わせをしっかりと(但し少し緩めた状態で)締めなおす。スノーシューターのチェックを行い、いざ、雪原へ!
魔道具の範囲から外れた途端、雪が降りかかる。今の時期にしては比較的緩やかな積雪なんだそうだ。
「足首が埋まるって……それで穏やかだってぇ!?」
立ち止まって悪態をついてみるが、
「キュルキュルルル~(ゴネても変わらないだっちゃ~)」
の一言で諦めがついた。そうだよな、理不尽なんてどこに行ってもあるもんなぁ。
肩をすくめて気持ちを切り替える。そう、これから「魔石発掘鉱山」まで行く予定だ。
ゴラン山脈の北側に造られたもので、次にガルマン帝国がターゲットにしてくる可能性が高い鉱山を封鎖する予定だ。今まで見てきたことから考えても、魔石鉱山を明け渡すのはよろしくない気がする。あそこは上も下も危ない方向へ舵を切りかけているようだから、用心するに越したことはない。
改めて進行方向へと足を踏み出す。しばらくは公都への道をたどりつつ、途中で横へとそれるつもりだったが。
……黄色いマーカーがいくつか『索敵』に引っ掛かってきた。もう少し様子を見て、間違いなくオレ目当てだとわかったなら対処しないとな。そんなのを引き連れていく場所じゃないんだよ、あそこ。
スケートで走るようなそんな音が足元から連続して聞こえてくる。ランニング並みの速さで快調に進んでいるんだが、後ろのマーカーがどうにも苛立たしい。一度『ウインド』で速度を上げてみたんだが、かなり遅れたもののしっかりとオレの後についてくる。
「何かオレにくっつけているのか、トレーサーみたいなものを?」
思わず独り言でぼやいたら、
「キュッキュキュルル!(そんなものはついてないっちゃよ!)」
耳元でオーリィが反論してくる。おい、あんまり大きな声出すなよ、耳鳴りがするだろ!?
「ん~……じゃあ、何かのスキルで追いかけてるのかもしれないな」
(キュルキュ~(そっかもだっちゃ~))
なら、なおさら途中で決着をつけとかないとな。
オレは辺りを見回すが、どこも一面銀世界。表面上は何も変わらない、が。
「よし、こっちへ移動するか」
今まで進んでいた方向をちょっと修正して左へ数十メートル進み、そこで立ち止まる。
「おい、いい加減に出てこい」
振り向いて声をかけると、後ろから3人湧いて出てきた。
「な、なんでわかったんだよ、お前!」
オレから見て一番右に居た男が震える声で問いかける。どうやら認識阻害が効かないのに驚いているようだ。
「バレバレだぞ、その魔法。もっと精度を上げないと役には立たんな」
「そんなはずはない! これは僕が造った最高のものなんだっ!」
あららら、魔法じゃなくって魔道具でしたか、それはそれは。
「じゃあ、こう言おう。『もういっぺん基礎からやり直してこい』ってな」
「なっ!……」
オレの揶揄にそいつは固まってしまった。
でも他のふたりはニヤニヤしている。その理由がオレの後ろに回ろうとしている黄色、いや、オレンジに変わりかけているマーカーだろう。
でもそれは悪手だ。教える気はないけどな。もうちょっと勘違いさせとこう。
「一応訊いておく。オレになんの用だ?」
余裕ありげなふたりに顔を向けると、
「頼まれたんだよ、お前をボコれ、とな」
「そうそう。あのジャイブスさんを困らせたお前が悪いんだよ」
「ジャイブス?」
誰だそれは。オレはうーんと手を組んで考える。思い当たるやつ……あ、あいつか。
「あれか、オーマイン商会の若いの」
オレの答えにぎょっとするふたり。
「なんてこと言うんだお前は!」
「オーマイン商会みたいな大手に関係ねぇよ!」
え、違った? じゃ誰なんだ?
(キュル、キュキュ(あれだっちゃ、隣の席の奴))
オーリィが囁く。ああ、あっちの方か。
「荷物で腹を打ってたあいつかぁ!」
思わずポン、と手を打ってしまったのが癇に障ったか、ふたりの殺気が膨れ上がる。
「お前っ、お前が手を貸していたらそんなことにはならなかっただろうが!」
「そうか? その前にまずベルトを締めていなかったあいつが悪いと思うぞ」
「それでも! お前が荷物を引き受けてたらジャイブスさんが痛い目を見なくても済んだはずだっ!」
「あの馬ソリに乗る前、荷物が多すぎると注意されていたはずだ。じゃあ、毎回誰かにその荷物を押し付けていたって事か? それは迷惑だろうが」
「そんなの関係あるかっ!」
どうも言ってることがいちゃもんに近い。こいつら、オレを叩きのめしたいだけなのか。
と、そろそろ頃合いだな。
「『ストレージ』(ぼそっ)」
「!? う、うわっ、わああっ!」
「「! なんだとっ!?」」
「ブ、ブラスっ!!」
へえ、そいつはブラスって名前なんだ、ふ~ん(笑)
後ろから上がった悲鳴に余裕かましていたふたりは愕然とするし、固まってた男は真っ青になっている。あ、こいつ、魔力が感知できる奴だ。オレの魔力にビビったのか、腰が引けている。
「お、お前、なな、何やったんだ! ブラスを消しちまったのか!!」
「『消す』とは穏やかじゃないな。ブラスさん? ならそこにいるよ」
怒鳴ってきた男に向けて、オレは後ろを指さした。事実、悲鳴とも泣き声ともつかない吼え声が駄々洩れだ。
「た、た、助けてくれぇっ! 冷たいっ、氷がっ、凍えちまう、ひえぇぇっ!!」
「早く引き上げてやらんとホントに死ぬぞ、あいつ」
何のことはない、そいつの足元の雪をごっそり片付けてやっただけだ。
問題は、そいつのいたところが小さな池、イヤ沼だったことかな。
「どうだ、お前らもそうしてやろうか?」
オレの言葉に顔を青くして走り寄る3人。
「寒いいぃぃっっ、は、早く、あげて、て、くれえぇっっ!!」
「おいっ、手を出せ! 引っ張るぞ!」
「ブラス、こっちだ!」
「引くぞ、それっ!」
引き上げられた男の顔色は見るも哀れなほどに真っ青だ。がちがち鳴らす歯の音がこっちまで聞こえてくる。そりゃそうだ、腰から下がずぶ濡れなんだから。上に出した分、濡れているところが今度は凍り始めてくる。順調だな、うん。
(キュルルル~……(腹黒が前面に出てるだっちゃ~……))
耳元でオーリィが呆れているが、これは正当防衛。悪意を向けてくる奴に手加減なんて必要ないだろ!
読んでいただき、ありがとうございます。




