第147話
何やらきな臭い話がでてきました。
「あんたが、いや、この国がバイコーン様に捧げる忠誠心はよっく分かった。で、だ。スノーキャンターとはどう繋がるんだ?」
壮大な昔語りを聞かされた後に、なんてお間抜けな質問かと自分でも思う。思うが……
「スノーキャンターについて助言できるようなことは何もない。ましてや、バイコーン…さま?の事なんて、一介の冒険者の手に負えることじゃないぞ。わかってんのか?」
論点がズレまくって何が何だか分からなくなってるぞ、おい。
自分の国を自慢するのも尊敬するのもいいが、無関係な人間を巻き込まんでくれ。オレはここになんの思い入れもないんだからな?
はあ、ご飯の誘いを受けるんじゃなかったよ。
呆れてため息をついていると、ようやく元に戻ったコンラッドが申し訳なさそうに謝ってきた。
「す、すみません。バイコーン様の事になると止まらなくなるので……上司からも『自重しろ』と言われているんですが」
やっぱりね。もう認知済みだったのか。野放しにするなよな。
「いいか、オレは『図らずも』アーミンと一緒に旅をしているがテイムしているわけじゃない。声が聞こえるのも『偶然』だし、スノーキャンターの好物を知っていたのも本当に『たまたま』なんだ。これ以上オレにできることなんてないんだぞ。なのに何を期待してるんだあんたは?」
腹立ちまぎれに睨むと『威圧』がくっついたようで、コンラッドの顔に現れた怯えに慌てて引っ込める。
気分を落ち着けるためにほほを軽く叩き、大きく息をつく。
「オレが言えるのはあとひとつだ。毎年のお見合い?だっけか、その時の候補者に角砂糖を持たせるってことだな。相手が決まったならそのスノーキャンターに食べさせれば、連れて帰るのも楽になるんじゃないかな」
「な、なるほど、それはいい考えですね! じゃ、最初から見せれば成立する数が増えるかも!」
「それは無理だと思うぞ」
舞い上がったような表情を見せたコンラッドにくぎを刺す。
「ど、どうしてですか! 好物なら……」
「好物よりも相性が優先らしいからな。下手すると蹴っ飛ばされて角砂糖だけ持ってかれる羽目になると思うがな。じゃ失礼するよ」
一転して項垂れたコンラッドを残して、オレは部屋を出た。
出る直前に声が聞こえる。
「そうですね……甘く考えてました……」
そうそう、もうちっと考えてくれよな。
それにしても、あの気分の高低差がひどすぎる。上司も大変だろうな。
そのまま店を出て宿へ戻る。部屋に入ってテーブルにもらった料理を置くと、
「キュキュキュ~~!!(飯だ~~っ! ちゃ!!)」
オーリィが飛び出してきて手前の皿にかじりつく……前に、首根っこをひっつかんでぶら下げた。
「キュルッ!? キュキュキュ~ッ!(何するっちゃ!? メシ食わせろっちゃよ~っ!)」
「その前に聞いておきたいことがあってな」
オレは自分の顔の前にオーリィをぶら下げる。
「お前あのスノーキャンターに何をした?」
「キュ……キュルキュル~?(な何って……何のことかな~ちゃ?)」
視線を合わせないように上を向き、手足をわちゃわちゃさせて逃げようとしてるがそうは問屋が卸さない!
影ができないような角度で吊り上げ、おまけに『バインド』でつまんだ首筋を固定してある。
どーだ、参ったか!
「今までオレは動物に懐かれたことがない。元の世界ではな。なのに、気難しいと定評のあるスノーキャンターがああなるのは、お前がなんか吹き込んだとしか思えないんだよ」
こっちに来てからはやたらといろんな種族に会ってるから何とも言えないが、それでもあの異常なほどの懐き具合はなんなんだ。チャグルやコンラッドより、オレの方がびっくりだぞ?
「キュキキゥイ~……キュ(大したこと言ってないっちゃ~……ただ)」
「ただ、なんだ?」
「キュルッキュキュ。キュン(異世界からのヒト族だとは教えたっちゃ。ごめんだっちゃ)」
「そう伝えたのか? いやまぁそれはいいけどさ。で、なんだあの歓迎は」
「キュルキュルキキゥイ~~(これ以上はちょっと言えないっちゃ~~)」
「ふぅむ……決まり事か。あっちの大陸でお前が姿を出さなかったことにも関連するのか?」
「……キュウキュ……(……そう、だっちゃ……)」
「なるほどね」
少し考え、オレは『バインド』を解除して、オーリィをテーブルの上に落とした。そのままご飯に飛びつくかと思ったら。
「キュルキュ?……(怒ったっちゃ?……)」
何やら心細げにオレを見上げてくる。珍しい顔だな、お前。
「決まり事なら仕方ないだろ。何かやらかしたとは思ったが、オレが介入できることではなさそうだ。お前に腹を立てるつもりはないよ。でも」
怒りを向ける相手は多分、創世神。その一択に尽きるな。
「もし、話せる時期がきたら教えてほしい。約束だ」
「キュルッ!(わかったっちゃ!)」
コクリ、と頷き、元気にご飯へと飛び掛かりかけ、たが。
「ああ、あとひとつ。また汚したら今度は容赦なく水洗いするからな? お行儀よく食べろよ」
「キ、キュルル~(わ、わかったっちゃ~)」
ややがっくりしながら料理に向き直るオーリィを横目に見て、オレはベッドにひっくり返った。
いつもより格段に大人しく食べているらしいオーリィ。その音をBGMにしてオレは天井を見上げる。美味い飯だったがその後に聞かされた話のとめどなさに胃もたれを起こしそうだ。
建国秘話は物語としては面白かったが、バイコーンへの賛美が凄すぎて本筋が見えなくなった。話しが散らかって正確な年数まであいまいだ。
(一度資料館でも行って確認した方がいいかな)
そこまでやるべきかどうか迷うんだが、オレは気になっていることがある。
温暖な気候をもたらした大地の気。
それを根こそぎ奪っていった黒ずくめの一団が残した言葉。
『ここに湧き出でる大地の気……我が一族の悲願………』
思い返してみてもなかなか物騒だ。自分たちを除く他の者たちなど塵芥にしか見ていない、傲慢そのものの立ち位置に身を置いている物言いに身の毛がよだつような嫌悪を覚える……
いや待て。これ、まさか古代王朝とつながってはいないだろうな……?
心臓が乱れたビートのタップを打ち出し、どっと冷汗が噴き出した。
あまりの衝撃に飛び起き、胸を抑えるが動悸が静まらない。
「キュルッ?(どうしたっちゃ?)」
気が付くとオーリィが肩先につかまって顔をのぞき込んでいる。
「い、いや、ちょっと変なこと考えちまってな」
我ながらなんて事想像してるんだと頭を叩きたい思いだ。
「キュルキュルル~?(考えすぎは良くないっちゃよ~?)」
オーリィの小さな手がオレの頬をなでる。
落ち着けオレ、早合点するんじゃない。なんの確証もないんだからあわてるな。
胸の内でそう繰り返すが、一度持ってしまった疑惑は簡単に晴れそうもない。
仕方ない、魔石鉱山の『門番』と話をつけたら公都へ行ってみよう。
そこなら結論が出る、と思う。
「もう大丈夫だオーリィ。心配かけたな」
「キュルッ!(わかったっちゃ!)」
そう答えて食事に戻るオーリィを目で追いつつ、オレは自分に気合いを入れなおす。
こんなことで凹んでなんかやらないぞ。足掻いて足掻いてその先へ進むだけだ。
オーリィを宿屋『樽と槌』亭に残し、道具屋へ向かう。宿場町は魔道具のおかげで快適に動けるが、ここから外に出れば雪原だ。どんな移動手段があるのか確認しとかないとな。
通り沿いで目についた1軒に入ると、店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい。なにが必要かな?」
「初めてこの国に来たんだが、決まったルート以外を動くための道具が欲しい。なにがある?」
「あんた、冒険者かい? それなら身軽に動ける方がいいな。まずはこれだ」
そう言って出してきたのが。
「足底につけて使うものだ。少し大股になるが結構使い勝手はいいぞ」
やっぱりこれ、かんじきだな。スノートレッキングには最適だろう。
「次にお勧めなのはこいつだ」
スノーボードにハンドルが着いたキックボードもどきかな?
「ハンドル無しのもあるが、バランスをとるのが難しいから初心者には無理だ」
スノーボードもあるのか。
「これらはみんな前の方に火の魔石が組み込まれていて、それで雪を溶かして滑りをよくしてくれる。ハンドル付きの奴は駆動部に魔石を入れてあるから簡単な操作で移動できる。だがその分魔石の購入が必要だし、魔獣やらと戦う時には邪魔になるから、冒険者にはあまり好まれんな」
成程ね。移動手段としては優れものだけど、アクシデントが起きたら弱点になるってわけだ。
「さあ、どれがいい?」
いろいろと話がとっ散らかっていますが。
コレ、回収できるかしらん・・・?
が、頑張らねば!!
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