第145話
新天地でも絡まれるケイン!?
「それにしても物知りですねケインさんは」
「ケインでいい。たまたま知ってたんだ」
御者さん……チャグル、って言ってたな……と別れて宿場町の中を歩いている。なぜかコンラッドと一緒にだ。
おかしい。オレは誘った覚えなどないんだが。
それともオレに何か用事でもあるのか、こいつは。よくわからん。
ひそかに悩んでいると、
「ケイン、何もなければ私と公都まで行きませんか。ここからは30分くらいで着くんです。小さな屋敷ですが歓迎しますよ」
屋敷ときたか。やっぱこいつ貴族だわ。どうして一人なのかわからんが。
「遠慮する。やらなきゃならん用事があるんでな、今日はここに泊まると決めてるんだ」
「そうですか。では夕食を一緒にいかがです? お勧めの店があるんですよ。個室ですから気にする人目もありませんし」
そこで一息つき、
「さっきのスノーキャンターについてもお話しておきたいことがありますから」
やけにしつこく誘ってくる。話がある? ほう、それはまた重要機密の匂いがするんだが。
「オレに教えていい情報か、それは?」
「是非覚えておいてほしいですね」
いい笑顔を見てオレは確信した。こいつもオレの事知ってやがるな、と。
「はあ、分かった。じゃ、まずは宿をとってくるからどこかで待ち合わせようか」
「なら待ち合わせはあの広場にある噴水の所にしましょう。それと、宿は『樽と槌』亭がベストですね。冒険者でも問題ないので、なじみやすいと思いますよ」
おおう、これは至れり尽くせりで。
「情報ありがとう。行ってみる」
「いえいえ。ではまた」
にこやかに手を振って別れたけれど……何を言いたいんだか。
それに胡散臭いのはお互い様だよな。悪意はなさそうだし。
そう割り切って付き合うか、な。
頭を振ってそれまでの考えを断ち切り、オレは教えられた方向に向かって歩き出した。
「まずは出会いに感謝して乾杯しませんか」
連れていかれた店は『ファイランティ』となっていた。えらく高級そうだと内心怖気づいたが、出てくるものはそれほど格式ばったモノではないのでちょっと安心した。
言われるがまま乾杯して料理に手を付ける。うん、なかなか美味いな。寒い場所だけあってかなり味が濃い目だけれど、かけるソースで濃さを調整できるようになっているところもあり、外から来た者にも優しいメニューとなっていた。
これ、オーリィにも食わせたいな。そう考えていると、
「ああ、夜食用に同じものを用意させていますから、帰りにお持ち帰りくださいね」
こちらの思いを読んだかのようなタイミングで伝えてくる。
「……そうか、感謝する」
うわぁ、オーリィの事もバレているのかよ。どんだけオレの情報仕入れていることやら。
美味いものを食べているのに、妙に背筋が寒いんだがな、おい?
あらかた料理も食べ終えて食後の飲み物とデザートを運んでくると、それまで入り口近くに控えていた従業員が一礼して出ていく。ドアが閉まると同時に発動したのは『防音』と『結界』魔法。
つまり、中から客が出てくるまでここは外部からの干渉を一切受け付けなくなったわけだ。
「おや、お気づきになりましたか」
オレがあたりを見回したのに気づいたようだ。す、鋭い。
「これほどにしないといけないのか?」
「ちょっと大げさなのは確かですが、何事も念を入れませんと」
成程ね、普段からそれだけの注意を払う必要のある身分、てことだな。オレが思うより大物だったわけだ。
「これでやっと本題に入れますね」
コンラッドの笑顔に気を引き締める。やれやれ、何を聞かされるやら。
「スノーキャンターの件について、なんですが……その前にひとつお尋ねします。ケインは動物や魔獣をテイムできるスキルを持っていますか?」
おいおい、いきなり何を訊いてくるんだ?
「冒険者が自分のスキルを公開するとでも?」
そう返すと目を瞬き、
「そうでした、冒険者でしたね……質問を変えます。スノーキャンターがケインに懐いたのは偶然ですか、必然ですか?」
お、今度は二択の質問か。どうしても答えさせようってんだな。
「それってスキルを聞いたのと変わらないよなぁ。答えとしてはあくまで偶然、としておこうか」
「ほう、偶然ですか。……アーミンと共にいることも偶然なんですか?」
やっぱわかってて聞いてるな、こいつ。
「偶然だな。そもそもオレはなぜこいつが一緒に居るのか知らないんだ」
「共にいる理由を知らない!?」
「明日にもこいつの気まぐれでいなくなるかもしれない。オレはそれでもいいと思ってるよ」
オレの返答にコンラッドの顔が驚きに染まる。
「あなたはそうなっても受け入れる、と?」
「当然だろ。オレもこいつも自分の好きに生きてるんだ。妨げるつもりも引き留める気も……痛てっ」
いつかのように耳を齧られた!
「キュイッ! キュイイィッ!(また馬鹿なことをっ! 離れないって言ってるだっちゃ!)」
「痛い痛い痛いってば! わ、分かったからやめろよ!」
耳を押さえるオレと威嚇するオーリィ。ていうか、お前いつの間に移動したぁ?
そして目の前には呆然としたコンラッド。
「ほ、本当にいたんですね、アーミンが」
あれ、こいつオレにカマかけてたのか? ま、いいや。どうせわかることだしな。
「怒るなよオーリィ。ほれ、これ美味いぞ」
飲み物についてきたクッキーを差し出すと、不承不承にしながらも受け取って食べる様子に、コンラッドも癒されたようだ。
「随分と懐いてますが、それでもテイムしていないんですか?」
「オレとこいつは旅の仲間、自由意思で一緒に居る親友、かな。テイムだ従属だなんて関係ないんだ」
オーリィを親友というのはちと気恥ずかしかったが、言い切った。
「キュルキュル~♪(えへへ、そっかな~♪)」
クッキーを齧りながらオーリィはうれしそうだ。
「そう、ですか……ならば余計に覚えておいてもらわねばなりませんね」
オーリィからオレへと視線を動かし、コンラッドは口火を切った。
「現在、我が国に居るスノーキャンターは全部で8頭。
29年前に1頭、25年前に2頭、19年前に1頭、15年前に1頭、12年前に1頭……そして5年前に2頭。1頭の所は公都と街や村を結ぶ交易用に、2頭所有はこうして峠との往復の仕事に就いてもらっています。彼らはすごく丈夫でスタミナがあるのが特徴のひとつなんですが」
そこで息を継いで肩を落とし、
「手に入れるのが非っ常~に難しい魔獣なんですよ。ケインも聞いていたでしょう、チャグルの話を」
「あの、見合いもどきの対面だろ。確かに大変だよな」
「ええ。ですが、さっきの角砂糖……アレを見せれば、確率はもっと上がるでしょう。早速来年からでも採用したいと思うんですけど……」
「? 何か問題が、って、ああ! 乱獲されるんじゃないかって事か!」
「そのとおりです」
思わず手を打ってしまったが、コンラッドの表情は沈む一方だ。
「スノーキャンターの生息数そのものは多くありません。我々が群れを全部把握できているとは言えないので確実ではありませんが、年に1~2頭増えるかどうかの数でしかないんですよ。それをあのような方法で連れ去られては絶滅するかもしれない……!」
「キュイ!(だいじょぶだっちゃ!)」
クッキーを齧り終えたオーリィが声を上げる。
「キュルキュルルル~(あいつらそれほど馬鹿じゃないっちゃよ~)」
「それはどういう意味だオーリィ?」
「キュキュ~……キュイルルッ!(好物だけど~……それ以上に相性だっちゃ!)」
「それって相手が好みじゃないと駄目、って事か」
なら、今まで通りでいいんじゃないかな?
「ど、どういうことですかケイン」
オーリィの言葉がわからないコンラッドが戸惑いがちに聞いてくる。
「オーリィが『好物だけどそれよりも相性が合わないと駄目』と言ってるんだ」
「アーミンの言葉がわかるんですかケインは」
「ああ、たまたまな」
「……っ! 『たまたま』や『偶然』が多すぎますよ、ケインはっ!」
あ、キレた。
おいでいただき、ありがとうございます!




