第144話
ケイン、今度は馬たらし!?
前に陣取り見上げると、馬たちの体格がよくわかる。
確かに山の向こうで見た馬よりも体高が少し低い。その代わりに横幅…胸囲、というのかな。盛り上がる筋肉の厚みが凄い。足も太くて少し短いからかずんぐりむっくりに見える。
けど、こんな馬の方が地力がある。ばん馬に近いんだ。木材を山ほど積んだでかいソリを平気で引き回し、起伏が有ろうとなかろうと指示される場所まで引いていく、底知れないスタミナを持った馬にとても良く似ている。その分、気性が荒いのかもしれないが、今目の前に居る2頭の馬にはそんな感じはしない、な。
「キュイ~キュルルル~(大丈夫っちゃよ~強い者には何もしないっちゃ~)」
久しぶりにオーリィが小さく話しかけてきた。
ふと見れば、懐から鼻先だけを出して馬たちを見ている。
馬たちとオーリィの視線が交わる。ヒト族にはわからない方法で語らっているようだ。
オーリィ、お前何やってるんだ?
「キュルキュルルキュ~(お子ちゃまに説教してるだっちゃ~)」
お子ちゃまぁ? この馬たちが?
「キュ~。キュウキュルル♪(そうだっちゃ。まだ5歳くらいっちゃよ♪)」
5歳ぃ!? そう思ってもう一度見れば……確かに顔つきは幼いな。それに、いまオーリィに怒られた(?)所為かちょっとしょげているような感じでもある。
「キュルルキュイ?(何かおやつでもあげるっちゃ?)」
そうだな~……馬ならニンジン、リンゴが定番だけど、それよりももっといいものが有る。
オレは『ストレージ』から出した或るものを両手で2頭に差し出した。手のひらのソレを最初は胡散臭げに見ていた馬たちだが、やがてそっと口に入れる。と!
ヒン! ヒヒヒン! ブルルルル~~ッ パカパカッ
首を差し上げ、鬣を振り、足踏みしてから首を伸ばしてオレの顔に鼻づらを寄せてきた。気に入ってくれたようだ。
「え、え、えええぇぇっっ~~!」
「なんと……スノーキャンターが懐いてる……!」
後ろで御者さんとなぜかコンラッドが驚いている。え、そんなにおかしいのか?
「お、お、お客さん、もしかしてテイマーっすか?」
「いや? 俺は冒険者だぞ」
「んなアホな……こいつら引っ張ってくる時もあんなに苦労したってぇのに、初対面でこんなに懐くって…なんで?」
オイなんだよその言い方。御者さんに問いただそうにも、あんぐりと口を開けたまま「なんで? なんでだよ?」と繰り返すばかり。
その横に居るコンラッドがようやく落ち着いてきたようだから、こっちに聞いてみるか。
「コンラッド」
「あ~、言いたいことはわかってるつもりです。
この馬はスノーキャンターという魔獣でして、使役馬としては優秀なんですが、まず手に入れることが難しいんです」
苦笑いするコンラッドの横で御者さんが激しく頷きながら話し出した。
「彼らがいるのはゴラン山脈の中腹なんっす。だからそこへたどり着くのがまずひと苦労でやす。候補者何人かが金を出し合って冒険者や傭兵を雇って行くんすが、それだってお金がかかりやす。その資金繰りだけでも大変なんっすよ」
な、なるほど。まずは元手がないとだめなのか。
「おまけにね、たどり着いても懐いてくれるかどうか全くわからないんでやす。こいつら、頭がよくてこっちをよく見抜くんすよ、相性が良くないと絶対にそばには寄せ付けない。あんまりしつっこいと終いには蹴り飛ばしてきましてね、それで怪我をするやつが絶えないんでやす」
うわ、なんてワイルドな。さすが野生魔獣。でもそうするとどうやって連れてくるの?
「群れを見つけた段階で向こうもこっちを見てるんすよ。で、候補者が横に並んでそろそろと近づいて」
「10メートルほど離れたところで対面するんですよ」
「まるでお見合いだな、それ」
「そう! そうなんでやすよ、あんた、じゃないケインさん!」
すっごく感激した御者さん、オレの両手をつかんで振り回す。
「わっしらを見るのも居れば知らん顔する奴もいる。どれが来るのか来ないのか、もう、ドッキドキなんですわ!」
ちなみに御者さんが参加した時は総勢7人だったそうだ。それぞれが村からの支援を受けて出てきたのだという。
「スノーキャンターは本当に若い馬ばかりで群れを作るんっす。そこへ行くのも春から夏へ移るほんの少しの間だけなんっすよ!」
「だから年に一度の機会しかなくて、探すのも大変、見つけても気に入られるかどうかわからないから、ある意味博打ですね」
苦笑いしながらコンラッドが後を引き受ける。なるほど、不確定要素が山盛り、って事か~。
「そんな若い馬ばかりが集まっているところへ、わっしら飼い主候補が行くんです。でも、なかなかうまく結べずに帰ってくる時が多いんっすよ? それをあんたさんがいとも容易く懐かせるなんて信じられないんっす!」
最後は半泣きで叫ぶ御者さん。
なるほど、それだけ苦労をしてきていたなら、この状況は涙目になるな。
オレはさりげなく周りを見回し、誰も注目していないことを確かめてから『バリア』展開に『消音・防音』を付け、おまけに『目くらまし』も展開した。
「なっ……これは!」
コンラッドは一瞬驚いたが、状況を察したようだ。
オレはそのままの姿勢でもう一度手のひらを上にする。そこに乗っているものを目にした馬たちのテンションは爆上がりした。
ヒ、ヒヒーンン!! ヒヒンヒン!
パカラッパカラッ! ブルルルルッッ!
うん、『目くらまし』もかけておいて正解だった! こんな躁状態の馬を見せたらどうなっていたことか。
御者さんもコンラッドも、オレの手の上のものを見詰めたまま動かない。
「え? あ、あれ、は?」
御者さんにはわからなかったかな。ちょっと高級品に入るのかもしれない。
「ケイン……コレは、まさか……?」
見ているものが信じられずにオレへと確認するコンラッド。
「その通り、角砂糖さ」
「そ、それで、あのスノーキャンターが、喜んでいる……?」
「好物なんだ、この甘味がね」
「こうぶつ……好きなんですか、本当に!」
それに答えず、オレは馬たちに手を差し出した。
「坂道では楽しませてもらったよ。これはお礼だ、どうぞ」
ハグッ!
というほどの量はないんだが、そんな勢いでかぶりついてきた。あっぶね~、齧られるかと思ったぞ!
ブルルルル~~ パカパカッ
鼻を鳴らし、上を向き、足を踏み鳴らす。まさに堪能! の一言だな。
その後オレに顔を擦り付けてきたから、
「久しぶりの雪遊びだった。面白いよなあれって」
と話しかけると。
ヒヒン ヒンヒン
…………返事、してくれたんだよな? だから続けて言ってみる。
「オレは楽しかったけど、ちょっと激しかったかな。ご婦人や小さな子供にはきつかったと思う。だからそんな乗客が居たら、もう少し穏やかにしてやってくれ」
……ブルブルルゥ ブルルッ
「不満か? でもな、これはお仕事なんだ。御者さんはこれで稼いで君たちを養っている。仕事がなくなったら一緒に居られない、かもしれない。そんなの嫌だろう?」
ブルッブルルッ ブルルゥゥ
「考えたくもないよな、そんな未来。みんな仲良く、楽しく暮らすためにちょっとだけ力を抑えるんだよ。御者さんだって君たちが我慢してること知ってるから、また遊ばせてくれるんだろ?」
ヒンヒン! ヒヒン!
「ん、君たちは賢いからわかってくれるよな? これからも頑張ってそりをひいてくれ」
ヒヒヒヒ~~ン(ヒヒヒヒ~~ン)!!
うわ、最後はハモってくれたよ。凄いなこいつら。2頭の首筋をなでてからそばを離れる。
「あの、あんた、じゃねぇ、冒険者のケインさん。ありがとうさんっす! あいつらいい子なんだけぇど、一度へそを曲げると元に戻んなくって。今日はもう終わりなんで、思いっきり走らせようかと思ってたんすよ」
「そうしてやるといい。きっとご機嫌になるさ。それと」
『ストレージ』から出した角砂糖の残りをそっと手渡す。
「あと3回分しかないけど、またあげてくれ。特別なおやつみたいに渡してやると喜ぶし、言う事を聞いてくれるようになるはずだ」
「だ、だってこれ高いんじゃないんすか! わっしにはお返し出来ないっすよ!?」
「その代わりに黙っててほしいんだ」
驚いた御者さんを遮ってオレは続ける。
「これが好物だとわかると、馬たちにとっても良くないと思うから、内緒にしておいてくれないか」
「確かにそうですね。悪用されたらスノーキャンターの乱獲にも繋がりかねませんから」
「た、確かにそうや。これさえ持っていけば、誰だって連れてきちまう……わかりやしたケインさん。この事、墓場まで持っていきますで!」
最初は驚いていた御者さんもその危険性に気づいてくれた。コンラッドもそうだ。
これは異世界知識の勝利。でも、あんまり広めない方がいい類いのものになるだろう。
ばんえい競馬って迫力満点です。
サラブレッドにない力強さがありますね~。
今日も読んでいただき、ありがとうございます。
2023/2/15 3歳⇒5歳 に訂正しました。




