第135話
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ふと気が付けば、爺さんがオレの顔をのぞき込んでいた。
「ああ? どうした爺さん」
「どうしたもこうしたもない。急に黙り込みおって、何を考えとるんじゃ」
「え、そんなの決まってるじゃん。これからどこに行こうかな~、と」
そう答えるオレを呆れたように見つめ、
「お前さん、問題提起したまま知らん顔をする気か……なんじゃろ、この、丸投げされた気分は……」
爺さん、なんかぶつぶつ言ってるが構うことはない。オレはオレの道を行くまでだ。
呆れた顔をしながらも、爺さんは話題を変える。
「まぁ、人外に何を言っても始まらぬか。それにしても、お前さんの神経はケロンの蔓並みの太さじゃのう」
「ははっ、何を言ってるんだ爺さん。オレほど臆病なのは居ないぞ? なにせ、ホーンラビットを相手に2年も狩り続けないと変われなかったくらいだからな」
ケロンは森にある植物で木に絡みつく習性を持っている。そして木の成長に合わせ、自らも太く長く伸びていき、斧で断ち切らないと切れないほどになる、木こり泣かせの植物だ。
直径2センチほどでも大の大人3人を軽々と支える強さがあるので冒険者はその蔓をロープ代わりにすることも多い。難点は植物だけに腐りやすいことだ。1日2日は問題ないが、1週間たてば腐って消えてしまう。
『使うのならば新鮮なうちに』これがケロンの蔓を使う時の合言葉だ。だからこそ爺さんが丈夫だとからかうネタにしたんだが、何を言っているのやら。オレはバグでこの世界に来たんだから恩恵なんてある訳ないじゃないか。
「お前さんのステータスが恩恵じゃろ」
「あ。あれだってバグじゃないか」
「やれやれ。本人に自覚のないのが一番の問題じゃったか」
肩を落としてため息をつく爺さん。なんだその、救いようがないってリアクションは!
「まあ良い。それで、どこに行くつもりじゃ?」
「ウーランダ公国を一番にしようかな、と思ってる」
「ふむ。理由は?」
「帝国が一番先に行きそうなところだからだ」
帝国の奴らと遭遇しそうになった魔導機械工場の前で奴らが言っていた。『あそこの魔石はもうすぐ掘り尽くされそうだというのに』……ここで言う『あそこ』とはダッカム草原近くの山にある魔石発掘鉱山の事だろう。
ここの魔石が枯渇するとなると帝国はどう動くか。
今までの行動パターンから見て考えられるのは。
「なるほど。山を越えればいいだけじゃからの、あそこは」
「ウーランダ公国からは少し離れてるしね。無断侵入しても気づかれにくいんじゃないかな」
『世界地図』から移した地図を見ながら、爺さんと頷きあう。
「無事に越えられるならいいんじゃがのう。ゴラン山脈はそう甘くないぞい」
若い時に大陸中を巡った爺さんがにんまりと笑う。
「同じ山脈といえど、東と西とでは魔獣の種類も強さも違うんじゃ。特に東は寒さに対抗するため、体毛や脂肪の厚さがダントツでの。そんじょそこらの魔獣とは比べ物になるまいよ。わかっておろうかのう」
「そうなの?」
「おおよ。そうさの、よく出てくるのがボア系の魔獣なんじゃが、通常のボアがラッシュボア程度の強さをもっておるか、な」
それはすごい。2段階くらい上がってるって意味じゃないか。
「それとディアーも多いかのう。あの山にいるのは通常のマウンテンディアーと違って風を操りおるぞ。その力でもって木に積もった雪を振り落として木の芽やら枝を貪り食うでな」
なにそれ怖い。
「モンキー系もおったな。あれらは力が弱い分、群れで襲ってくるからのう。数の暴力は馬鹿に出来ん」
「へえ、そんなに違うのか」
「一番手間取る相手ではあったの。面倒だったんで吹っ飛ばしてやったが」
ほっほっほ、と暢気に語ってくれたが、このヒト、どんだけ無茶をやらかしてるんだろう。
「それよりも、もっと差し迫ったことがあるぞい」
急に真顔になった爺さん。何を言いだす気だ?
「お前さんその恰好で行くつもりか? あっちは年中ドカ雪の中じゃ。防寒着やら断熱具やらを用意せんと、あっちゅう間に遭難者へ鞍替えするぞい」
「そうだった」
うっかりしていたな。今まではそれほどの気候変化がなかったけど、ウーランダ公国は1年中雪に埋もれている国だったっけ。
さすがにこの格好じゃマズいよな。どこで揃えようか……と考えていたら。
『ボス、心配イリヤセンゼ。用意ナラスグニ出来マサァ。』
しばらく沈黙していたカトーサンが答える。
「え、どういうことだ?」
『論ヨリ証拠、ココニボスノ手ノヒラヲ当テテクダセェ。
ア、両方デッセ。』
こいつ方言が入り混じってないかな、なんて思いつつ、穴から出てきたタブレット大の画面に両手を広げて押し付ける。光の筋が右から左、上から下に走って情報を読み取った。
『完了ッスヨ、ボス。向コウノ部屋ニアルボックスニ手ヲ当テ
テミテクダセェ。』
ボックスと言うと、あれか。壁際に並んでいる意味不明の箱、かな。
言われるままに部屋を移動して手近の箱に片手を当てると、ふたの表面に文字が浮かび上がった。
「おお、凄いな!」
「む? 儂には読めんな……お前さんはわかるのかの?」
浮かんだのは古代文字、それもミネルヴァ王朝のものだ。
「ああわかるぞ。『北大陸ダンジョン(弱)探索用装備一式』って書いて……ダンジョンぅぅっ!?」
「北大陸じゃとぉぉっ!」
ふたりして大声上げたのは不可避だったと思う。
「じゃ、じゃ、こっちはなんだ?」
隣りの箱に手を当てると。
「『北大陸ダンジョン(中)探索用装備一式』。『北大陸ダンジョン(強)探索用装備一式』。『東大陸深淵の裂け目(入口付近)探索用装備一式』。
『東大陸深淵の裂け目(入口から中央付近)探索用装備一式』。『東大陸深淵の裂け目(中央から終点付近)探索用装備一式』。『東大陸深淵の裂け目(最奥付近)探索用装備一式』……なんだよこれ」
どれもこれもアブナイ装備ばっかりじゃねぇかっ! しかも『探索用』だぞ? つまり、古代王朝時代でも全容は把握できてないところってことだよな!?
オレがドン引いてるってのに爺さんはいそいそと動いている。何やら紙に書いて、一枚ずつ箱にのせているが。
「爺さん、それ何……?」
「こらケイン、休んどらんと全部の箱に手を当てんか! ほれほれ急ぐぞい!」
「爺さんもカトーサンに登録してもらえよ!」
「ぶわっかもん! 出来るならやっておるわ! 儂では魔力量が足りんじゃろうし、何より古代文字が読めるかっ!」
「そ、ソウダッタ、ネ~」
そんな調子で引きずられんばかりに全部の箱にタッチさせられた。
結果。
北大陸関連が5箱、東大陸関連が6箱、この大陸関連が4箱、となった。南大陸分はゼロ。いかにあそこを軽く見ていたかってことがまるわかりだ。
それにしても、ここの大陸だけで4箱もあるって方が驚きだな。元々本拠地だってのに、探索しきれてなかった場所があったのか。
箱の表面には『アルカン・ロスト大陸分』と爺さんの手で書かれた紙が貼ってある。
内容は……
『本大陸 ゴラン山脈北側探索用装備一式』『本大陸 ラッテンヒル山脈西側探索用装備一式』『本大陸 ファスラス地方探索用装備一式』『本大陸 カーラルサン地方探索用装備一式(ダンジョン含む)』。
「「…………」」
「……爺さん」
「いや待て言うな。儂も困っとる!」
「だよな」
ふたりして顔を見合わせ、ため息をつく。一体何なんだよ、この箱の中身はぁっ!
えー、この段階で申し訳ないんですが、少し更新を遅らせます。
コロナにかかって、いま絶賛発熱中。頭くらくらです。
待機期間が1週間だそうです。ちょっとお待ちくださいませ。
こんな時にも来てくださりありがとうございます!




