第136話
グィード爺さんが燃えてます!?
気を取り直してもう一度確認する。
『本大陸 ゴラン山脈北側探索用装備一式』…これが今回の移動に関係するものだな。中身が何か、確認するのが恐ろしい。一撃必殺の武器なんて入っていないだろうな?
『本大陸 ラッテンヒル山脈西側探索用装備一式』…こいつはドワーフの国周辺の物だろうか。そうするとつるはしとかシャベルとか、か? まさかな。
『本大陸 ファスラス地方探索用装備一式』…地名が変わってるけど、こいつはノイレマ・コット魔王国近くにある光点と関係するんだろう。魔族も結構古い種族だって聞いてたから、何か確執でもあって行けなかったんだろうか?
『本大陸 カーラルサン地方探索用装備一式(ダンジョン含む)』…これだけどこなのか分からんな。
「多分じゃが、これはガルマン帝国周辺だぞい」
オレの視線を追っていた爺さんがぼそりとつぶやく。
「え、どうしてわかった?」
「カーラルサンとは昔の地名での、『荒れた広い地』の意味を持つ。ガルマン帝国はその荒れ地を開拓して発生した国なんじゃ。
元はベイレスト王国の覇権争いを嫌った王族でのう、一族郎党を引き連れて新天地へと向かった、と歴史の書には残されとる。早い話が都落ちじゃ」
爺さん、そんな身もふたもない言い方って……。
「なに、事実じゃ。
それにの、都落ちとは言うたが剛毅なお方だったそうじゃ。尊い身でありながら魔獣との争いの最前線に立って群れをなぎ倒し、はたまた魔道具を使って打撃を与えるといった、騎士にも劣らぬ戦いをなされる方じゃったと書かれておる。
歴史書などはその時の支配者に潰されぬよう、当たり障りなく書かれるものがほとんどじゃが、この時期のどれもが同じような表記になっていることから、ほぼ事実であろうのう」
それが本当なら相当の変わり者、いや破天荒な王族だったんだな。枠に嵌まるのがいやで、大暴れしたのかもしれない。元の世界で言う、〇田信長みたいな立志伝そのものの人間だったんじゃなかろうか。
「カーラルサンの大地に立ってここに国を造る、とその方が宣言された時、誰もが無謀なことだと本気にせなんだ。じゃが、連れてきた魔導士や魔道具製作者が次々と繰り広げる大規模な魔法によって、荒れた大地に緑が蘇り、水源が復活したという。歴史書の中でも1、2を争う名場面じゃな」
流石爺さんのうんちくは凄い。胡散臭い本や巻物をいくつも広げるよりもためになる。
「カーラルサン帝国と最初は名乗るはずじゃったが、だだっ広いだけと思われるのも癪だという意見があり、ガルメウス…これも古い言葉で『勇ましい・猛々しい』という意味じゃが、それを足してガルマン帝国と名を変えたんじゃと、何かの三文記事で読んだ覚えがあるの」
あんたの知識ってゴシップまで溜め込んでいたんかーい!
「何を言う。そういうところにこそ真実が隠れとるもんじゃぞい」
それは同意するけども。
「爺さんの場合、好奇心が先だろ」
「ふんっ、結果良ければ何でもいいじゃろうが!」
そっぽを向いた爺さんの耳がちょっと赤くなっている。自分でも気が咎めてるってことなんだろう。
おおかた、捨て値で買ってきたクズ山を掘り返しているうちに見つけたんだろうな。周り中がごみの中、眼を輝かせて巻物を読みふけっている爺さんを想像してオレがほっこりしていると、
「なぁにを考えとる、この規格外は!」
スッパアァーン! と後ろ頭を叩かれた。まったく、オレの考えてることを即座に察知するところは変わんねぇな爺さん!
とりあえずガルマン帝国の事は放っておいて。
オレは『本大陸 ゴラン山脈北側探索用装備一式』となっている箱に目を向ける。どうやって開けるのかわからないな。カトーサンは『手ヲ当テロ』と言っていたんだが……?
何はともかく、やってみるか。
さっきは片手だった。ならば、と蓋の部分に両手を乗せる。そうすると。
「お、おお!?」
一瞬手の形に淡い光が走り…そのまま手が箱の中に沈んで、いくぅぅっ!?
「な、な、何が起こった……っ!?」
爺さんも予測がつかない事態に口を開けたまま。
でも、呑み込まれたオレの手に何かが触れた途端、情報が頭に流れ込む。うん、この作業はいつものアレ、だよな。
見えないけれど両手を動かし、次々に触れる物の情報を読み込んでいく。
「爺さん、これオレの『ストレージ』に似てる、限りなく」
「ん? 違うのかの?」
「ん~。『ストレージ』ほどの大きさは感じないよ。結構詰め込まれているけど、量に合わせて大きさを決めている、そういう造りになってるみたいだ」
「よくわからんが、何が入っておるのかな?」
「えっとだな……まずは防寒具一式、それと寒さに対応するための魔道具だな。野宿するための備品と魔獣を寄せ付けない道具、そして向かってきた魔獣に向ける武器、魔方陣が書かれた羊皮紙、あとは携帯用の食料……こんなところだ」
ひとつずつ説明しながら取り出して並べる。
こうしてみると結構大量にしまわれていたんだな。しかも、
「ほぉう、これはこれは。どれもこれもすさまじい魔力を放っておるのう」
爺さんが顔をしかめつつ手に取って眺めている。オレでも感じるくらいだ、爺さんなら魔力量までわかるんだろう。
「ふむふむ……防寒具それぞれに個別の魔法がかけられておる……サイズ調整、は当然じゃが……強化、不壊、最適保温に攻撃反射、じゃとぉ!? なんと籠手にはもう一つ、命中率を上げる魔法がくっついておるのか! おお、保温効果を上げるアイマスクにも『鷹の眼』がついておる! 至れり尽くせりとはこの事じゃ。なんちゅう装備、なんちゅう付与魔法か!」
「へえ、よくわかるな」
「当ったり前じゃ、儂を何だと思うておる。錬金術師が付与魔法を見抜けぬようでは仕事にならんわ!」
お~、言い切ったな爺さん。えらく興奮してふんすふんすと鼻息が荒い。
しっかしそうするとこの装備、随分と手がかかってることになるが。
「なあ爺さん。これ一式、買うとしたらどれくらいになるんだ?」
「寝ぼけたこと言うんじゃないっ!」
思いっ切り怒鳴られてしまった。
「こんな装備は一流の鍛冶師が精魂込めて打つか、ダンジョンの宝箱から出てくるくらいしかあり得んわい!」
「……そんなに?」
「おおよ、それだけ凄いものじゃわい!」
「わー、大変なものが出てきたな~」
「……お前さん、本気にしとらんな? なんじゃその棒読みの感嘆は」
「いや、ビックリし過ぎて1周回った感じ、かな。もう驚くしかない、というか」
「…………否定できんな、それは」
はぁ、とため息をついて爺さんは肩を落とす。
「これだけの付与魔法をくっつけて、なおかつこの軽さ、この丈夫さ。しかもそれらが反発もせず、綺麗に収まっておるとは! 今の時代の鍛冶師や魔導士、錬金術師が何人揃えば実現できるのかと思うと、儂ゃ泣けてくるぞい」
爺さんの打ちのめされた姿なんて初めて見たよオレ。それほどの品なんだこれは。
かと思うと。
「いいや、負けんぞ! これに匹敵するようなものを必ず仕上げて見せる! おおよ造らいでおくものか、元とはいえ、筆頭錬金術師長の地位を得た儂の本気を見るがいいっ!!」
何やら別方向に燃えてしまった。両手を握りしめて虚空を睨みつけながら咆哮する爺さん。アブナイ野郎にしか見えないのはオレだけか?
あ、オレの両手は無事出てきたよ。あの箱の表面そのものが結界のようなもので、カトーサンが認証した者にしか反応しないらしい。何とまあ都合のいいことだ。
ようやく復活出来ました。
まだ後遺症が残っていてちょっと辛いですが、
徐々におさまるだろうと気楽に構えてます。
お待たせして申し訳ありませんでした。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




