第132話
カトーサンが情報を探すために沈黙したため、オレと爺さんは食堂を出て錬金部屋に移った。
「ケイン、今の質問の意図はどこにあるんじゃ?」
ああ、やっぱり爺さんには気づかれていたな。
「南大陸に巨人族と小人族がいたんだ」
話し出してすぐ、爺さんが両手を上げる。
「待て待て、省くんじゃない。お前さん、ひょっとしてマルタ・ストルス大陸に行って居ったのかの?」
爺さんがおっかない形相で迫ってくる。これがあるからオレは近寄りたくなかったんだよ。
「ああ。危ない奴の話をしただろ? あいつが原因さ」
「そういえば話半分であったな」
ほっほっほ、と顔を一変させて笑う爺さん。こういうところ、俺は絶っ対に真似できない。
「ガルマン帝国の魔道具製作省筆頭チーフ、タケル・マティスっていうのが対外的な立場なんだが、こいつが古代魔法を扱える、ってところまで話したよな」
「そうよな、確かに」
実はそこから先が重要なんだけど、爺さんわかってるのか?
「そいつさ…………実は転生者なんだ」
「転、生、者……お前さんと同じ、ではないんじゃな?」
爺さん、奇妙な顔してるな。そっか、まずはそこから話さないといけないのか。
「オレはここへ召喚された。召喚は、元の世界のオレそのものを引っ張ってくることだ。転生者はちがう。元の世界の知識を持ったまま、この世界へ生まれ変わってきた者の事を指すんだ」
オレの説明に沈黙が生まれる。
「元の世界の知識……それはかなり危ういものではあるのう」
長い沈黙の後、ポツリと爺さんがこぼした。
「何も知らぬ赤子のまま、この世界に馴染むのなら疑問に思わぬ事を、そ奴は初めから違和感を持っておったのじゃな。そしてその違和感は周りの者へと波及する……結果、そ奴は敬遠されたんじゃろう。おそらく家族からも、な」
「そんなことを言ってたよ。魔力があればまだ何とか認められたのかもしれないけど、決定的に足りなかったようでね。
だからあいつは、ほかの人間から、魔力を譲渡させる方法を生み出しやがった。古代魔法の『空間転送』を発動するために6人分の魔力をもらい受けてね」
一瞬、爺さんの顔が驚きにゆがんだよ。
「な、なんじゃと! 『空間転送』とは、相手をどこにでも送り込める魔法じゃ! ケイン、それでお前さんは隣りの大陸へ吹っ飛ばされたのか!」
「まあな……そのままだったらオレはどうしようもなかったんだけど、オーリィ、このアーミンがオレを助けてくれたんだ」
この部屋に来てから、机の上をあちこち弄り回している。どうやら興味のある物でも見つけたようだ。
「こらオーリィ、怪我するぞ。ほれこれでも食べてな」
クッキーを渡すと、その場でおとなしく食べ始めた。やれやれ一安心だ。錬禁術の道具って、結構危険なのが多いんだ。
「ふむ、アーミンがくっついているのもなかなか興味深いんじゃが」
「こいつとはその前行った「黒の森」で出くわしたんだ。なぜかオレに付いてきてるんだけど、理由がさっぱりわからん。オレにとっては運がよかったんだけどな」
内容が前後しながらも、オレはこの半年間の出来事を大まかに伝えることができた。
「ふむ、お前さんはやはり大物じゃのう」
聞き終わった後の爺さんの第一声がこれだった。
「大物ってどういうことだよ」
「話していて気づかんかったのかの? お前さん、行く先々の国で必ずそこのトップと出逢うとるじゃろうが」
「…………」
「おまけに何かしら影響を与えとる。
アルマニア皇国では国の在り方の根本認識を変えよったし、獣人国において冒険者の扱いが変わったのもお前さん絡みじゃろう?
神聖エリシオ教国いや新生エリシオ教国であったな、あそこでは英雄となっておるではないか。これを大物と言わずして何が大物じゃ」
「いやまぁ、そう言われればそうなんだけど」
「それに引き換え、お前さんを追い出したフォルカイス王国は周り中から絶縁され、今じゃ存亡の危機を迎えとる。異世界から召喚した勇者殿たちにも見限られてもはやにっちもさっちもいかん。そんな中で手を差し伸べたのがガルマン帝国となると、きな臭いにおいがプンプンじゃのう」
実際に臭いがするかのように爺さんは顔をしかめた。オレも同感としか言いようがない。軍事力でも政治力でも、帝国の方が上回っている。どう転んでも吞み込まれる未来しか見えないな。
え、あれ。そういえば。
「爺さん、勇者たちがいないってどういうことだ?」
「うん? 知らんのかなその噂は。かなり広まっておるが……おお、そういえばお前さんはここにおらんかったのか。では知らぬのが当然か。勇者たちを叩きのめしたのであろう、ケイン?」
「ひでぇな、オレ一人でやったことじゃないんだけど」
「手を出したのかどうかは知らんがな、お前さん、勇者殿たちの心をへし折ったんじゃろ? おそらくは今の能力で、な」
ぐうの音も出なかった。その場にいなかったくせに、どうして言い当てるんだよこの爺さんは!
「ダッカム草原へ大軍とともに出張った勇者殿たちが、その後行方不明となっておってな。フォルカイス王国が躍起になって探しておるらしい。
どうやら身分と名を変えて、冒険者として王国のあちこちを転々と移動していたようでの、仕事ぶりが確かでかなりな評価を受けていたと聞いておる。じゃが、王国側がその情報を得て連れ戻そうと動いたところ、消息がぷつりと途切れたそうじゃ。
立ち回りそうな町へ聞き込んでみたり、依頼と称して冒険者ギルドに照会をかけたりしたんじゃが、一向につかまらん。天に上ったか地に潜ったか……まあ、勇者殿ともなればあり得ん話ではないと儂は思っとるが、のう?」
そう言っておきながらオレに笑い顔を向ける。早く白状しろと言わんばかりだ。
「オレに訊いたって知らないぞ、行先なんて」
「ほぉお? そうかの?」
「そうだよ。勇者たちの行動は自分たち自身で決めてるんだろ」
なんにせよ、フォルカイス王家から離れてくれたことが分かった。あそこはどうにも厄介なところだし、ガルマン帝国が関わってくるとなると、彼ら自身の命も危なくなってくる可能性が高い。なにせあのタケル・マティスが出張ってくるだろうからな。実験材料にでもされかねん。
「ふむ。まあ今のところはその言葉を信じようかのう。とはいえ、フォルカイス王国にとっては大事な戦力じゃ、何としても探し出そうとするじゃろう」
「いっそのこと、国を出て行ってくれればいいんだけどな」
オレの一言に爺さんが笑った。
その後、カトーサンに呼ばれて食堂に戻ると。
『大体ワカリヤシタゼ、ボス。』
なぜか得意満面の坊主頭が目に浮かんだよ。すぐに頭を振って消したけどね!
『? ドウカシヤシタカ、ボス?』
「あ、いや、大丈夫だ。それよりわかったことを教えてくれ」
『ヘイ、ボス。
・・・デスガ、ヒトツ確認シテオキテェンデス。ヨウガスカ?』
「ん、何をだ?」
『アッシが引ッ張リダシタノハ、前の『門番』ORT127QZG
カラ受ケ継イダデータベースニアル情報デヤス。本来ナラアッシ
如キガ触ルコトモデキネェクラスノ情報ナンデヤス。
ボスガコノ情報ヲドウシテ必要ナノカ、伺ッテモイイデスカイ?』
「疑問に思うのも無理ないかな。
……ある事情でオレはマルタ・ストルス大陸へ飛ばされたんだが、そこで出会った種族も自然も、特におかしな感じがしなかった。なのに、魔導機械工場に居た人工知能…『ミストラル』ってオレは呼んでるんだが、そいつが『廃棄大陸』って言ってたんだよ。しかも、理由を聞いても言わないし、かなりきつい制限がかけられていた。
その理由を知りたいんだ」
『ナルホド。了解シヤシタ。
コイツァミネルヴァ王朝ノ誕生秘話ニモ関ワルコトノヨウナンデ、
上級魔導機以上ニシカ情報ヲ伝エナカッタンデサ。
シカモ、外ヘハ漏ラサヌヨウニプロテクトヲ掛ケタ跡ガアリヤス。
コレジャ上級クラスハ、一ッ言モ答エラレナイッスヨ。』
思いもよらぬことを知らされてオレも爺さんも言葉を無くした。
「……そんな重たい話は必要ないな」
「そうじゃのう。要は言葉の由来だけが知りたいんじゃからな」
ふたりして顔を見合わせ、頷く。無理やり張り付けた笑みが引きつっているのは仕方ない、よな。
『ソウデヤスカ。デスガ、キッチリガッチリ絡ンデヤス。避ケ
テハ通レマセンゼ。ソレデモ聞カレヤスカ?』
カトーサンの無情な念押しに、二人してため息をついて了承した。
そうして出てきた話だが……
……カトーサンからの情報にオレも爺さんも言葉をなくしちまった。
ミストラルの様子から上級魔導機には制限がかかっているらしいと予測がついた。無理強いすれば疑似人格が壊れるだろうとも。
でも、カトーサンはちがう。中級魔導機で、管理を委譲されただけだ。そこに制限はないだろうと踏んだオレの読み通り、今情報がもたらされている。あまりにもびっくりな内容で対応しきれないけどな。
読み直して校正してたら遅くなっちゃいました。
何度やっても誤字脱字は見落としがありますね……
自信、無くしそうです。
それでもお越しいただいた方に感謝申し上げます。




