第127話
だが魔導機作成工具は困惑したようだ。
『名前、デスカ?』
「ああ。いちいち魔導機うんたらかんたらいうの面倒だし、「工具」って呼ぶのもおかしい。第一、あんたには自我がある。そんな相手になら名前があって当然じゃないか?」
『ミストラル』とは元の世界で風の別称だ。南フランスに吹く冷たい北風なんだとか。昔の高名な画家たちには嫌われ者だったようだが、雨雲を吹き飛ばし、空気を乾燥させ、真っ青な空を取り戻してくれる大事な使者でもあったと聞いている。
オレの国日本でも「〇〇颪」という地方風がいくつもある。六甲颪、赤城颪、伊吹颪とかな。
でもな~、「颪」なんて男みたいだろ? この人工知能、なんだか女性っぽい感じがするんだよな。だからこそ、「ミストラル」が似合いそうだと思うんだけど。
『・・・・・・』
「あ、やっぱりいやか? なら、別の名前で…」
『イエッ、構イマセン! 『ミストラル』拝命イタシマス!』
うおっ、食いつかれるかと思ったぞ。
同時に画面のフィギュアが変化した。髪が長くなり、胴体が変形し、衣装をまとい…要するに女性っぽくなったんだ。
「それじゃミストラル、部品の説明を頼めるか?」
『ハイ! マズNO.1カラNO.5ハ足回リノ部品デス。
NO.6カラNO.10ニハ作業用アームガアリマス。
NO.11カラNO.15ハ統轄スルシステムヲ収メタ
頭部モデムガアリ、NO.16カラNO.20ハ胴体部分ノ
モデルが収納サレテイマス。』
画面の中を移動しながらフィギュアがひとつひとつを示していく。そのたびにボタンが点滅して内蔵されているパーツを早送りで写すんだが、眼が追い付かない。ま、あとでじっくり見るか。
『最初ニオ作リシタイ物ノイメージヲオ教エクダサイ。ソノ
イメージヲ元ニワタクシガ設計図ヲ引キマス。ソレヲゴ覧ニ
ナッテ、不都合ノアル部分ヲ微調整シタ後、組立テニ入リマス。
スベテノ作業ハ、次ニ上ゲルモニター画面上デ行イマス。
パーツヲ組ミ合ワセテ動キヲ確認シ、縮小モシクハ拡大シテ、
希望サレル大キサヲ決定シタ段階デ、実際ノ機械作成ヲ下ノ
スペースデ行イマス。
ゴ不満ヤ不備ガアレバ、再度調整ヲ行イマス。
作業ノ流レニツイテノ説明ハ以上デス。』
説明の半ばに、今のモニター画面の横にもうひとつ画面が立ち上がった。これが作業するところなんだろう。
「なるほど、試してみるか。ポチッとな……って。ふむ」
『NO.1』のボタンを押すと、新しく出てきた画面にモノが映った。
「これは……キャタピラー、いや、クローラーかな?」
戦車のそれではなく三角形の配置になっているキャタピラー。元の世界でも4WDのオフロード車に組み込み、オフロード専用の荒れ地を乗り回してストレスを発散していた先輩がいたなぁ……
「キュ? キュルルゥ?(キャター? ピーなんて言ったっちゃ?)」
「クローラーの方が近いな。どんな難所でも進めるようにした車輪と言えばわかるか?」
「キュウルゥ?(車輪に見えないっちゃよ?)」
画面に指を置いて回すと、映像がクルクルと回転する。3D画面のフィギュアを作る時の感覚に近いかな。
『NO.2』は多足歩行、『NO.3』は二足歩行、『NO.4』は三角形に位置したもの、『NO.5』はローラータイプだった。
「これは慣れるまで大変そうだな~」
「キュ~~(目が回るだっちゃ~)」
『種類ガ多イノデ、ドナタモ慣レルマデガ大変デス。ナノデワタク
シガオ手伝イヲイタシマスガ、マスターハ必要ナサソウデスネ。』
「そんなことないぞ。でも、そうか……」
ミストラルの説明を聞きながらオレはモニター画面を下までスクロールしていく。一番下に探していたモノがあった。それを起動させると。
「キュルッ?(これって何だっちゃ?)」
オーリィが不思議そうにのぞき込んできた。
「デフォルトのサンプル、だな」
「?」
「誰だって最初から作ることできないだろ? だから、標準の形を表示してそれを変形させていくんだ。その方がイメージしやすいしな」
『ソノトオリデス。ヤハリマスターハヨクゴ存ジデスネ。』
いや、ゲームでも定番だろこれ。武器でもなんでも自分好みにカスタマイズするのって。
オレもやってたしな。
とりあえず、NO.6からNO.20までのモデルを順に確認する。ふむ、確かに説明通りだが……いささか足りない? というか、わざと抜かしたな?
「ミストラル、質問がある」
『何デショウカ、マスター。』
「今見た限りで言うと、ここにあるのは作業用の魔導機が造れる。そうだな?」
『オッシャルトオリデス。』
「では攻撃用の魔導機は無理か? 例えば……遠距離から敵性目標を粉砕できるようなレーザーや、ミサイルみたいなものを発射する装置とか、近距離で振り回す剣のようなものとかは?」
「キュキュ~~!(物騒な事言うなだっちゃ~~!)」
「そうか?」
「キュキュルル!(この絵を見た後でそう発想できるのがアブナイっちゃ!)」
「ヒト族だからね」
「キュ~~(そうだっちゃ~~)」
肩の上でへたったオーリィに親指を立てるオレ。どやぁっ!
『……他者を攻撃デキル仕様ハ現在ロックサレテオリ、表示デキ
マセン。
イカガイタシマスカ?』
「キュルキュ~……(持ってたよこの機械……)」
オーリィが遠い声でつぶやくのを尻目に問いかける。
「そのロックは解除可能か?」
『ハイ、マスター権限デ命令シテ下サレバイツデモ解除
デキマス。』
マスター権限か……要するにここを造った古代文明の誰かだったんだろうな。
「命令ね。……まあいいや。その権限を使おう。ミストラル、解除してくれ」
『了解デス!』
画面のフィギュアが一礼した。あれ、なんだか喜んでるような感じがするんだが、気のせいかな?
『個人認証マスターノ命令ヲ受理イタシマシタ。現在ロック中の
機能ヲ全テ解除シ、魔導機械工場ノ真ノ姿ヲココニ顕現イタシ
マス!』
ミストラルの声が響いた途端、最初のモニター画面表示が劇的に変わった。
まず、番号が一気に増えた。NO.1からNO.20までしかなかった番号ボタンが4分の1くらいに小さくなって上部に移動、空いた部分に何やら細かい設定が出てきた。
左側に分類があり、矢印がある。分類を押すとババッと表示が並び、種類がわかる。あれだな、いわゆるファイルだ。
分類には…おいおい、これは。
「剣」「鈍器」「長物」「投擲」「射出」「暗器」「その他」……まさに武器だな。
「部位防具」「一体防具」……こっちは防具か。後で見てみよう。
「その他」……その他ってなんだよ。
しかもしかも! どのボタンも「押して押して」と言わんばかりにピカピカと光ってやがる!?
こら、ミストラル! なぁにやってるんだっ!
『コノシステムプログラムヲ起動スルノハ、本当ニ久シ振リデス!
アア。コレコソワタクシニ課セラレタ使命デス!
マスター! 思ウ存分カスタマイズシテ下サイマセ!』
画面のフィギュアがクルクルと踊ってる。心なしか声も弾んでる、よな?
この人工知能、えらく表現方法が幅広く設定されてるな~。
そう思っていたら、
「キュルキュイ…?(この機械、感情を持ってるだっちゃ…?)」
「お前もそう思うか?」
「キュルルキュウ~(「カトーサン」とおんなじ匂いがするっちゃよ~)」
あいつとか~。でも言葉遣いはこっちの方が断然上だぞ?
「キュ? キュルッキュル~(こっちの方が上級?の機械なんだっちゃ~)」
そう言えば、ラッテンサンド高原の『門番』が権限譲渡したとき、水分補給魔導機が疑似人格を持つって言ったな。だから「カトーサン」呼びになったっけ。
『門番』にしろ『水分補給魔導機』にしろ、古代文明では疑似人格を持った魔導機が当然だったんだろうか。
読んでいただき、ありがとうございます。




