第124話
帝国とのニアミスです。
「ウルヴィス、ひとつ頼まれてくれるかな?」
『おお、おぬしの頼みならいくつでも聞こう。なんだ、何をすればいいのだ?』
おっとと、食いつき気味に迫ってきたよ。どうして?
『なにせ、我が長年惑うていたことをすっぱり祓ってくれたからの、恩を返すのは当然だ』
「そんなに凄いことをした覚えはないんだがな」
『何を言う! 我はこの齢まで生きてきたが、あのような考えに至らぬままだった。未熟な我に先達の言葉を伝えてくれたのだ。この感謝の気持ちをケインに返すにはどのようにすべきか悩むほどなのだよ』
「……なら、ジェイルニークスに翼獣達の事をよく頼んでほしい。それで十分さ」
人間至上主義も嫌だけど、自分第一主義も困るんだよね。そういう奴らは自分より上と見るや、一致団結して追い詰めてくる。そして目的を達したら一斉にばらけて知らん顔をするんだ。ほんと、厚顔無恥そのものなんだから。
『おお、任せてくれ。しっかり言い聞かせてやろうぞ』
やる気満々のウルヴィスだが、あれ、疲れるって言ってなかったっけ。
「頼んでおいてなんだけど、ウルヴィス。無茶しないでくれよ?」
『我を心配してくれるのか? 優しいのうケインは』
またやっちまった感がある。普通に会話してもこれだもんな。
『それと何をしろと?』
「ああそうだった。オレを或る地点まで運んでほしいんだ」
『世界地図』を起動して現在地と目的地を指さす。
「『門』魔法で一気に飛ぶことも考えたんだけど、ここって森の中だから何があるかわからない。近くまで行ってからにしようと思ってたんだ」
『成程な。ここは「西の森」であるか。ならばこの辺がよかろう』
ウルヴィスの長い爪がそっと伸びた。
「そうだな、そこまで頼む」
『おお。そういえば最初の時も我とともに飛んだのだな』
「あの時も助かったよ。今度だってほんと助かるんだ。聖獣なのに運搬をお願いするのは気が引けるんだけどさ」
頭に手をやりながら言うと、
『友人の頼みごとだぞ、叶えられるのならこれほど嬉しいことはない。遠慮など無用だ』
「そうか? でもありがとう」
『何のこれしき。では今すぐ行くか?』
「是非!」
そのまま背中に乗って空中散歩を楽しんだよ。ウルヴィスの背中って広いし、結界を張ってるから空気も冷たくないし風も適度。たとえは悪いけど、空調設備の整った透明な飛行機に乗ってる気分だった。
徒歩だと何日もかかる距離をウルヴィスはあっという間に踏破しちまった。空を飛ぶってある意味チートだと思ったよ。
「ここまで運んでくれてありがとう、ウルヴィス」
『たやすいことよ。ではまたなケイン。それとアーミンも』
「キュルッ!(うんっ!だっちゃ!)」
「じゃあなぁ~!」
翼を広げて飛び去る姿を見送り、オレは森へと向き直った。ここは「西の森」。オレがポイ捨てされたところだ。今なら半日で楽勝だけど、あの時はここを抜けるまでに2日かかった。
「……」
フォルカイス王国はここの北東、森の端っこに捨てていった。魔獣の通らない隅の方だったのは多少なりとも良心が残っていたと信じたい。
「…………」
ナイフの1本も持たさずに、もちろん食糧なんてない。着の身着のまま、馬車から突き落とされて。ガラガラと遠ざかる車輪の音を遠く聞きながら、オレは森の中へ這いずり込んだんだ。
「必死だったよなぁあの時は」
目を凝らし耳を澄ませてカタツムリのように草を分けて歩いたあの日あの時間。見つかりそうになって慌てて木によじ登り難を逃れたこともあった。
「眠れなかったな……徹夜には慣れてたはずなんだけど」
2日かけて森を抜け、道らしきものにたどり着いた時、思わず座り込んでいた。白く埃っぽい道の向こうから誰かが走ってくるのをぼんやり見詰めていたっけ。
「今思うとなんて無知だったんだろうな。最初の村がああも世話焼きじゃなかったら、オレ死んでたよな」
ベイレスト共和国の辺境にあるクレトという村。
「あの人たちにオレは命を拾ってもらったんだ」
「キュルキュル?(そこってここから見えるだっちゃ?)」
オレは肩越しに振り返った。
「いや、ここからは無理だな。もう少し東に寄ったところだから」
「キュ~(そっかだっちゃ~)」
ゆっくりと顔を戻し、再び森と対峙する。あの日の窶れたオレが目の前の藪をかき分けて出てきた。そしてオレの中をすり抜けて、街道の方へと歩いていく。振り向いても絶対に見えない。あれはオレの記憶の中にしかいないのだから。
頬に手を当て、強めに張る。さあ、いつまでも過去に囚われてはいけないんだ。
ウルヴィスを鼓舞したオレが後ろを向いたらかっこ悪いだろ?
「よし、行くぞオーリィ」
「キュッ!(了解っちゃ!)」
ダガーを構え、オレは暗闇の恐怖を植え付けた森へ入っていった。
「しっ!」
グギャアアァァ・・・ どさっ
ダガーを降りぬいたまま、残心してオレは辺りをうかがう。
幸いにもこのベアーは単独行動していたようだ。運がいい。
ダガーから解体用ナイフへと持ち替え、素早く血抜きをしていく。終わったら『ストレージ』へ放り込んでいったん終了だ。そのまま収納しても時間経過はないから構わないんだが、そうすると後で最初からやらなくちゃならない。結構面倒くさいし、匂いがひどいから先に済ませるようになった。
「キュキュ!(他にはいないだっちゃ!)」
周りを見てきたオーリィがオレの肩へと駆け上がる。翼持つウルフと遣り合ってから、オーリィもこうして手伝うようになった。あの時「下位種」と言われたことが相当腹に据えかねているみたいだ。
今度マルタ・ストルス大陸へ行くようなことがあったら、オーリィはどうするのだろうか。
案外、翼獣の里に行って大暴れするのかも。
それとも、ジェイルニークスに猛抗議するのかな。まさかね。
総毛を立てて向かっていく様を想像し、思わずニヤリとしてしまう。
「キュキュキュ!(何笑ってるっちゃ!)」
「痛てっ! こらっ、耳齧るのやめろってば!」
小声で言いあいながら『世界地図』とオレの『マップ』を重ね合わせ、位置を確認しながら森の中を進む。
この辺まで来ると魔獣も出てこない。ホーンラビットやスネーク類は近寄ってこないし、ビックボアもベアーもなぜか避けるように移動しているのが『マップ』上の光点でわかっている。
「古代遺跡だとわかってるのかな」
「キュルルル?(特に何も感じないだっちゃ?)」
「ふうん。まあ、邪魔が入らないならそれでいいか」
目的地まであと少し、というところで『索敵』が警告を発する。畜生、さっきのでフラグ立てちゃったか!
『マップ』上の光点は真っ赤っか。オレが敵性対象としている何かがこちらに向かってきている。方角は東寄りの南、ダッカム高原もしくはフォルカイス王国付近からの侵入者だ。ガルマン帝国関係で間違いない!
目の前の草をかき分けて飛び出すと、そこには石があった。『門番』だ。
オレは『門』の術式魔力を提示、すぐに呼びかける。
「『門番』! 認識できたか!?」
『魔力ノ認識ヲ行ッタ結果、登録者ト判明シマシタ。
施錠ヲ……』
「解錠しなくていい、それより個人認証してくれ、できるか!?」
『可能デスガ……』
「敵性勢力が接近している。ここの施設を守るために個人認証にしてほしい。急いでくれ!」
真っ赤っかな光点の移動が速くなってきている。さっきの魔法に気が付いてるな、こりゃ。
『……! 了解デス…………切替エ完了シマシタ。コレデ他ノ
魔力ニハ反応イタシマセン。』
おお、反応が早い。これなら何とかなりそうだ!
「よし、そのまま沈黙を保ってくれ。敵性勢力がいなくなったらまた来る。頼んだぞ!」
『ハイ! 了解シマシタ!』
『門番』の返事がいやに張り切っていたように聞こえたが、気のせいか?
それより早く移動しよう。もうすぐそこまで来ている!
『陰伏』で少し離れたところに潜む。時を同じくして、石の前に男が飛び出してきた。間一髪、間に合った!
過去との訣別、それと自覚ありの邪魔、ですね。
今まではそんなつもりがなかったですから。
本日の更新が遅くなりました。
今日も見に来てくださり、ありがとうございます。




