第123話
何やらおかしな雰囲気が・・・?
『汝の言う上位下位の考え方は汝の種族だけにしか通用せぬよ』
その言葉に衝撃を受けたのはウルフだけじゃない。オレもオーリィも、だ。
『しゅ、種族にしかって……どうしてなの!』
「オレも知りたい。そもそも何をもって区分してるんだ?」
ウルフとオレの問いが続けてウルヴィスに届く。当の聖獣は顔をしかめてこちらを見て頷いた。
『区分なんぞしておらんよ。我らはみな神の御手により創られた命、どれもが等しく尊いもの。そう我は思っておる。でも、な』
およ? ウルヴィスの雰囲気が変わったぞ。何やら悩んでいるような……?
『……神の領域に手をかけた古代王朝とヒトの子ら。その所業をどう受け止めていいのかわからぬのだ』
それって巨人族や小人族の事、かな。
造られたゴーレムたちが王都の崩壊を目の当たりにしたとき、生への欲求が沸き起こってきたんだと語ってくれた、けど。
それって、魂を得たんじゃないのかって思ったんだ。
実際、巨人族も小人族も『鑑定』では普通の種族で出たからな。どうしてそれが可能だったのかは知らないが。
その時。
オレの背中を悪寒が走り抜けた。え。なんだ?
悪寒は一瞬で消えたから、何が何だかわからない。
悪寒の素を探そうと『索敵』を唱えかけたが、何かがオレを引き留める。
『今は探すな』『そっとしておけ』そんな言葉?思念?が心に浮かぶ。
一体何だってんだ。何が起こってる?
『…………ン! 我の声が聞こえるか、ケイン!』
「キュキュッ!(どこ行ってたっちゃ!)」
ウルヴィスとオーリィの声が重なって響き、オレは我に返った。
「え、えぇ? オレ今、なにやってた?」
顔を上げると、ウルヴィスが真剣な眼でオレを見下ろしていた。
こらオーリィ! 治したばかりの耳を齧るんじゃない!
『おお、戻ってきたか。良かったよかった』
「キュ~~キュイィ~(ふぃ~~心配したっちゃ~)」
「戻って、きた? どこから? オレ、ここから動いてないよな」
ウルヴィスが説明する声に安堵の色が見える。
『一瞬であるが、おぬしの気配がここから消えたのだ。我でも追えぬくらいの速さでな。慌てて探りかけたら居ったのよ、そこに、そのままの位置に、な』
首をひねるが、よくわからん。けど、心配をかけたことは確かだ。
「そう、か。ごめんなウルヴィス。心配させちまって。オーリィにも」
『我に謝る必要はないが?』
「キュ~~(そうだっちゃ~)」
「あ、そうだな。この場合は心配してくれてありがとう、だっけ。間違えた」
ハハッと笑ってウルヴィスを見上げると。あれ、なんか、眼が潤んで、る?
『…………おぬしっ……そう、よの、おぬしはそういうヒトの子であったな。我に心を向けてくれる希少な、ヒトの子よ』
「キュルキュイ…?(このドラゴン、大丈夫…だっちゃ?)」
……あ、もともと天井突き抜けてたんだ、この聖獣殿は。
この流れに乗るとオレがこそばゆい。早いところ断ち切らないとな。
「コホン。あー、話を戻すけど、ウルヴィスはさ、古代王朝のやったことに納得できないんだよな?」
『そういうことだな』
ウルヴィスは聖獣で、この世界を最初から見ていた存在だ。だからこそ、いろいろと混乱しちゃうんだろう。でも、そう考えすぎるとハゲるぞ?
あ、ドラゴンだから毛はなかったな。いや、うろこが剥けるかも?
「オレは古代王朝や古代人に会ったことないから、批判も賛同もできない。今に残る遺物を見て、凄い王朝だったんだろうなと思うだけだ。そんな王朝でも欠点はあった筈で、ウルヴィスはそれが見えるから迷ってるんじゃないかな。
でもさ、ウルヴィス。
オレたちは今、この時間を生きている。過去は過去で置いといて、現在を見ないといけないんじゃないかな」
『う。うむ。確かにそうだが……』
「オレはさ、人族や魔族、獣人族だからって、ああだこうだ言う方がおかしいと思ってるよ。ついでに言えばこの世界にあるものすべて、存在を許されているからこそ『在る』んじゃないかな」
オレがこの考えに行きついたのは、異世界から召喚された状態を後から思い出して気づいたんだ。
なにせ、その時はヘロヘロでモノ言うことも億劫だったしな。街道を歩いている時や宿でぼんやりしている時にそれと気づいたんだ。
確かに異世界召喚を神は禁止していない。喚ばれた方は大迷惑だからさっさとやめさせろとは思うけど。
でも、召喚された人間はチートに近い能力を付与されている代わりに、元の世界の持ち物は一切持ち込めていない。
オレのバッグ、中にはスマホとタブレットが入っていた。そのほかには胃薬(出先でストレスが溜まって痛むんだよ)や救急薬品一式(バンドエイドに塗り薬だ)、電卓なんかもあったんだが、どれも手元にない。一緒に来ていた高校生たちも同様の状況だったことはあの場で見ていたしな。
思うに、生き物に関してはおおらかなんだろう。
その反対に、文明の利器には拒否反応マシマシなのが笑える。
つまり、神はこのルルバイト界の急激な発展を望んでいないんだ。ゆっくり、いろんなものと歩調を合わせて生きていけよと、喚ばれた側に言いたいんだろう。
ま、オレの勝手な思い込みかもしれないけどなっ。
「キュウルル~(思い込み思い込み~だっちゃ~)」
おまえはうっさいよ!
でも、ウルヴィスはなぜか驚いている。
『ケインの考え方は我より進んでおるな。存在を許されているから『在る』……なるほど、それは思いつかなかったぞ……』
何やらえらく感動しているが、どうした?
『ケイン』
「ん、なんだウラヴィス」
『感謝する』
へ? 何のことだ?
『おぬしの言葉で、我の迷いが晴れた。こ奴の事をどう扱うか、躊躇いがあったのだ。だが、もう惑わぬ。この世界のものすべて許されて『在る』のなら、それが真実である。
命あるものに区別はない。上位下位などあるはずもない!』
はっきりと宣言するウラヴィスの目は輝き、自信にあふれている。そうだな、聖獣はこうでなくっちゃ。
『ウ、ウラヴィス兄……ひどいよそんな』
頭から振り落とされたウルフはしばらくホバリングしていたようだが、疲れたのか近くの樹の枝にとまっている。そこから恨めし気な雰囲気で睨んできているのだが。
「キュル~、キュルルィ~(ウッククク~、やぁい泣かされ坊主だっちゃ~)」
オーリィってば、まだ怒ってたんだな。ウルフの涙目を見て留飲を下げてるよ。
『今まで何度も注意してきたことだ。我がはっきりと言わなかったのもあるが、汝が真剣に受け止めていれば理解できたであろう? この5年で学んだことはなかったのか?』
『うっ……そう、だけど! でも! 翼獣が一番優れているって! 母様も父様もみんなもそう教えてくれたの! 違わない、絶対に違わないのっ!』』
『汝の一番とは神よりも優れている、ということか?』
ウラヴィスの周りがズン、と重くなる。おお怒ったぁ?
この状況に慌てたのはオレよりもウルフの方だった。
『そうじゃないの、神様と比べるなんて、まさか!』
『翼獣は神を神とも思うとらんぞ。あの傲慢さは元々持っていたものだ』
『え……』
ウルフが絶句する。オレだって絶句してるぞ。
『あの種族は生まれが影響しているとは思うが、ちとやりすぎであるな。我からジェイルニークスに抗議する。これで変わらなければ、未来は閉ざされることになろう』
そ、そこまでいくのぉ!? ウルヴィス過激だあ!
ウルヴィスの冷たい視線を向けられたウルフが後ずさりして。
『傲慢って、そんな違う……未来がなくなる……うそ……どうして』
そのままふらふらと枝を離れ、どこかへ飛んでいく。
うん、その気持ちよくわかる。オレもどこかへ消えたい。
「キュウキュ…(怖かったっちゃ…)」
後姿を見送っていたウルヴィスの雰囲気が元へと戻った。
『やれやれ、これで気づいてくれればいいのだがな。ふう、我に似合わぬ態度は疲れるものよ』
に、似合わぬってあんた、すンごい迫力だったっすよ!? 思わずビビっちゃいましたから!
『実はの、あ奴をおぬしに託してあちらの大陸に戻そうと思っておったんだが』
「それはないな」
オレ、即答。ん? といった風情でウルヴィスがオレを見る。
「前に会ったときはそうでもないんだが、今回の件でわかった。上だ下だなんてことを気にするやつとはお付き合いは無理。そんな種族とも近づきたくない。ウルヴィスの頼みだけどパスってことで」
『わかっておる。あ奴は我が責任もって躾けよう。向こうとのやり取りも我がやろう。久方ぶりにあのお気楽鳥を締め上げてやるわ』
フッフッフ。と笑うあんた、完全に悪役モードじゃないか。
やれやれ……あ、そうだ。ひとつ頼んじゃおうかな。
ウルヴィス悪役に転向(?)
ちょい悪ドラゴン、で済む、のかな~……
どうなる、ジェイルニークス!?
てことで、この続きは閑話にします。
しばしのお待ちを。
おいでくださって有難うございます。




