第122話
オーリィが無双してます(笑)
『このヒト苛めないでウルヴィス兄! 助けてくれたんだから!』
バッサバッサと翼を上下に振り回し、ウルヴィスの鼻先にしがみついて訴える、イヌ? ウルフ?
「あれって……あの時のヤツ、か?」
思い当たるのはひとつ。タケル・マティスに出会う少し前に、オレと行き会った聖獣(?)。
怪我をし、皮まで見えるくらいにボロボロになった毛皮とやせ細った肉体。更にそこに巻き付いていた『呪縛』の蔦をオレが消し飛ばし、『走ってこい』と促した、あの時のウルフらしい。今は銀色に輝く翼と綺麗になびく体毛に包まれてあの時の倍くらいに大きくなっている。
『なに? 助けてくれたのはケインだったのか?』
『そう。体を治してくれたのも、『隷属』の蔦を壊してくれたのもこのヒトなの、だから怒るの駄目っ!』
何と、あの蔦は『呪縛』ではなくて『隷属』だったらしい。誰だそんな物騒なものくっつけたのは。
『そうか。よしよし、もう怒っておらんからな』
『ホント? もう怒ってない?』
『ケインは我にとっても大事なヒトの子よ。色々聞くだけだ』
『ん、わかったの』
そう言って、翼のあるウルフは鼻先を離れ、オレの肩に陣取る。どうして?
『ほほう。おぬし相変わらず好かれとるのう』
ウルヴィスの声が笑っている。
「……そこ、すわりが悪いだろ。ウルヴィスの方がいいと思うんだが」
『いやっ、ここがいいの!』
「そうか……」
溜息をついて諦めようとした、が。
「キュ~!(認めないだっちゃ~!)」
オーリィが頭のてっぺんで喚いた。
「キュキュッ!(そこはアチシの場所だっちゃ!)」
『え、アーミン……? ここには居たの?』
『ほうほう。ケインにはアーミンがすでに懐いておったか。これはこれは』
オーリィの声にウルフは首を傾げ、ウルヴィスは今にも笑い出しそうだ。訳が分からないオレは面白くもおかしくもないんだが。
「キュキュキュ!(その場所離れろっちゃ!)」
『どうして? あなたのような下位種に譲るつもりないよ?』
「下位種?」
何のことだ? 聞いたことのない言葉にオレが反応したら。
「キュ~~! キキキィ~!!(ムキィ~~! 許さないっちゃ~~!!)」
今までより数段甲高い声を発し、オーリィが姿を消す。と、ウルフの鼻先の宙に現れてガブリとひと噛み。
『いったーい!』
慌てて鼻先を押さえるウルフ。オーリィはもうその場におらず、ウルフの頭に移動してその両耳へガブリ、ガブリ!
『いい痛い痛いい~!』
更に姿を消して移動したオーリィ、ウルフの尻尾を両手でつかんでガジガジガジ、ガブガブガブリと盛大にかじっている!
『痛い痛いいったぁ~いぃぃ!! 助けてウルヴィス兄!!』
たまらずウルフは羽ばたいて肩を離れ、ウルヴィスの頭へ逃げていった。
「キュッ! キュルル!(ふんっいい気味だっちゃ! こっちで大きな顔するなだっちゃ!)」
当のオーリィはウルフのいなくなった肩で鼻息荒く仁王立ち状態。よっぽど癇に障ったのか、体の毛が総立ちしてひげがビリビリ震えている。ここまで怒ったオーリィ初めて見たなぁ。
『ウルヴィス兄、酷いの! アーミンが怪我をさせたの! こんなことするなんて、許さないんだから!』
涙目でウルフが訴えている。でもあれは傲慢な貴族の言い方にそっくりだぞ?
『ふむ、痛かったか。だが、今回悪いのは汝の方だ』
おや、ウルヴィスが庇わない?
『え、どうしてなの! アーミンなんて下位種でしょ!』
『その考え方をやめよ、と何度告げたか覚えておるか? 一体いつからそのようなことになったのやら……これはなんとしてもあのお気楽鳥に抗議せねば』
ウルヴィスにしては何やら不本意なことのようだ。
「なあウルヴィス、下位種って何のことだ?」
『それは……』
『そこのアーミンなの! そいつ、闇魔法の下位種なの!』
ウルヴィスが何やら言いかけたのに被せてウルフが吼える。憎々し気にオーリィを睨みつけ、齧られた尻尾を抱え込む。
『翼もなくて闇魔法を操る下位種なんかがそのヒトと一緒なんて許せないの!』
なんだこいつ、何を言ってる? オレの中にふつふつと怒りが沸き上がってきた。
『このヒト、凄い加護を持ってる。神の中でも上位の方。そんなヒトなら上位種が護りに就いて当たり前。だからアーミンは離れるの!』
「キキキッ! キュイキュッ!(誰が下位種だっちゃ! この大たわけのアンポンタン!}」
『なによなのっ! ね、上位種がいいよね、アナタも!』
「…………ろ」
『え、なんて言ったの?』
「いい加減にしろと言ったんだ、オレは」
『は?』
言われた言葉がぴんと来なくて、間抜け面になったウルフ。オレはその顔を睨みつける。
『ひっ!』
「上位とか下位とかぬかしてたが、それに何の意味がある? 第一、そんな理由でくっついてきてうまくやっていけるのか? 少なくともオレは仲良くなんてできねぇよ」
『ど、どうして!? 上位の神の加護は上位種の方がうまく伸ばせるって聞いてるのに……!』
「伸ばす必要なんてないからなオレは」
『!!』
「オレはオレのまま、ゆっくりこの世界で生きていけるならそれでいい。力を伸ばそうとか、伝説の人とかになるつもりはない」
期せずして古代魔法を覚えちまったけど、それだって使わずに済むのならその方がずっと良い。
…………パラメーターがカンストしてるからこれ以上伸びる余地はないなんて、こいつに教える気はさらさらないけどな。
「オーリィがどうしてオレについてきたのかなんて知らないし知る必要も感じない。嫌になったら離れていくかもしれないな。その時は笑って『さよなら』できると良いとは思うが……いててっ!」
「キュイキュイ! キュイイィッ!(馬鹿なこと言うなっちゃ! だぁれが離れてやるもんかだっちゃ!)」
オレの言葉が気に障ったのか、思いっきり耳を齧られた。ふう、気が立ってるときに言ったオレもまずかったな。
血が出ている部分を押さえて『ヒール』をかけつつ、オレはウルフに向けて言った。
「とにかく、オレとオーリィはついたつかないの話じゃない。ただ、一緒に旅をする仲間、友人なんだ。あんたが言う上位下位も関係ない。そんなもの焚火に放り込んで、今夜の晩飯の素にしてやるさ」
『そ、そんな、そんな……っ!』
オーリィと対峙していた時とは違い、おろおろと慌てふためくウルフ。大きな瞳に涙をため、耳が垂れた顔でこっちを見詰める様子はか弱いというか可憐というか、思わず構いたくなる。頭をなで、よしよしと抱きしめながら大丈夫だよと言ってやりたい、そんな気持ちにさせる。
でも、さっきまでの言動を知っているオレには逆効果だがな。あそこまで上から目線で言われたら、げんなりだ。こっち来んな。シッシッ!
そんな重たい空気を吹き飛ばしたのはウルヴィスだ。
『ブワッハッハッハッハッハッハ!』
大口開けてウルヴィスが笑う姿は圧巻だった。ついでに口から火を噴いているのはご愛敬、ということにしておく。
あまりの勢いに、頭にいたウルフが振り落とされた。まあ、翼があるからそのまま空中に浮いてるけどね。
『ハッハッハ、流石はケイン、簡単に切り捨ておったな』
くつくつ笑うウルヴィスは上機嫌だ。口元は緩んでいるし、後ろの尻尾も楽しそうに揺れている。聖獣から見たオレの発言は爆笑するほどおかしかったのか?
そのウルヴィスの顔の前にバッサバッサと翼を動かしてホバリングするウルフ。
『なぜ味方してくれなかったのウルヴィス兄! どうして悪いのっ!』
噛みつかんばかりに抗議するウルフをしっかり見つめ、ウルヴィスが言葉を紡ぐ。
『汝の言う上位下位の考え方は汝の種族だけにしか通用せぬよ』
読んでいただき、ありがとうございます。




