第121話
懐かしのあのヒトたち(?)が登場!
爺さんの黒い笑みに耐えられず、逃げるように外へ出たが、高原は相変わらずの風景だ。本当に目がおかしくなってくる。ここの植生はあの大戦の影響なんだろうな。見ていると痛々しくて……早くここを離れよう。
『世界地図』を開いて位置を確認していると。
突然、強い風がオレの周りで吹き荒れた。突風とは違う、魔力を伴った風だ。
オレを突き倒さんばかりに吹き付けてくる!
「なんだなんだ、何が起きたっ!?」
慌てて『バリア』と『身体強化』をかけて耐えていると。
『しばらくぶりであるな、ケイン』
懐かしい声が脳裏に響いた。上を見れば、大きな体がゆっくりと降りてくる。そして、ショッキングオレンジのど真ん中へ音もたてずに着地した。
大きな頭がゆっくりとこちらへ向き、以前見た琥珀色の瞳がオレを認めてやさしく細められた。
「ウラヴィス? ウラヴィスじゃないか、久しぶりだな! 元気だったか?」
目の前にいるのは旅に出てすぐに出会った聖獣ウラヴィスだった。
『おお。おぬしが塗ってくれた薬のおかげで、しっぽも傷まぬようになった。ほんに感謝しかない』
「そりゃよかった」
うんうん、痛みがなくなるっていいことだ。
「それよりどうしたんだ、何かあったのか?」
『なに、我の棲み処が近くにあるのだ。さっきかなり大きな魔力を感じたのでな、念のために見に来たのよ』
あ、『門番』を起こすための『門』を感知したのか。
「多分、オレの使った魔法の所為だ、それ」
『なんと。いや、おぬしならあれくらいの魔法は使いこなせるであろう。我の取り越し苦労であったか』
相変わらず、好意が突き抜けてるな。
「驚かしちまったみたいだな。済まん」
『いやいや、謝る必要はないぞ。じゃが……おぬし、ここで起こったことを知っておるか?』
「人族と魔族が争い、ひどく荒れた場所だと聞いている」
そう答えると、頷いてくれた。
『人も魔も体力の限りを尽くし、魔力を最大限振り絞ってぶつかりおった……その後遺症で大きな傷跡が大地に刻み込まれたままだ。年を重ねてようよう落ち着いてきたが、まだ不安定での、我も気にしていたところ、魔力が動いたので見に来たのだよ』
そうだったのか。なんか悪いことしたな。
『おぬしなら問題ないとは思うが、できればここで何をしておったのか、教えてはくれぬか?』
まあそうだよな。本当に要注意な場所みたいだから。
「ここにある古代遺跡をどうしても使いたくて『門番』……入り口の管理者を起動したんだ。壊れかけの中で何とか機能を維持していたから、それを何とかできないかと思ってさ。
で、管理機能だけは移行できたんだけど、それが精一杯だったようで本体は停止したんだ。オレには古代文明の機械なんて直せないしな」
そんな器用なことできないよ。でも……もし直せたら。
『門番』としてここに居てほしかったな。
『成程そうであったか……確かにあったな、ここには……ん? おぬし、何ゆえ古代文明の施設を知っている?』
首をかしげて訊いてくる様は、大きさこそアレだが、まるでビ〇ターの犬にクリソツ。
「あんたと別れてからいろいろあって、隣の大陸に吹っ飛ばされたんだ。帰ってくるには『門』魔法を覚えるしかなくってね。それにくっついてる『世界地図』でわかったんだよ」
そういうと、劇的な変化が起こった。あの穏やかなウラヴィスがクワッと目を見開き、鼻息を荒くしてオレに顔をググっと近づけてきたんだ! 噛まないとわかってるけど、怖い!
『な、なんと! あの古代魔法を使いこなしておるのか! しかも、隣の大陸へ、だと?』
「ああ。亀裂の海にかかってる障壁を超えるにはその方法しかないと、向こうの聖獣、ジェイルニークスに教えてもらったんだ」
『ジェイルニークス! あの極楽天気な火渡り鳥に会うたのか!』
ご、極楽天気、って。ウルヴィス、言いたい放題だな。
「あんたが言ったとおり、行く先々で聖獣と知り合ったよ。ジェイルニークスだけじゃなくてゴルディマーラとも話したしな」
『おお、あのむっつりともか。息災であったか?』
「二人?とも元気だったよ。ジェイルニークスなんか、永劫の焔の流れの中を一か月近く飛び回れるくらいに元気さ」
それを聞いたウルヴィスの頭ががっくりとうなだれる。
『そうか、それでか……ここ暫く地の底が揺れ動いていた原因は。あのお気楽鳥は、己が動くことの意味を理解しとらん』
あ~らら、ゴルディマーラと同じこと言ってるよ。異世界鳳凰ってヤンチャなんだな。
「あ~、今回はオレが頼んだことに関係してるんだ。怒らないでやってくれないか?」
『門』魔法を覚えるために、『虚空』のマギボードを探してもらっていたことを伝える。
『むう……そういわれると致し方ないとは思うが。それにしても、時間がかかりすぎているのだ。半分以上遊んでいたに違いない。あの、極楽お気楽鳥めは!』
わぁお、ジェイルニークスの呼び方がどんどん酷くなっていく。
『今回は大した被害が出ておらぬからよかったものの、もし何らかの影響があったら、念話で怒鳴ってやろうかと考えておったが』
え、念話って障壁を突き抜けられるの?
オレの疑問が顔に出ていたんだろう、ウルヴィスが頷く。
『相当に疲れるがな。非常時の連絡手段としてそれだけは許されておる』
そっか、少しは神も考えてるんだ。
『最も話せるのはわずか数分だし、再度使えるまでに10数年かかるが、な』
……前言撤回。やっぱ碌でもない神だったー!
どん引きしているオレに溜息をつくウルヴィス。思わず同情してしまった。
「ソ、ソウナンダ。大変ナンダネ」
『わかってくれるのか。やはりおぬしは得難いヒトの子よの』
琥珀色の瞳がうれしそうに微笑んだ。
まったく、ここの神は何やってんだ。地上の事を聖獣に任せっきりで、おまけに異世界人の召喚もやらせ放題とは。ちっとは仕事しろよ!
…………おかしなチートなんぞくっつけずにな。
心の中で一通り文句を並べて当面のストレスを鎮静させ、本来の話に戻る。
「そんな訳でオレはこっちに戻ってこれたんだ。ジェイルニークスなりに頑張ったんだから文句は勘弁してやってよ」
『そう、だな……我とておぬしが戻ってこなかったら寂しく思うだろう。そんな事態にならなかったゆえ、良しとすべきか』
なんとかウルヴィスを説得できたかな。
『それでこの後おぬしはどうするのだ』
「ここと同じような古代遺跡があるから行ってみようと思ってるんだ」
『ほぉお。何ゆえに?』
ウルヴィスが探るような目つきで訊いてくる。うん、いっそのことぶちまけようか。相手は聖獣だしな。
「今から行こうとしてる古代遺跡って結構危ないところみたいでさ。出来たら誰も入れないようにしようかな、と……ウルヴィス? 何か、あった……」
『その施設の物を使ってまた戦が起きるかもしれん、と?』
……ウルヴィスってドラゴン、なんだよな。とにかくでっかい。その体からぶわぁっと噴き出てくる、怒気?が半端なくきつい。
それに、すっごく察しがいい。怖いくらいに。聖獣はオレたちに干渉しないはずなんだけど、そんなことを言い出せる雰囲気じゃない。
「あの、ウルヴィス? 確実にそうなるんじゃなくて、ならないように、予防の意味で行くんだ、け、ど……」
『予防とな? ならば、そうせねばならぬ輩が存在する、そういう事だな?』
わあぁぁ、完っ璧に先を読まれたよ!
『その輩、いや、その馬鹿どもはどこに居る? おぬしは知っておろう』
どうする、どう言えばウルヴィスを止められるんだ!?
背中を汗が伝い落ちる。今日はなんて日だ、何回肝を冷やせばいいんだよっ!
瞳の奥に怒りを秘め、ウルヴィスがオレをのぞき込む。思わず目をそらしかけたけど、それは悪手だと直感的に感じた。だからこそグッと踏ん張って見返した、時。
バッサァッと何かの羽音がして、オレの頭に何かがおりてきた。そして、
『駄目っ! このヒト、助けてくれたヒト!』
そう言ってバッサバッサと翼をはためかせ、ウルヴィスの顔に張り付いた。
翼のある生き物だった。
来ていただいてありがとうございます。




