第120話
『門番』さん、危機一髪!の後に来るのは・・・?
「随分と人に近い物言いをする機械じゃったのう」
『門番』だった石を見下ろして爺さんがつぶやいた。そうなんだ、古代遺跡の『門番』ってみんなあんな風なんだろうか? 誰が設計したのか知らないけど、随分と変わった奴なんだろうな。
「さてケイン、中に戻るとするかの」
爺さんの声掛けに、オレも自分を取り戻す。そう、まだやることがある。
転移の魔法陣に秘薬を垂らそうとする爺さんを止め、オレはさっき使った魔器のペアを手に持つ。それは手のひらに握りこめる大きさで、杭の形をしていた。
ついているタグを取り外して魔法陣の横に打ち込むと、これまた抵抗もなく沈んでいく。さっきもそうだが、目で見ていても感性が追い付かない。
タグに自分の魔力を流し、ついでに爺さんにも魔力を流してもらう。これで完成だ。
「爺さん、ここに来てくれ」
「ん、なんじゃ、ここ……」
言葉半ばに爺さんの姿が消える。うまくいった! 続けてオレもその位置に立つ。と。
「……っておるんじゃあぁぁ!」
叫んでいる爺さんの後ろに立っていた。
ぽんぽんと肩をたたく。
「うおおっ、ケイン、これはなんじゃ、どうなっとるんじゃぁぁっ!」
そう、オレたちは施設のホール、上に行くときに使った魔法陣の横にいるんだ。
正確に言えば、オレが撃ち込んだ杭の真上、だな。
最初に行った古代遺跡。そう、魔器開発研究所から持ち出してきたひとつがこれなんだ。『短距離移動用門』と名付けられていたっけ。
飛ぶ先のイメージさえしっかりしていれば、『門』は何処へでも行ける。でも、そんなにしっかりと構築できる人は少ないし、何よりごっちゃになってしまったら、どこに行っちゃうか分かったもんじゃない。だからこそよく使う施設に『門番』を置き、『世界地図』に表示してあるんだろう。
この杭……『短距離移動用門』は、個人的に大事な場所へ、行きたいときに行けるよう工夫されたもの、らしい。2本一組になっていて、始点と終点に杭を打つことで両者を結び、双方向の転移が可能となる。
ついているタグに魔力を認識させれば、その人物もしくは許可された人のみが使え、無断侵入は不可能だ。今回は施設のホールと地上とを結んでいる。それもオレと爺さんの魔力しか認識させていないからほかの人間には使えない、専用のエレベーターだな。
こうしたことをつらつらと爺さんに聞かせて、タグを渡した。
「あの場所に行けばいつでも地上と行き来ができるから、秘薬を造る手間が省けるんじゃないかな」
「ケイン……」
タグを見つめ、オレを眺めて爺さんは大きくため息をついた。
「人外になったと思ったら、持ってるものも規格外になってきおったな」
なにそれ、その言い方は!? オレの扱い酷くねえ!?
爺さんに抗議しながらも、まずは食堂に入る。管理機能がうまく移行しているといいけど。
そんな思いを抱いていたんだよ、本当に。
でもさ、実際には。
『オ待チシテマシタゼ、ボス!』
どこかの組事務所のような出迎えを受けてしまった…………
『魔虹石採取所前ノ門番ORT127QZGカラ管理機能ノ
引継ギヲ受ケヤシタ、水分補給魔導機WRT378KT3
ト申シヤス。以後宜シクオ引キ回シクダセエ』
「「…………」」
機械に仁義を切られた。嘘だろ、なにこの言葉遣い。どっから持ってきた!?
あまりのことに絶句したが、さすが年の功、爺さんの復活は早かった。
「何とまぁ……下町言葉をこうも上手く喋るとはのう」
え、これって下町言葉なの? オレの言語翻訳機能、間違ってない?
『申シ訳ネエデスガ、貴族向ケノ言葉遣イハ出来ネェンスヨ。
アレハ記憶領域ヲ大キクトリマスンデネ。アッシノヨウナ
中級魔導機ハ、ソレダケデ動ケナクナッチマイヤス。
コレデ勘弁シテクダセエ』
「おお。十分じゃ。むしろ、儂はその方が気楽でいいぞい。お前さん、名前はあるのかの?」
爺さん、馴染むのが早すぎないか!?
『水分補給魔導機WRT378KT3ジャマズインスカ?
アッシハソレシカ持ッテマセンゼ』
「まずくはないが、長すぎるでの。ケイン、何とかならんか?」
「爺さん、オレに押し付けるなよ……」
「何を言っとる。お前さんが移行の指示を出してやらせたんじゃろ。なら最後まで面倒見るのが筋じゃろうが」
「……」
口で爺さんに勝てる訳がないよな、わかってたよ!
「……なら、『カトーサン』で」
「面白い響きの名前じゃのう。何か謂れでもあるのかの?」
「いーや、特にない。しいて言えば音感だな」
カ(K)トー(T)サン(3)。こじつけだけどな(投げやり)。
「だそうじゃぞ。『カトーサン』と呼んでいいかの?」
その問いかけに返ってきたのは、困惑の声だった。
『ナ、名前ヲクダサルンスカ!?
タカガ中級ノ水分補給魔導機ッスヨ、アッシ。
ホ、本気ッスカ!?』
「確かに中級だったんだろうな、今までは」
面白がっている爺さんの視線を感じながらも、オレは続けた。
「『門番』から管理機能を移行された時点で、『ただの中級』な訳がない。ここの中枢を担ってるんだ、名前がなくちゃ恰好がつかんだろ?」
言ってることに間違いないよな?
『……ソコマデ言ッテクダサルンスカ、アッシヲ!
アリガテェ、アッシミテェナ半端ナ機械ヲソコマデ買ッテクダ
サルトハ!
ヨウガス、アッシモ腹ァ決メヤシタ! 魔力ノ続ク限リ壊レル
マデ付イテイキヤスゼ、ボス!』
こいつもオレをマスター扱い、いや、事務所のボスにしたか……
もー、どーでもいいや。諦めた。
「……ああ、頼むよ『カトーサン』」
『任セテクダセェ!!』
…………どこぞの怖いおにーさんと師弟関係を結んだような会話だな、おい。
「この年まで生きてきたが、こうまで面白い目にあったのは初めてだぞい。長生きはするもんじゃのう」
早速出してもらったほうじ茶を手にして笑う爺さんに反論する気力も失せたまま、オレは目の前の地図に目を落とした。
今、オレたちは大釜のある部屋にいる。大きな机に地図を広げ、『世界地図』の光点の位置や名称を落とし込んでいるところだ。
「ふむ。こうしてみると古代王朝の呼び名は消えているところが多いのう」
名称を読み比べていた爺さんがひげをなでながら言う。
「そうだな。そういう意味ではゴラン山脈とラッテンヒル山脈がよく残っていたというべきなんだろうな」
「ほかの大陸でも同じなんじゃろうかのう……」
「今は確かめようがないぜ、爺さん」
『世界地図』を見上げて思索の海に突入しかけた爺さんを引き戻す。錬金術師って新しい知識を求めることに貪欲なんだよな。放っておくと何時間でもそのまま固まってるんだから。
「次に行かなきゃいけないところってどこだと思う、爺さん?」
「そうよなぁ……儂ならここを選ぶ、な」
お茶のカップを横に置き、指さしたのは。
「≪サンサールト地方 魔導機械工場≫…か」
「さっきお前さんがくれた『短距離移動用門』……だったな、あれも古代文明の道具のひとつじゃろう? 今の時代では作れそうもない代物じゃ。この魔導機械工場とて、何が置いてあるかわからん。ガルマン帝国なんぞが手に入れたなら……考えたくもないわい」
確かに正論だ。
「次に気になるのはここ、≪ダッカム山 魔石発掘鉱山≫じゃ。魔導機械工場と近いこと、お前さんが先に行ったカルト平原の魔器開発研究所に手が伸びていたことから考えても、ここは真っ先に標的となっておるじゃろう」
節くれだった指で次々とさし示しながら、グィード爺さんの話は続く。
「≪ゴラン山脈 魔石発掘鉱山≫はウーランダ公国領、≪ファスラス地方 魔導機器開発研究所≫はノイレマ・コット魔王国の目の届くところにある。≪ラッテンヒル山脈 ミスリル採取所≫はそのままドワーフの王国にあるんじゃろう。この3か所へは流石に手を出すまい。
≪トリプトコームズ山地 魔虹石採取所≫は儂がおるし、の?」
ほっほっほ、と穏やかに笑う爺さんの目は真逆だ。帝国の人間がここへ手を出して来たら……その結果は見るも無残なものになるだろう。嫌な汗が背中をつぅーと落ちていく。
いや、『門番』が完全停止して管理機能だけを施設内部へ移行している今、爺さんの魔法陣を消してしまえばここへ侵入なんてできるわけがない。オレの取り越し苦労で終わるはずだ。終わる、だろう……終わればいいな……終わってほしい……終わってくれっ!
「なぁにを震えとる。お前さんはとっとと出掛けんか。早ようせんと帝国に出し抜かれてしまうぞい」
そ、そうだった。ここに座っている暇はない。
「じ、じゃあ、行ってくる。後は頼むな」
「おお、任せとけ」
ここの確認は後でもできる。オレの知る限り最恐(?)の錬金術師が居座っているんだ。来た奴にご愁傷さまと手を合わせておこう……心の中で。
893のおにーさんになってしまいました^^;
更新日時がマチマチなのに、来ていただいた皆様、
ありがとうございます。感謝感激です!




