第119話
現在のラッテンサンド高原は?
『門番』さん、どこに居るかな~?
オレの目の前、そして周囲に広がっている風景は、確かに高原なんだろう。
膝丈の草が揺れ、ところどころに樹々が立っている、言葉で表現すればそれに尽きる。
真っ黒なキューブをでたらめに重ね、なおかつ捻じれた枯れ枝を天に突き上げている有様を「樹々」と称していいのなら間違いないな。
そして「樹々」を取り巻く草がすごい。
どの草も根元から半ばまでが赤黒く、まるで血を吸い上げたかのような色合いでありながら、そこで2、3回クルクルとねじれた後、色を激変させている。
高原いっぱいに広がって、線のように渦のようにたなびくその色はショッキングイエローと同系色のオレンジにピンク。風が吹くたびにそれらの色がなびき、混じり、さざめいて、非常に目によろしくない。
光をはじく効果を持ってるんじゃなかろうかと思うくらいに、目に痛い。ビタミンカラーなのにこの仕打ちはないだろっ。
「何だここ……どうなってるんだ」
オレは周囲の光景に呆然としてしまった。
「驚いたじゃろうケイン。儂とて最初に踏み込んだ時には腰を抜かしかけたわ。監視機関がなくなってからはここを訪れるものがなかったからのう、どうなっておるかなど、誰も気にしておらなかったわけじゃ」
というより、血塗られた場所として無視していたのかもなぁ。
大勢の人や魔族が亡くなって、そのうえ遺品も何も回収できなかったんだから、遺族にとっては見たくもないのかもしれない。
調査記録書は戦後10年目で途切れている。戦好きだった36代の魔王が大戦時の傷がもとで亡くなり、次の37代魔王が戦争推奨派を粛正するという英断に出て、敗戦で混乱していた国内を落ち着かせた後、人族との間に停戦条約を持ち掛けた年だった。
条約を持ち掛けられた人族の国々はおおいに混乱し、惑い、疑った。それはそうだろう、今まで魔族と言えば敵対するばかりで、友好的な付き合いなどしたことがなかったのだから。
人族が集まった会議は毎回紛糾した。魔族など徹底的に滅ぼすべきだという者、一切関わりを持たずに無視するのが正解だと主張する者が多い中、ある意見が出された。
『これまで我々と魔族は争うことしか知らなかった。我々は魔族
の文化を知らず、魔族もまた我々の文化を知ることがままならな
かった。
同じ大陸にいながら未知の文化があることはひとつの奇跡では
ないだろうか。この際、過去の遺恨を振り捨てて交流を図るのが
さらなる発展に寄与する鍵となるだろう』
この意見に喧々囂々と議論が沸騰したものの、最終的にはおおよその国にこの意見が受け入れられ、魔国からの申し入れから2年後に不可侵条約が結ばれたとなっている。
もちろん、この条約に反発する国もある。その最先端がガルマン帝国だ。
先の大戦でも様々な魔道具を使って魔族と対決し、それなりの戦果を挙げていた国であるからこそ、不可侵条約はただの言い逃れにしか見えなかったのかもしれない。
大戦のずっと前、『合成』を使って人と魔獣のキメラを造っていた過去を知っているだけに、帝国の武力に対する執着は変わらないのだと実感できた。
それより、確認しないといけないことがある。
辺りを見回せば、ショッキングピンクの波に埋もれている岩を見つけた。
「爺さん、この草に触っても大丈夫、だよな?」
「おお、何ともないぞ。色はすごいが普通の草ぞい」
爺さんの声に押されて岩に近づく。『鑑定』をかければ。
ラッ*ン*ンド高原(現*の地*)
**プト*ーム*山*(古代*朝**)
*虹石*取** 門*&*番
魔力*識**付き
※ 魔力の提示を願います。
ただし、現在は機能不順につき休眠中。
蓄積された残魔力が切れるまであと2時間
47秒28。
魔力回路が一部破損、修理不能。
採取所の管理代行者を選定してください。
選定されなければ採取所の機能が全面閉鎖と
なります。
「なにぃっ!」
「お、おお、どうしたケイン、大声を出しよって」
「これ、爺さんが使ってるあそこの番人……つまり管理者みたいなもんなんだけど、それが壊れててさ、あと2時間ちょっとで機能を停止するみたいだ。そうしたらあそこが使えなくなる、らしい」
「ぬわんだとぉ~~っ!!」
俺より大声で叫ぶ爺さん。そりゃそうだな、使い勝手のいい場所がなくなるのは困る。
「ど、どうしたらええんじゃ!」
「ん~、多分なんとかできる、かな」
壊れかかった古代文明の機械をどうすればいいんだろう。とにかく、休眠してるのを起こして聞いてみるか。
オレは『門』の術式魔法を流し込んだ。あの自販機に効いたんだから大丈夫だろう。
思った通り、内部でプログラムが立ち上がったようだ。何もなかった石の表面に光が走り、機械音声が流れた。
『魔力導入、ニヨリ、起動を再開、シマス。
・・・回路ガ一部破損、修理デキマセン。
現段階、デハ、門番ノ機能ガ維持デキズ、全テノ機能
ヲ失ウコトニナリマス。
早急ニ代行者を選定シテ、管理機能ノ譲渡ヲ行ウヨウ
提案シマス。』
『鑑定』でみたとおりだな。
「門番に尋ねる。代行者についての条件はあるか?」
『3点アリマス。
1、採取所内ニアル魔導機デアルコト。
2、5万魔素以上ヲ扱エルコト。
3、現行ノ機能ト両立デキルコト。
以上ノ要件ヲ満タシテイル魔導機デアレバ、代行ガ
可能デス。』
ふむ、その条件だとあの自販機も当てはまる、かな。しっかし、自販機が管理者ってのはどうなんだろう。
あ、ならアレはどうかな?
「食堂にある給茶機(?)は条件に合うかな?」
『・・・柱形状ノ水分補給魔導機デスネ。機能トシテハ
31%ガ当テラレテオリ、残リ69%デ管理機能ノ
代行作業ガ可能デス。
水分補給魔導機ニ代行サセマスカ?』
「ああ、頼む」
『了解シマシタ。
代行ノタメノプログラムヲ移植開始シマス。
作業時間ハ3分46秒、ソノアイダ連絡ガ
途絶エマス。少々オ待チクダサイ。』
なんか律儀な機械だなぁ。話し方も人間に近いし。
「ケイン、どうなっておるんじゃ?」
爺さんが気もそぞろに聞いてくる。あ、いけない、説明せずにやっちまったな。
「悪い爺さん、遅くなって。え~とな、この石がさっき言っていた『門番』なんだ」
「うむ、施設を管理しているんじゃな」
「ただ、その中の回路……魔法陣で言う接合部の一部が壊れた。本来ならこの施設は「開かずの扉」だったんだけど」
「偶然にも儂が開けてしまったんじゃな」
「爺さんの魔力とよっぽど相性が良かったんだろうな。でも、『門番』は壊れたままだったから、管理するのがギリギリで」
「なるほど。あと少しで使えなくなるところじゃったか」
「そういう事。いま、管理機能を『門番』から中の魔導機へ移す作業中なんだ。それでまた使えるはずさ」
「そうか。良かったよかった。本拠地が使えなくなると儂、泣いちゃうからな」
爺さんの涙なんていらねぇよ!
その後しばらくして、
『・・・移行作業終了シマシタ。
コレヨリアト、水分補給魔導機ガ疑似人格ヲ
持チマス。質問等アリマシタラソチラデオ答エ
スルコトガデキマス。
以上ヲモッテ、魔虹石採取所前ノ門番ORT
127QZGハ、全機能ヲ停止シマス。』
「……長い間お疲れさん。よく頑張ってくれた。ゆっくり休んでくれ」
『ッ・・・! 過分ナルオ言葉アリガトウ
ゴザイマス。
少シデモゴ要望ニオ答エデキテ幸イデシタ。
・・・マイ、マスター・・・』
『門番』の石が細かく振動し、わずかに光った後、沈黙した。それがこの魔導機の最後だった。
それにしても、どうしてオレの事を「マイマスター」なんて呼ぶんだ?
『門番』さん、やっと休息出来ました。
来ていただいてありがとうございます。
校正をやっていて遅くなりました。
何度見直しても訂正部分って出てきますね~。




