第118話
古代遺跡をブッキング!
ひとしきり『世界地図』を眺めて満足した爺さん、今度はオレにあれこれ聞き始めた、が。
「爺さんその質問には後にしてくれ。それよりも、今オレたちがいる場所はどこか教えてくれよ」
「うむ? 言わんかったか? 儂の隠れ家じゃ」
「そうじゃなくて、大陸のどこらへんかって聞いてるの!」
この造りに不明素材の物入れ、通路に設置された感知式のライト。ここはひょっとして。
「それとも知ったらマズい場所か?」
「そんなことないぞい。ここはの、ラッテンサンド高原の地下なんじゃ」
なんてことないように告げられた言葉に、思いっきり固まってしまった。まさかと思っていたことが大当たりだったとは……!
「儂が筆頭錬金術師長だと知ってはおるじゃろう? 若い時は功名心に燃えておってのう、とにかくがむしゃらに成り上がったもんじゃが……上に行くほど貴族の争いがひどくてな」
それは確かにそうだな。どこでもいつの時代でも、王侯貴族ってのは騙しあいの連続だし。
「針で突いたようなミスすら大げさに騒ぎ立てて人を蹴落とすような奴らじゃ、儂のような成り上がりには特にああだこうだとくちばしを挟みよる。いい加減嫌気がさしての、こっちから返上してやったわ」
そして各地を放浪して回ったんだそうな。なかなか無茶なことやりおるぞ、この人。
「ここは人族と魔族、最後の大戦の地じゃ。もう200年以上経っておるが、一度来てみたかったところでの」
大規模な魔法がさく裂した名残を探してみたいと前々から考えていたのだとか。
「で、見つかったのか?」
「時間が経ちすぎであろう? あったら儲けもの、ぐらいに思っとったんじゃ」
それでもあちこち歩いていたら。
「地面に空いていた穴に落っこちての、ここを見つけたんじゃ」
びっくりしたんじゃぞ、ここの内部には~、などと気楽に言ってるが。
「その時って攻撃……というか、罠やトラップが動かなかったのか?」
「うん? 特になかったのう。次々に灯りがついておったまげたが」
なんだかおかしい。
ここが古代遺跡のひとつだとしたら、前に行った魔器開発研究所と同じような防衛機構があったはずだ。第一、入り口となるところに門番がいなきゃいけない。あの時だって魔力認識させて入ったんだから。
いや待て、逆か。それと知らずに認識させたのかもしれないな。
「爺さん、その穴に嵌まる前何やってた?」
「前か……そうさのう、この近辺を歩き回って…木に触れたり、邪魔な岩を転がして除けていた、かのう……」
「それだ!」
ここは大戦の地。地上の覇権をめぐり、誰もが死力を尽くして叩き合った場所だ。
古代文明の超技術が籠められているとはいえ、少しは劣化していたかもしれない。そんなところに、大出力の魔法やら攻撃やらを浴びせられたら……門番も壊れるだろう。
それにしても、爺さんがここを見つけたってのはすっごい幸運だったんだろうな。
「爺さんが落ちた穴ってどうなってるんだ?」
「むろん、今はふさいである。おかしな輩に入り込まれたくないのでな。それよりもケイン、この場所に心当たりでも……え?」
言ってるうちに気づいたんだろう、爺さんの顔に焦りが浮かんでくる。
オレは黙って『世界地図』をもう一度表示し、アルカン・ロスト大陸をズームアップした。
「これがこの大陸だよな。いくつか光点があるんだが、そのひとつがここだ」
オレが指さしたのはラッテンヒル山脈とゴラン山脈の結合部分だ。
大陸の北から南西に向かって力強く伸びるラッテンヒル山脈と、その中間から東へ延びるゴラン山脈。どちらも峻厳な岩肌と豊かな植生を抱えており、ヒトにも獣にも等しく恩恵と試練を与える存在となっている。
その二つの山脈の結合部分にあるのがラッテンサンド高原。
オレはそこにある光点を指す。
「爺さんの言葉が正しければ、ここは古代文明で言う≪トリプトコームズ山地 魔虹石採取所≫だと思う。土地の名前はその時々で変わるからあてにはならないけれど、この光点は魔力で指定されたものだから間違えようがない。爺さんは古代遺跡をそれとは知らないで使っていたんだ」
「ここが……古代遺跡……?」
あんぐりと口を開ける爺さん。その表情を見るのは2回目か。うん、面白い。
「本来なら遺跡の入り口に『門番』がいて、魔力認識で開閉していたはずなんだけど」
「あの大戦で壊れてしまった。そういう事じゃな」
開いていた口を閉じてグィード爺さんがつぶやく。
「全部が全部壊れているんじゃないと思う。まだ一部が生きていて、爺さんの魔力に反応したんだろう。だから施設が使えているんだ」
「なるほど。じゃが、儂では根本的に魔力の総量が少ない、か……質が違うからか、このベントーの機械も飲み物の機械も動かなかった、そうじゃな?」
「たぶん、それで合ってると思う」
さすが凄腕の錬金術師だ、自力で答えにたどり着いたな。
「となると、外に行って確認だな。爺さん、地上へはどうやって行ってるんだ?」
「こっちじゃよ」
爺さんに続こうと立ち上がるが、オーリィがひっくり返ったまま動かない。見ると、スピスピと寝息を立てている。警戒心ゼロの姿に呆れてポケットの中に放り込んだ。
爺さんはと見れば、大釜の置いてある部屋を横切って薄暗いホールの方へ歩いていく。オレは足を急がせた。
足元に点々とつく灯りの中、中央に描かれた魔法陣をよけて隅っこへ向かう爺さん。そこには二回りほど小さな魔法陣が描かれていた。
「穴はしっかり塞いだんじゃが、外との行き来が出来んでは困るじゃろ? じゃからこれはすぐ上の場所へ行くための魔法陣なんじゃ」
転移用の薬を作っておくのが面倒じゃがの、とぼやく爺さん。
それを聞いて、オレは或るモノを思い出した。『ストレージ』からそれを取り出して魔法陣の横へ打ち込む。それほど力をかけてはいないのに、それは幽かな光を発して地面へと沈み込んでいった。
ここ、かなり硬い岩盤なんだけど?
「ケイン、それはなんじゃ?」
「或る所で手に入れたんだけどさ。あとで説明するよ。それよりも地上へ行こう」
爺さんをせかして地上への魔法陣を起動させる。青い魔法薬を垂らすと、魔法陣の上に小さな渦ができた。
「これは時間が短いでの、急ぐぞ」
爺さんに続いて渦をくぐると、そこはまさしく地上だった。
だが……
「じ、いさん……これ、ここの風景は……」
「ここがラッテンサンド高原……かつての大戦があった場所じゃよ、ケイン」
この場所は戦が終わってもしばらくの間は踏み込めなかったと、その時の様子を書いた記録文や報告書は伝えている。大地そのものが戦の時に放出された力の負荷に耐え切れず、延々と燃え続けた、と。
そしてその火が消えた後、大地から立ち上がった大竜巻が争いの痕跡を残さず巻き上げ吹き払い、天高く舞い上げていったという。あとに残されたのはぼこぼこに穴の開いた無残な大地だけだった。
ヒトも魔も、武器も防具も何もかも燃やし尽くし、そして天へと召されていった、あれは神の怒りだったのだとまことしやかに囁かれたのだという。そのため、調査隊がこの地に来るには二年かかったそうだ。
その時点でも、ここは荒れ果てた大地とえぐり取られた穴だけがあり、草木はもとより苔すらもなかった、と、当時の記録書には残されている。
その後も数年間は草ひとつ生えなかったそうだが……。
目の前にある高原は、そんな予備知識を持った人間をあざ笑うかのように姿を変えていた。
爺さんが古代遺跡を使っていたとは……!
ケインもまさかの展開でした。
今回も来てくださって有難うございます。




